No.800 東京ドームの聖なる夜景 ~ WBCで通い合った日台の真心
「311支援 謝謝台湾」「日本人は永遠に台湾人の真心を忘れない」など、多くのプラカードが観客席から掲げられた。
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■800号到達の御礼(伊勢雅臣)
本号にて、弊誌は800号に到達しました。平成9(1997)年9月6日の創刊以来、あしかけ17年、読者の皆さんのご声援に支えられてきました。
記念事業として始めたステップメール講座「教育再生」へのお申し込みも順調にいただいており、その際に寄せられた多くの励ましのお便りに感激しております。個別にご返事を差し上げられませんが、本紙面をお借りして、御礼申し上げます。
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http://jog-memo.seesaa.net/article/201305article_2.html
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■1.「この清々しさはなんだろう」
本年3月8日、東京ドームで行われたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)第2ラウンド日本-台湾戦は、まれに見る名勝負だった。
メジャーリーグでも活躍した王健民投手が日本を6回まで無失点に抑える間に、台湾は3回、5回と1点ずつ入れた。8回表に日本が2点を入れて同点に追いつく。その裏、すぐさま台湾は1点追加したが、9回表に再び、日本がしぶとく同点に追いつく。
10回表、日本がヒットをつないで、1点リード。その裏の台湾の攻撃を零点に抑えて、ようやく1点差の勝利をものにした。両軍の激闘に、4万人超の観衆のウェーブが何度も起こった。
試合後、珍しい光景が見られた。台湾の選手たちがマウンドに集まり、観客席に向かって360度の円陣を作り、帽子をとって深々と一礼したのである。その姿に、観客席からも惜しみない拍手が送られた。その光景は、通常の試合中継では映されず、後日、フジテレビの「Mr.サンデー」で報道された。[1]
その光景を見た人々から、ツイッターで次のような発信がなされた。[1]
__________
・選手全員がマウンドで一礼する姿は、ほんと感動した。タイワンの人いい人すぎ泣いた。
・私達日本人はその強さ、優しさに感謝と敬意を表明し見習いたいです。ありがとう(^_^)
・この清々しさはなんだろう。まだ敗者復活もありうる。決勝でまた戦えたら最高だよ。
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■2.「WBC日台戦で台湾への感謝のプラカードを」
「この清々しさ」の発端は、試合数日前に、「もののふ庵」さんから発信された次のようなツイートだった。
__________
WBC、日本は初戦が台湾に決定。この試合を見に行かれる方、先般の東日本大震災への台湾からの多大な支援へのお礼の横断幕やプラカードをお願いします。WBCを通じ、日本と台湾の信頼関係を深め、私達が本当に感謝している事を伝えて下さい。[1]
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台湾と日本は、過去大地震のたびに、互いに心の籠もった支援をしてきた。たとえば、1999(平成11)年の台湾大地震で3階建ての校舎が全壊した台中市の健民国民小学校には、阪神大震災で被災した兵庫県などから多額の募金が送られ、新しい校舎が建てられた。
東日本大震災では、その新校舎で学ぶ子供たちが「恩義を忘れない」という校長の呼びかけに応えて、お小遣いを持ち寄り、合計190万円が日本赤十字社に送られた。[a]
そうした子供たちの善意の寄付も含めて、台湾は世界最大級の200億円をこえる義援金、400トンもの支援物資、いち早くの救援隊を送ってくれたのだった。
「もののふ庵」さんの呼びかけは、ツイッター上で多くの人々の賛同を呼び、拡散されていった。
■3.「2年もたっているのに日本人がまだ覚えているなんて・・・」
「もののふ庵」さんの呼びかけは、翌日には中国語に訳され、台湾でもツイッターで広がっていった。「これ見ただけで涙が出てきました」「台日友好! バンザイ!」などとの発信が続いた。[1]
「Mr.サンデー」で、インタビューされた青年は、携帯でその中国語訳のツイートを見せながら、こう語る。
__________
友達から送られてきたんだけどとても感動しました。2年もたっているのに日本人がまだ覚えているなんて・・・
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台湾のニュースにもとりあげられ、「ネット上で台湾に感謝の気持ちを伝える横断幕を試合中に掲げようと呼びかけている日本人がいます」と報じられた。
さらにある日本のテレビの日程表で「台湾代表」と伝えられている事も、台湾メディアで報じられた。オリンピックなどの国際試合では中国の圧力で、「台湾」や「中華民国」という名称は使えず、「チャイニーズ・タイペイ」と呼ばれている。
「台湾」と呼ばれた事に関して、こんなツイートも発信された。
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日本だけが台湾を台湾と呼んでくれる。・・・台湾を尊重してくれる彼らに感動しました。私からも日本人にありがとうといいたい。私はあなた達を愛してます(ハート・マーク3つ)[3]
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■4.台湾-韓国戦で吹き出した反韓感情
「もののふ庵」さんの呼びかけに触発されて、台湾でも真心の籠もった発言が続いた。
たとえば、「緊迫している釣魚島(日本名・尖閣諸島)事件など敵意を表すやり方は、日本に来て、この(試合の)時に行うには適しない」などと呼びかける人も出た。先のオリンピックで韓国サッカー選手が試合後、領土問題に関するプラカードを掲げたような愚劣な真似はしないように、という意味だろう。[2]
また、こんな発言もインターネットで流れ、さかんに拡散された。
__________
東京にWBC観戦に行かれる野球ファンのみなさまへ。台湾対日本戦であろうが、他の国との対戦であろうが、球場では過激な内容の横断幕やプラカードを掲げないでください。日本の方がツイッターで拡散されている内容(上記の投稿の中国語訳)をご覧ください、このような状況下で、我々が見苦しいメッセージを掲げれば、恥をかくのは我々です。[4]
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この発言の背景には、3月5日に台湾で行われた韓国-台湾戦で、嫌韓感情を露骨に示したプラカードが多数、掲げられた、という事実があった。北朝鮮の金日成、金正日、金正恩の3人の写真を並べて世襲独裁政権を皮肉ったり、韓国選手を戦車で踏みつぶす漫画を描いたり、という内容だった。[5]
■5.反発には反発が、好意には好意が返ってくる
台湾の嫌韓感情も根強い。2010年に行われた広州アジア大会の女子テコンドー49キログラム級予選では、台湾のスター選手が勝利寸前に失格判定を受けるという不可解な判定をめぐって騒動に発展した。台湾の国会では韓流コンテンツの放送を規制する法案が提出され、市民らは韓国製品の不買運動を繰り広げて反韓感情をあらわにした。[6]
韓国は今までオリンピックやワールドカップなど多くの国際競技で、疑惑の判定で勝利したり、また相手国に対する非礼なプラカードなどで不興を買ってきた。平成14(2002)年に日韓共催で行われたサッカーワールドカップでも、韓国と対戦したイタリア、ポルトガル、スペインがいずれも不可解な判定で敗れ、世界中のマスコミから非難が集中した。[b]
台湾-韓国戦の後に行われた台湾チームの東京ドームへの壮行セレモニーでは、一人の台湾選手が、マウンドに台湾国旗を立てた。
これは2006年と2009年のWBCで、韓国チームが日本を破った直後にマウンドに韓国旗を立てた行為を皮肉ったものである。田中将大投手が激怒して引き抜くなどの一幕もあったが、韓国チームはその後、残りの試合を勝てなくなったという因縁がある。[7]
また、1次リーグで早々と敗退した韓国チームに対して、韓国マスコミからは、、「韓国の試合はすべてナイターで、寒かったから力が発揮できなかった」、「球場の練習設備が悪かった」、挙げ句の果てには、「台湾の料理が塩辛かった」と言い訳の声が上がった。普通の国なら、お世話になったホスト国に感謝すべき所なのに、これでは反韓感情に油を注いだだけだろう。
「韓国は多くの国から嫌われてるけど、その理由は結局韓国人自らが作り上げて来たんだよね」とは、ある台湾人のツイートである。[7]
台湾-韓国間の反発と、日台相互の友好ムードとを合わせ考えれば、二つの国民の間の感情は鏡のようなもので、反発には反発が、好意には好意が返ってくるのだろう。そして、互いへの好意や敬意の中でこそ、選手がプレーに集中し、観客もその奮闘ぶりに魅了されて、好試合が生まれるのではないか。
■6.「感謝 TAIWAN」のプラカード
いよいよ8日の夜に行われたWBC日台戦は台湾の人口24百万人のうち、半数の12百万人がテレビや大会場、広場などでのパブリック・ビューイングで観たと言われる。
「もののふ庵」さんの呼びかけに応えて、後楽園ドームのスタンドから、次のような手書きのプラカードがあちこちに掲げられた。
「感謝 TAIWAN」「台湾謝謝」「311支援 謝謝台湾」
「2011.3.11 ありがとう台湾 日本人永遠不會忘台湾人的真心(日本人は永遠に台湾人の真心を忘れない)」・・・
球場の大型スクリーンで、それらのプラカードが映し出されるたびに、試合中にもかかわらず、観客席から盛んな拍手が送られた。
この様子は、台湾のニュース・メディアが放送した内容を、以下のYOU TUBEで見ることができる。球場内外での日台の真心の交流が直に伝わる映像である。
中天新聞》「謝謝台灣」日本球迷場温馨舉牌
(「台湾ありがとう」日本の球場で温かいプラカード)
http://www.youtube.com/watch?v=r81ogO_-R3o
台湾選手たちは、インタビューでこう語っている。[1]
「大型スクリーンで台湾への感謝のプレートが見えて、日本と台湾の距離は非常に近いと感じました」
「私たちを支えてくれて感謝してくれたのを見て、その気持ちは言葉では表せないです」
事前にツイッターで、「もののふ庵」さんの呼びかけを知っていたのだろう。観客席の台湾ファンからは、次のような返礼のプラカードが掲げられた。
「私達も日本を応援します!!! by 台湾」
「日本頑張れ 東北頑張れ」
こういうスタンドの盛り上がりが、選手たちの心に火をつけたのだろう。両軍の闘志溢れる名勝負が実現した。それが終わって、冒頭の円陣のお辞儀となったのである。
■7.謝監督の爽やかなコメント
台湾チームの謝長亨監督は、試合後、こんなコメントを残した。
__________
選手は素晴らしいプレーをしてくれた。国際試合で日本の高いレベルに近づきたいと思っていた。尊敬する日本に勝つことこそできなかったが、重圧をかけられた。残念な結果だが、いつか勝つ日が来ることを願っている。反省から学びたい。
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スポーツマンらしい、かつ、対戦相手への敬意のこもった爽やかなコメントである。謝監督の風貌も温和ながらも風格があり、こういう人物ならでこそ、台湾チームの敢闘と円陣での一礼という礼節を引き出し、多くの日本人ファンも魅了したのだろう。
その謝監督は、日台ファンの友好ふりについて、インタビューで、「野球を通じてお互いの人々が結びついたことに本当に感動しました・・・」と語っている。[1]
台湾ファンからもこんなツィートが発信された。「台湾チームは良く頑張った。これからはずっと日本を応援しよう!そして、日本と台湾の友好が末永く永遠に続きますように…。」[7]
■8.「台湾隊、加油!(台湾チーム、頑張れ)」
試合が終わった時には、日付が変わっていたが、日台の交流は、その後、球場外でも続いた。「日本おめでとう」とマジックで書き込んだ台湾国旗を掲げて歩く台湾人ファン。この光景には「台湾は民度が高い人が本当に多い。以前にも増して台湾が好きになった」とのツイートが寄せられた。さらに球場外で、日台の国旗を並べて、一緒に記念写真をとる両国ファンまであらわれた。
翌9日に行われたキューバ対台湾の敗者復活戦では、多くの日本人ファンが台湾国旗や「台湾隊、加油!(台湾チーム、頑張れ)」などと書いたプラカードを持って、応援に駆けつけた。[7]
10日朝、ホテルからチェックアウトする台湾選手たちの様子をある台湾紙は次のように伝えた。
__________
ロビーにはたくさんのファンが集まり、なんと日本人が一番多かった。日本のファンは台湾選手に応援と感謝の気持ちを伝え、サインや記念撮影をリクエスト。その姿はまるで台湾人ファンと同じように熱心で、選手たちは驚きつつも喜びであふれていた。[8]
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ある外国との間で、これだけ多くの両国民の真心が通い合ったのは、我が国の戦後史においても希有な経験である。ただ、台湾のマスコミは、このニュースを新聞やテレビで大々的に伝えたのに対し、我が国のマスコミは、冒頭のフジテレビ「Mr.サンデー」を除いて、ほとんど黙殺した。それだけに日台友好の真実を伝えたフジテレビの義挙には敬意と謝意を表したい。
(文責:伊勢雅臣)
■リンク■
a. JOG(720) 大震災で深まった日台の絆
台湾大地震、東日本大震災と、互いへの支援を通じて、日台両国民の心の絆は深まっていった。
http://jog-memo.seesaa.net/article/201110article_4.html
b. JOG(248) ワールドカップの報道統制
世界中で報道されていた「判定疑惑」を日本のマスコミは頬被りし、日韓友好のみ謳い続けた。
http://www2s.biglobe.ne.jp/%257enippon/jogbd_h14/jog248.html
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
1.フジテレビ、Mr.サンデー「WBC激闘の裏の”つぶやき” 台湾ナイン”お辞儀”の秘密」★★★★
以下のYou Tubuでご覧になれます。涙なくしては見られない素晴らしい番組です。
http://www.youtube.com/watch?v=CLvzgOzEdfs
2. JCASTニュース「WBCで日本側スタンドに「謝謝台湾」 台湾SNSでは『感動した!』の声」
http://www.j-cast.com/2013/03/09168913.html?p=all
3. 台湾の反応ブログ「【台湾の反応】WBC効果で日台の友好は深まった!!日本のTV番組が伝えたWBC日台戦特集番組が中国語に翻訳され台湾人にも伝わる!!
http://blog.livedoor.jp/v_w/archives/24744544.html
4. 青山繁晴氏のファンサイト・淡交 ブログ「WBC日台戦で「震災支援してくれた台湾に感謝を!」球場の外では友情の輪が拡散中! 台湾チーム、完璧で美しい勇姿で日本に挑む=台湾メディア 3月8日」
http://blogs.yahoo.co.jp/tankou_2008/37311531.html
5. 【WBC野球】台湾応援団の挑発に韓国ブチギレ「国家間の基本的な礼儀も守らないのか! 失望した!!」
http://www.watch2chan.com/archives/25330813.html
6. サーチナ「台湾選手がマウンドに「国旗」…韓国皮肉りチョッとだけ=WBC」
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=0307&f=national_0307_016.shtml
7. 台湾の反応ブログ「【台湾の反応】WBC台湾報道が伝えた日本戦と韓国戦の違い!!スポーツを通じて更に深まった日台の絆!!今後は日本を応援するよ!!」
http://blog.livedoor.jp/v_w/archives/24419520.html
8. サーチナ「WBC台湾選手、日本ファンの応援にビックリしながら大感謝」
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=0312&f=national_0312_034.shtml
■「東京ドームの聖なる夜景 ~ WBCで通い合った日台の真心」に寄せられたおたより
■「匿名希望」さんより
涙が出て止まりませんでした。日本、台湾、共に武士道の通じる国同士だと思いました。中国共産党に媚びるマスコミ、尻ごみする官僚、気概の感じられない政治家。情けないが、国民は素晴らしい成熟度を見せている。
台湾の国民とともに、さらに友好を重ね、中国、韓国に対抗できる太い絆を作り上げたい。
■編集長・伊勢雅臣より
異様な近隣諸国に囲まれる我が国にとって、台湾のような温かい、人情が通じる国が一つでもある事に感謝します。
====================
Mail: ise.masaomi@gmail.com
Twitter: https://twitter.com/#!/ise_masaomi
または本メールへの返信で
姉妹誌「国際派日本人のための情報ファイル」JOG Wing
http://blog.jog-net.jp/
購読解除: http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/quit_jog.htm
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■800号到達の御礼(伊勢雅臣)
本号にて、弊誌は800号に到達しました。平成9(1997)年9月6日の創刊以来、あしかけ17年、読者の皆さんのご声援に支えられてきました。
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■1.「この清々しさはなんだろう」
本年3月8日、東京ドームで行われたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)第2ラウンド日本-台湾戦は、まれに見る名勝負だった。
メジャーリーグでも活躍した王健民投手が日本を6回まで無失点に抑える間に、台湾は3回、5回と1点ずつ入れた。8回表に日本が2点を入れて同点に追いつく。その裏、すぐさま台湾は1点追加したが、9回表に再び、日本がしぶとく同点に追いつく。
10回表、日本がヒットをつないで、1点リード。その裏の台湾の攻撃を零点に抑えて、ようやく1点差の勝利をものにした。両軍の激闘に、4万人超の観衆のウェーブが何度も起こった。
試合後、珍しい光景が見られた。台湾の選手たちがマウンドに集まり、観客席に向かって360度の円陣を作り、帽子をとって深々と一礼したのである。その姿に、観客席からも惜しみない拍手が送られた。その光景は、通常の試合中継では映されず、後日、フジテレビの「Mr.サンデー」で報道された。[1]
その光景を見た人々から、ツイッターで次のような発信がなされた。[1]
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・選手全員がマウンドで一礼する姿は、ほんと感動した。タイワンの人いい人すぎ泣いた。
・私達日本人はその強さ、優しさに感謝と敬意を表明し見習いたいです。ありがとう(^_^)
・この清々しさはなんだろう。まだ敗者復活もありうる。決勝でまた戦えたら最高だよ。
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■2.「WBC日台戦で台湾への感謝のプラカードを」
「この清々しさ」の発端は、試合数日前に、「もののふ庵」さんから発信された次のようなツイートだった。
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WBC、日本は初戦が台湾に決定。この試合を見に行かれる方、先般の東日本大震災への台湾からの多大な支援へのお礼の横断幕やプラカードをお願いします。WBCを通じ、日本と台湾の信頼関係を深め、私達が本当に感謝している事を伝えて下さい。[1]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
台湾と日本は、過去大地震のたびに、互いに心の籠もった支援をしてきた。たとえば、1999(平成11)年の台湾大地震で3階建ての校舎が全壊した台中市の健民国民小学校には、阪神大震災で被災した兵庫県などから多額の募金が送られ、新しい校舎が建てられた。
東日本大震災では、その新校舎で学ぶ子供たちが「恩義を忘れない」という校長の呼びかけに応えて、お小遣いを持ち寄り、合計190万円が日本赤十字社に送られた。[a]
そうした子供たちの善意の寄付も含めて、台湾は世界最大級の200億円をこえる義援金、400トンもの支援物資、いち早くの救援隊を送ってくれたのだった。
「もののふ庵」さんの呼びかけは、ツイッター上で多くの人々の賛同を呼び、拡散されていった。
■3.「2年もたっているのに日本人がまだ覚えているなんて・・・」
「もののふ庵」さんの呼びかけは、翌日には中国語に訳され、台湾でもツイッターで広がっていった。「これ見ただけで涙が出てきました」「台日友好! バンザイ!」などとの発信が続いた。[1]
「Mr.サンデー」で、インタビューされた青年は、携帯でその中国語訳のツイートを見せながら、こう語る。
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友達から送られてきたんだけどとても感動しました。2年もたっているのに日本人がまだ覚えているなんて・・・
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台湾のニュースにもとりあげられ、「ネット上で台湾に感謝の気持ちを伝える横断幕を試合中に掲げようと呼びかけている日本人がいます」と報じられた。
さらにある日本のテレビの日程表で「台湾代表」と伝えられている事も、台湾メディアで報じられた。オリンピックなどの国際試合では中国の圧力で、「台湾」や「中華民国」という名称は使えず、「チャイニーズ・タイペイ」と呼ばれている。
「台湾」と呼ばれた事に関して、こんなツイートも発信された。
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日本だけが台湾を台湾と呼んでくれる。・・・台湾を尊重してくれる彼らに感動しました。私からも日本人にありがとうといいたい。私はあなた達を愛してます(ハート・マーク3つ)[3]
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■4.台湾-韓国戦で吹き出した反韓感情
「もののふ庵」さんの呼びかけに触発されて、台湾でも真心の籠もった発言が続いた。
たとえば、「緊迫している釣魚島(日本名・尖閣諸島)事件など敵意を表すやり方は、日本に来て、この(試合の)時に行うには適しない」などと呼びかける人も出た。先のオリンピックで韓国サッカー選手が試合後、領土問題に関するプラカードを掲げたような愚劣な真似はしないように、という意味だろう。[2]
また、こんな発言もインターネットで流れ、さかんに拡散された。
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東京にWBC観戦に行かれる野球ファンのみなさまへ。台湾対日本戦であろうが、他の国との対戦であろうが、球場では過激な内容の横断幕やプラカードを掲げないでください。日本の方がツイッターで拡散されている内容(上記の投稿の中国語訳)をご覧ください、このような状況下で、我々が見苦しいメッセージを掲げれば、恥をかくのは我々です。[4]
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この発言の背景には、3月5日に台湾で行われた韓国-台湾戦で、嫌韓感情を露骨に示したプラカードが多数、掲げられた、という事実があった。北朝鮮の金日成、金正日、金正恩の3人の写真を並べて世襲独裁政権を皮肉ったり、韓国選手を戦車で踏みつぶす漫画を描いたり、という内容だった。[5]
■5.反発には反発が、好意には好意が返ってくる
台湾の嫌韓感情も根強い。2010年に行われた広州アジア大会の女子テコンドー49キログラム級予選では、台湾のスター選手が勝利寸前に失格判定を受けるという不可解な判定をめぐって騒動に発展した。台湾の国会では韓流コンテンツの放送を規制する法案が提出され、市民らは韓国製品の不買運動を繰り広げて反韓感情をあらわにした。[6]
韓国は今までオリンピックやワールドカップなど多くの国際競技で、疑惑の判定で勝利したり、また相手国に対する非礼なプラカードなどで不興を買ってきた。平成14(2002)年に日韓共催で行われたサッカーワールドカップでも、韓国と対戦したイタリア、ポルトガル、スペインがいずれも不可解な判定で敗れ、世界中のマスコミから非難が集中した。[b]
台湾-韓国戦の後に行われた台湾チームの東京ドームへの壮行セレモニーでは、一人の台湾選手が、マウンドに台湾国旗を立てた。
これは2006年と2009年のWBCで、韓国チームが日本を破った直後にマウンドに韓国旗を立てた行為を皮肉ったものである。田中将大投手が激怒して引き抜くなどの一幕もあったが、韓国チームはその後、残りの試合を勝てなくなったという因縁がある。[7]
また、1次リーグで早々と敗退した韓国チームに対して、韓国マスコミからは、、「韓国の試合はすべてナイターで、寒かったから力が発揮できなかった」、「球場の練習設備が悪かった」、挙げ句の果てには、「台湾の料理が塩辛かった」と言い訳の声が上がった。普通の国なら、お世話になったホスト国に感謝すべき所なのに、これでは反韓感情に油を注いだだけだろう。
「韓国は多くの国から嫌われてるけど、その理由は結局韓国人自らが作り上げて来たんだよね」とは、ある台湾人のツイートである。[7]
台湾-韓国間の反発と、日台相互の友好ムードとを合わせ考えれば、二つの国民の間の感情は鏡のようなもので、反発には反発が、好意には好意が返ってくるのだろう。そして、互いへの好意や敬意の中でこそ、選手がプレーに集中し、観客もその奮闘ぶりに魅了されて、好試合が生まれるのではないか。
■6.「感謝 TAIWAN」のプラカード
いよいよ8日の夜に行われたWBC日台戦は台湾の人口24百万人のうち、半数の12百万人がテレビや大会場、広場などでのパブリック・ビューイングで観たと言われる。
「もののふ庵」さんの呼びかけに応えて、後楽園ドームのスタンドから、次のような手書きのプラカードがあちこちに掲げられた。
「感謝 TAIWAN」「台湾謝謝」「311支援 謝謝台湾」
「2011.3.11 ありがとう台湾 日本人永遠不會忘台湾人的真心(日本人は永遠に台湾人の真心を忘れない)」・・・
球場の大型スクリーンで、それらのプラカードが映し出されるたびに、試合中にもかかわらず、観客席から盛んな拍手が送られた。
この様子は、台湾のニュース・メディアが放送した内容を、以下のYOU TUBEで見ることができる。球場内外での日台の真心の交流が直に伝わる映像である。
中天新聞》「謝謝台灣」日本球迷場温馨舉牌
(「台湾ありがとう」日本の球場で温かいプラカード)
http://www.youtube.com/watch?v=r81ogO_-R3o
台湾選手たちは、インタビューでこう語っている。[1]
「大型スクリーンで台湾への感謝のプレートが見えて、日本と台湾の距離は非常に近いと感じました」
「私たちを支えてくれて感謝してくれたのを見て、その気持ちは言葉では表せないです」
事前にツイッターで、「もののふ庵」さんの呼びかけを知っていたのだろう。観客席の台湾ファンからは、次のような返礼のプラカードが掲げられた。
「私達も日本を応援します!!! by 台湾」
「日本頑張れ 東北頑張れ」
こういうスタンドの盛り上がりが、選手たちの心に火をつけたのだろう。両軍の闘志溢れる名勝負が実現した。それが終わって、冒頭の円陣のお辞儀となったのである。
■7.謝監督の爽やかなコメント
台湾チームの謝長亨監督は、試合後、こんなコメントを残した。
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選手は素晴らしいプレーをしてくれた。国際試合で日本の高いレベルに近づきたいと思っていた。尊敬する日本に勝つことこそできなかったが、重圧をかけられた。残念な結果だが、いつか勝つ日が来ることを願っている。反省から学びたい。
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スポーツマンらしい、かつ、対戦相手への敬意のこもった爽やかなコメントである。謝監督の風貌も温和ながらも風格があり、こういう人物ならでこそ、台湾チームの敢闘と円陣での一礼という礼節を引き出し、多くの日本人ファンも魅了したのだろう。
その謝監督は、日台ファンの友好ふりについて、インタビューで、「野球を通じてお互いの人々が結びついたことに本当に感動しました・・・」と語っている。[1]
台湾ファンからもこんなツィートが発信された。「台湾チームは良く頑張った。これからはずっと日本を応援しよう!そして、日本と台湾の友好が末永く永遠に続きますように…。」[7]
■8.「台湾隊、加油!(台湾チーム、頑張れ)」
試合が終わった時には、日付が変わっていたが、日台の交流は、その後、球場外でも続いた。「日本おめでとう」とマジックで書き込んだ台湾国旗を掲げて歩く台湾人ファン。この光景には「台湾は民度が高い人が本当に多い。以前にも増して台湾が好きになった」とのツイートが寄せられた。さらに球場外で、日台の国旗を並べて、一緒に記念写真をとる両国ファンまであらわれた。
翌9日に行われたキューバ対台湾の敗者復活戦では、多くの日本人ファンが台湾国旗や「台湾隊、加油!(台湾チーム、頑張れ)」などと書いたプラカードを持って、応援に駆けつけた。[7]
10日朝、ホテルからチェックアウトする台湾選手たちの様子をある台湾紙は次のように伝えた。
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ロビーにはたくさんのファンが集まり、なんと日本人が一番多かった。日本のファンは台湾選手に応援と感謝の気持ちを伝え、サインや記念撮影をリクエスト。その姿はまるで台湾人ファンと同じように熱心で、選手たちは驚きつつも喜びであふれていた。[8]
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ある外国との間で、これだけ多くの両国民の真心が通い合ったのは、我が国の戦後史においても希有な経験である。ただ、台湾のマスコミは、このニュースを新聞やテレビで大々的に伝えたのに対し、我が国のマスコミは、冒頭のフジテレビ「Mr.サンデー」を除いて、ほとんど黙殺した。それだけに日台友好の真実を伝えたフジテレビの義挙には敬意と謝意を表したい。
(文責:伊勢雅臣)
■リンク■
a. JOG(720) 大震災で深まった日台の絆
台湾大地震、東日本大震災と、互いへの支援を通じて、日台両国民の心の絆は深まっていった。
http://jog-memo.seesaa.net/article/201110article_4.html
b. JOG(248) ワールドカップの報道統制
世界中で報道されていた「判定疑惑」を日本のマスコミは頬被りし、日韓友好のみ謳い続けた。
http://www2s.biglobe.ne.jp/%257enippon/jogbd_h14/jog248.html
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
1.フジテレビ、Mr.サンデー「WBC激闘の裏の”つぶやき” 台湾ナイン”お辞儀”の秘密」★★★★
以下のYou Tubuでご覧になれます。涙なくしては見られない素晴らしい番組です。
http://www.youtube.com/watch?v=CLvzgOzEdfs
2. JCASTニュース「WBCで日本側スタンドに「謝謝台湾」 台湾SNSでは『感動した!』の声」
http://www.j-cast.com/2013/03/09168913.html?p=all
3. 台湾の反応ブログ「【台湾の反応】WBC効果で日台の友好は深まった!!日本のTV番組が伝えたWBC日台戦特集番組が中国語に翻訳され台湾人にも伝わる!!
http://blog.livedoor.jp/v_w/archives/24744544.html
4. 青山繁晴氏のファンサイト・淡交 ブログ「WBC日台戦で「震災支援してくれた台湾に感謝を!」球場の外では友情の輪が拡散中! 台湾チーム、完璧で美しい勇姿で日本に挑む=台湾メディア 3月8日」
http://blogs.yahoo.co.jp/tankou_2008/37311531.html
5. 【WBC野球】台湾応援団の挑発に韓国ブチギレ「国家間の基本的な礼儀も守らないのか! 失望した!!」
http://www.watch2chan.com/archives/25330813.html
6. サーチナ「台湾選手がマウンドに「国旗」…韓国皮肉りチョッとだけ=WBC」
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=0307&f=national_0307_016.shtml
7. 台湾の反応ブログ「【台湾の反応】WBC台湾報道が伝えた日本戦と韓国戦の違い!!スポーツを通じて更に深まった日台の絆!!今後は日本を応援するよ!!」
http://blog.livedoor.jp/v_w/archives/24419520.html
8. サーチナ「WBC台湾選手、日本ファンの応援にビックリしながら大感謝」
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=0312&f=national_0312_034.shtml
■「東京ドームの聖なる夜景 ~ WBCで通い合った日台の真心」に寄せられたおたより
■「匿名希望」さんより
涙が出て止まりませんでした。日本、台湾、共に武士道の通じる国同士だと思いました。中国共産党に媚びるマスコミ、尻ごみする官僚、気概の感じられない政治家。情けないが、国民は素晴らしい成熟度を見せている。
台湾の国民とともに、さらに友好を重ね、中国、韓国に対抗できる太い絆を作り上げたい。
■編集長・伊勢雅臣より
異様な近隣諸国に囲まれる我が国にとって、台湾のような温かい、人情が通じる国が一つでもある事に感謝します。
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