No.687 お母さん議員の教育再生

60年ぶりの教育基本法改正の原動力は、家庭と地域の実情を知るお母さん議員だった。

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■本稿はステップメール講座「教育再生」に収録されています

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JOG Step 教育再生 開講
http://jog-memo.seesaa.net/article/201305article_2.html
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■1.行動派・山谷えり子議員

 山谷えり子参議院議員は行動派である。拉致議連(北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟)の副会長として、拉致された横田めぐみさんの母・早紀江さんと一緒に平成15(2003)年3月、訪米し、アーミテージ国務長官などと面会してこの問題を訴えた。

 平成18(2006)年4月には、内閣府政務官(拉致問題担当)として再び横田早苗さんと訪米し、ブッシュ大統領との面談、および米下院公聴会に出席した。

 さらには国連で北朝鮮の拉致問題が議題として出される場合に備え、黄熱病などの予防注射をたくさん打って、アフリカ諸国を根回しして回った。

 海上自衛隊のインド洋補給活動に関しては、インド洋上で補給艦「とわだ」と護衛艦「はるな」に乗艦し、50度を超す甲板上で働く自衛官の姿を見るとともに、給油を受けた各国責任者の声を聞き、さらにはアフガニスタンまで訪ねて、カルザイ大統領とも会っている。

 自民党有志64名が毎月1万円を積み立てて、アジア各国に小学校校舎を年1校づつ建てる「アジアの子供たちに学校を作る議員の会」のメンバーとして、タイのチェンマイから車に5時間も乗って、校舎を寄付した山岳民族カレン族を訪問したこともある。

 現場に赴いて直接人々と語り合う姿勢は、政治家として貴重である。先の某首相のように、20数年も衆議院議員として膨大な歳費を受け取りながら、沖縄の米軍基地が抑止力を果たしていることすら知らなかった空理・空論・空想・空言主義とはまさに対照的だ。


■2.先生が授業中立ち歩いている子に注意できない!?

 そんな山谷議員にとっても、教育はもっとも現場経験の豊かな分野である。一男二女の母親であるとともに、主婦向けの生活情報誌「サンケイリビング新聞」の編集長まで務めているのであるから。

 平成18(2006)年9月、安倍内閣が発足して、内閣総理大臣補佐官(教育再生担当)兼内閣官房教育再生会議・担当室事務局長に就任してからは、教育再生に全力で取り組んだ。

 現場主義の山谷議員らしく、教育再生への取組みに際しては、現場を訪ねて、多くの先生に意見を聞いた。すると「授業中立ち歩いている子に『座っていなさい』。あるいは『後ろで立っていなさい』と言えるよう、文科相は通知を出してください」「授業中、携帯電話をしている子の電話を預かれるよう、通知を出してください」という声が先生方から寄せられた。

 山谷議員は、初めは先生方が何を言っているのか理解できなかった。先生が行儀の悪い子を注意するのは、当然だと思っていたからだ。ところが教育現場では「先生が生徒を強く注意してはいけない」「先生が子どもたちに何々をしなさい、何々はするなということが、子どもを抑圧することになる」という意見がまかり通っていたのだ。


■3.子供を暴走させる「子どもの権利」

「そんなバカな」と驚きつつも、実情を調べていくと、とんでもない実態が明らかになっていった。革新系の自治体では「子どもの権利条例」なるものを制定している。

「親がどこに遊びに行くのか聞かれても答えなくていい権利」「朝ご飯を食べることを強制されない権利」「授業中に立ち歩きたいありのままの権利」等々である。

 こうした「子どもの権利に関する条例」を制定した川崎市では、担任の先生から授業中に立ち歩きしたことなどを理由に大声で叱られ、精神的苦痛を受けたと、保護者が人権オンブズパーソンに申し立てを行い、「人権侵害」と判断された教師が謝罪した例が報告されている。[1,p89]

 先生が立ち歩きする生徒を叱れなければ、やがてクラスは学級崩壊に陥り、他の生徒は教育を受ける権利を侵害される。また授業中に立ち歩きをする生徒も、そのまま社会に出たら、まっとうな職業につけるはずもない。これこそが真の人権侵害のはずである。

 中学校の「保健体育」の教科書(大日本図書)には、「自分らしさはどうつくられていくのでしょうか」という項目に、親に対する反抗の形態が資料として載せられている。[1,p90]

「親を無視または親と話さない。親をさけて部屋に閉じこもる。親と会いたくなくて外出する。親に口答えする。親にいらいらしてものに当たる。親に対して暴力をふるう」とご丁寧にいくつもの反抗パターンを記している。

「子どもの権利」「自分らしさ」という通りのよいスローガンで子どもを暴走させ、学級崩壊や家庭崩壊に向かわせているのである。


■4.「ゆとり教育」が「ゆるみ教育」に

 教育現場の悲惨な事実として学力崩壊もある。10年近く前に「ゆとり教育」で円周率の3.14を3と教えることになった時、山谷議員はたまらずに国会で猛反対した。

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 割り切れない円周率は、お星さまの向こうまで数字を並べてもまだまだ続く。これは神秘そのもので、ここから科学への好奇心や追求が始まるのに、おおよそ3にして知的好奇心と神秘への感性はどうなるのか?と文科相の役人に聞きました。

「小数点以下2桁を計算するのは負担になりますから、おおよそ3でいいと思います」

というのが答えでした。これは学問の感動というものがまったくわかっていない発想です。[1,p80]
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 地理でも、47都道府県の位置や名称を教えないので、北海道がどこにあるのか分からない子が半数を超えていた。中学3年間の英語の必修単語を507から100に減らしてしまったため、中国、韓国、台湾と比べても、3分の1から5分の1の単語しか教えられていない。

「ゆとり教育」という美称の陰で、現実は日教組や左派の教育学者たちが暗躍して「ゆるみ教育」にしていたのである。


■5.戦後の宿題、教育基本法の改正

 教育現場で問題意識を燃やしてきた山谷議員は、安倍内閣での教育再生担当の総理大臣補佐官として、「教育基本法」改正に取り組んだ。戦後すぐの昭和22(1947)年、占領軍主導で制定された教育基本法を60年ぶりに改正するという、まさに戦後日本がやり残していた宿題の一つを解決する大仕事であった。

 改正の趣旨は、前文の違いに明瞭に現れている。

【改正前】
 われらは 個人の尊厳を重んじ真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。

【改正後】
 個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統
を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する。

 改正前の教育基本法には「個人」は登場するが、「公共の精神」も「伝統」も出てこない。横糸としての家庭や社会の中での個人、そして縦糸としての歴史伝統の中での個人という位置づけがなされていない。[a]

 その行き着く先が、授業中に立ち歩きをする生徒であり、親を無視する子どもなのである。そのおおもとを正そうというのが、教育基本法改正の狙いであった。

 安倍内閣は、この教育基本法改正を「戦後5大長時間審議」の一つに数えられるほど、長時間の丁寧な審議を続けた。答弁の準備に、朝の3時、4時までかかった事も再三であった。

 一方、国会の外では、日教組の現役の教師達が授業を放り出して、座り込みの反対活動をしていた。


■6.学力調査で見えてきた学力格差

 その後、安倍総理は辞任したが、入院先から山谷議員に電話をしてきて、「法律を変えただけではまだ十分でないから、引き続き補佐官として現場の制度調整をやって、予算をつけるまで見てほしい」と言った。

 安倍総理の山谷議員への期待は後継内閣にも引き継がれ、次の福田内閣では補佐官として教育制度を整え、麻生内閣では大きな教育再生予算をつけることができた。

 制度としての大きな柱は、全国学力調査であろう。43年間、日教組の反対で行われていなかったが、それを安倍内閣で再開し、あわせて体力調査、生活習慣調査も開始した。

 この調査の結果、学力格差の存在とその要因が見えるようになってきた。学力テストで1、2位となった福井県、秋田県は3世代家族が多く、「早寝早起き朝ご飯」がしっかりできており、地元の行事にも積極的に参加し、ふるさとの偉人の話などをよく教えている。子供たちが家庭や地域社会という横のつながりと、歴史伝統という縦のつながりの中で育てられているのである。

 一方、日教組左派活動の活発な北海道、沖縄県、高知県、三重県、大阪府などは学力調査で下位に並んだ。「子どもの権利」などと甘やかされ、「ゆるみ教育」しか受けず、また先生も組合活動で「自習」ばかりとなれば、学力低下も当然である。

 大阪の橋下知事は山谷議員の部屋にやって来て、「大阪の子供たちがかわいそうだ。子供がバカなんじゃない。大阪の行政が不誠実なんだ」と話した。その後、大阪府は朝ご飯と挨拶、読書、宿題、補習を徹底的に行うようにしたら、3回目の学力調査では35位まで浮上した。

 健康を増進しようとしたら、まず健康診断を受けて、どこが悪いか判断するのが科学的アプローチである。それが43年間も日教組の反対で行われていなかった。まさに「戦後の宿題」の一つが解決されたのである。

 しかし民主党政権になって事業仕分けにより、全国学力調査はサンプルをとる方式に変わった。全国学力調査をやめても浮くのはたった21億円、高校無償化4500億円のわずか0.46%に過ぎない。

 民主党を支える日教組の要求通り完全廃止にしたかったが、さすがに国民の7割以上が賛成しているのを、そこまではできなかったのだろう、というのが、弊誌のかんぐりである。


■7.縦と横のつながりの中で子供を育てる

 家族やふるさとという横のつながり、伝統文化という縦のつながりの中で子供を育てていく、という考え方を、どう具現化していくか。山谷議員は、これまた現場主義のお母さん議員らしく、心配りのこもった制度を作っていった。

 たとえば「放課後子どもプラン」。地域ボランティアと子供たちが放課後に遊び、学べるという制度で、各小学校に440万円の予算をつけた。学校だけでなく、家庭、地域、産業など、「社会総がかりで教育再生を」という考えで、教育現場からの評判も良かった。

 縦のつながりとしては、学習指導要領に、神話、昔話をたくさん入れることにした。唱歌、神話・民話・昔話、ふるさとの偉人伝などの教材を地方の教育委員会がつくる場合には、国がお金を出す仕組みを作った。

 たとえば山口県の吉田松陰ゆかりの明倫小学校では、30年ほども松陰の言葉の朗唱を続けている。山谷議員が訪問した時には、1年生の教室で、子供たちが背筋を伸ばし、あごを引いて「今日よりぞ 幼心を打ち捨てて 人と成りにし 道を踏めかし」と朗唱していた。

 武道の授業も、中学男女必修となった。「道」を究める精神性、礼に始まり礼に終わるという相手を尊重する心、平和を願う心を育ててほしい、との願いからだ。柔道、剣道、相撲の3種目が学習指導要領に明記され、合気道や空手道、弓道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道も地域の実情に応じてすすめている。

 中学校で武道場を地元の木材でつくる場合は、満額国庫補助とするという支援を決めたが、これも民主党政権でストップされ、残念がる市長たちの声が山谷議員に寄せられているという。


■8.国民のあげた「教育再生」への声

 民主党の政権奪取により、かつての日教組路線が復活し、山谷議員が中心となって進めてきた教育再生の動きがストップしていた。しかし、ここに来て、また潮目が変わりつつある。

 民主党政権によりサンプル抽出方式に改められた全国学力調査だが、昨平成22(2010)年度は、サンプルとして抽出されなかった小中学校の63%が参加を希望し、結局抽出された学校と合わせて、参加率は73%に上った。秋田、和歌山などの11県では県内の全公立小中学校が参加、福井、大阪など10府県でも90%を超えたという。[2]

 こういう教育現場の圧倒的な支持を受け、文科省は全員参加方式で数年に一度行うという案を専門家会議に示し、多数の支持が得られた[3]。民主党政権に気を使ってか、毎年実施とはしていないが、いずれ完全復活となるのではないか。

 政権さえとれば何をしても良いと思っている民主党の独裁的な日教組路線に対して、国民が自らの声を上げたということだろう。

 教師、父兄、地域住民などみなが教育再生を考え、その声を山谷議員のような現場主義の政治家が吸い上げて国政に反映していく、それこそが民主政治のあるべき姿である。そしてそれは国政再生への道でもある。

(文責:伊勢雅臣)


■リンク■

a. JOG(465) ないないづくしの教育基本法
 現在の教育基本法には、家庭教育、幼児教育、地域教育、文化伝統教育、環境教育の視点がない。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h18/jog465.html

b. JOG(352) 山谷えり子 ~ お母さん議員、奮闘す
 行きすぎた性教育から子供たちを守り、家族が支えあう育児・介護制度を目指すお母さん議員の戦い。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h16/jog352.html

c. JOG(442) 「科学から空想へ」 ~ 現代日本の教育思想の源流
「子供の権利」「自己決定権」「個性尊重」など の教育思想の源泉にある「空想」。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h18/jog442.html

d. JOG(669) 「政治から教育を変えていく」日教組戦略
 「私はこんなことをするために教員になったのではない」と、選挙活動を強制されている教員は思った。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h22/jog669.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 山谷えり子『日本よ、永遠なれ ~止めよう、民主党政権の独裁と暴走~』★★★、扶桑社新書、H22
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/459406163X/japanontheg01-22/

2. 読売新聞、22.03.05「全国学力テスト、小中学校の73%が参加」

3. 産経新聞、23.02.19「学力テスト全員参加復活案 専門家会議が支持」


■「お母さん議員の教育再生」に寄せられたおたより

■哲也さんより

今回のテーマは、日本が抱える様々な問題の根幹だと思います。

教育は、人が人として社会の中で生きていくために必要なことを教えるものです。

利己的な欲望を抑える
物事の善悪を見極める
困難を乗り越える
克己利他
復礼の精神、等など

幼い頃よりどのような教師に導かれ、何を学んだかで子供は大きく変わります。

私は20歳から現在までの17年程、「JOG-Mag No.687 子供が喜ぶ武士道論語」で紹介を頂いた瀬戸先生の下で学ばせて頂いております。手前味噌になり恐縮ですが、そこで学ぶ子供らは立派に成長してきており、とても心強いものがあります。

例えば、高校1年生の女子塾生は、日本の現状を見て「変えるべきは報道と教育だ」と思い至り、自分が進むべき道を悩みつつもしっかりと考えています。

また、親の転勤のために昨年、渡米した小学5年の男子塾生は、「子供が喜ぶ論語」の感想文で尖閣諸島問題を題材に書きました。感想文には、論語にある「義を見てせざるは勇無き也」を引き合いに「尖閣諸島問題における日本政府の対応はおかしい。悪いことは悪いとはっきり言わなければいけない」との内容でした。

もし、この様な子供らが増えてきたら、困るのは誰でしょうか?「子供の権利」などと耳触りのいいことでごまかし、自分たちのイデオロギーのために子供らを犠牲にしてきた、「教師」ということをあばかれる「日教組組合員」です。そして、日教組の影響を受け、知らない間にその考えが思考に定着してしまった日教組に入っていない「一般的な教師」や「大人」です。

教育は、人の基本であり、国の根幹です。非力ではありますが、少しでも良い教育の役に立てるよう頑張って参ります。


■編集長・伊勢雅臣より

 教育は誰でも自分の周囲から取り組めます。「一隅を照らす」志で、頑張りましょう。



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