No.872 フランスに学ぶ子育て支援


「パリ郊外だと子供の数は3人が平均的ですね」というタカコさんは4人の子育てをしながら、通訳として活躍中。

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■1.「4人もいて賑やかでいいわね」

 パリ郊外に住むタカコさん(37歳)は、フリーの会議通訳をしながら、10歳から3歳までの4人の子供を育てている。夫のジャン=ミシェルさんはパリの大学で日本文化を教えている。

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 パリの校外だと子供の数は3人が平均的ですね。4人だとちょっと多いかなという感じです。でも日本だと、4人も子供がいると、みんな口をそろえて、4人もいるなんて大変ねえ、というのに対して、ここだと、4人もいて賑やかでいいわね、とまったく正反対の反応がかえってきます。

フランスでは子どもは家族に明るさと活力をもたらすプラスの存在なのに、日本では何人も子どもを育てるということは、悲壮な決意が必要なことなんだなと改めて認識しました。[1,p48]
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 我が国でも、夫婦が理想とする子どもの数は2.42人で、子ども3人以上を望む夫婦が少なくない。しかし現実の子ども数は1.96人、すなわち相当数の夫婦が3人以上を望んでいるのに、実際には2人以下しか産めていない、という事態になっている。[2]

 少子化は国の行く末に関わる重要な問題だが、それとは別に、国民が幸福に暮らせる国を作るためには、子どもを産みたいのに産めない、という不幸を解消する必要がある。


■3.フランスの出生率を回復させた育児休業制度

 フランスは先進国では珍しく出生率(一人の女性が一生の間に産む子供の数)が2.0を超える国だ。しかも90年代から一貫して上昇している。対する日本の出生率は1.4。近年、若干上向いてきたといえ、はるかに低い。

 日本で子どもを産み育てるのに「悲壮な決意」がいる最大の理由は、母親が出産や育児で仕事を続けられなくなる、ということだろう。その間、収入がなくなり、かつ、好きな仕事を諦めなくてはならない。

 パリ在住の翻訳家で、自ら2人の子どもを育てている中島さおりさんは、フランスはこの問題にうまく対処したことで出生率が上がった、と言う。

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 なかでも85年にできた「育児休業手当」が出生率の上昇に与えた影響は大きいと考えられています。育児休業制度というのは、産休明けから子どもが3歳になるまで、仕事を離れて家で子育てに専念するのか、パートタイムで働けるのかを選べる制度で、会社では無給、あるいは減給扱いになりますけど、その代わり社会保険から手当が出る仕組みです。

 この手当ができた当初は、子どもを3人以上育てていることが条件でしたが、それが94年に2人からでも出るようになりました。子どもが2人の場合、完全に休むと月500ユーロ強、ハーフタイムの場合は350ユーロ弱が支給されるようになりました。日本円で5万~7万円強を超える金額を受け取ることができるようになったのです。

それにより、子どもが小さいうちは自分で育てるという選択が容易になりました。育児休業手当の拡大も引き金になり、95年からフランスでの出生率が回復をはじめたと言われています。[1,p54]
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 日本では子育てと仕事の両立というと、すぐに保育所の充実が議論されるが、東京都の公営の保育所では月額にして子ども1人あたり約19万円ものコストがかかっているという。[a] 乳幼児を他人に任せて月19万円も掛けるよりも、母親に任せて7万円をその母親に直接支払った方が、はるかに安上がりである。

 さらに3歳までの乳幼児期は、母親の愛情をたっぷり受けて人格形成をする大事な時期であり、また母親も育児経験を通じて母として成長する期間である。[b,c]

 育児休業制度とは、健全な家庭を守る、という意味で賢明な制度であり、また育児休業手当は社会的コストから見ても合理的である。同様の仕組みはノルウェー、フィンランド、デンマークでも実施されている。[c]


■4.「子どもが小さいときは、できるだけ一緒に過ごしたい」

 エールフランスでフライト・アテンダント(客室乗務員)として働きつつ、柔道家のフランス人と結婚して、2児を育てているミサコさんも、育児休業制度の恩恵をフル活用している。

 フランスの法定育児休暇は3年だが、エールフランスはもともと国営企業で、今でも組合が強いので、4年とれる。ミサコさんの先輩の中には、4年おきに3人の子どもを産んで、12年間の育児休暇をとった後、定年まで働いた人がいるという。

 また育児休暇の後も、フルタイムから50%までの勤務時間を選ぶことができる。ミサコさんは長女が生まれて、4年の育児休暇から復帰した後も、66%の勤務時間として、2ヶ月働いて1ヶ月休む、というスケジュールにしたという。

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 私がフライトで家を離れるときは、朝は夫が子どもたちを学校に連れていって、夕方はベビーシッターに来てもらっています。勤務日数を減らせば、その分だけお給料は減りますけど、身分は正社員のままで福利厚生などの条件も同じです。

その時々の家庭の事情に合わせて勤務を選べることは、仕事を続けていく上で、ありがたいことですねえ。[1,p40]・・・

 私はこの仕事が好きだし、接客業は性に合っていると思います。フライトでいろいろな国を訪れるのは息抜きにもなるので、定年まで働きたいと思っています。

でも子どもが小さいときは、できるだけ一緒に過ごしたいし、子どもが手を離れたら趣味の写真も再開したいと思っています。いろいろなことをやりたい私にとって、いまの働き方はぴったりしているんです。[1,p43]
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 育児も仕事もこなすという、これこそ女性の幸福だろう。


■5.日本の何倍もの水準の公的家族支援

「育児休業手当」は育児で仕事を休んだ際に失われる所得を補償するものだが、別途、子どもを育てるコストを国が支援する手当がある。

 まず「家族手当」は2人以上の子どもを持つ家族なら、所得制限無しに受け取れる。2年おきに2人の子どもを20歳まで育てた場合、支給される現金は約3万1千ユーロ(1ユーロ150円換算で約465万円)。

 これに加えて「乳幼児受け入れ手当」がある。0歳から3歳まで支給され、所得制限はあるが、国民の80%以上が受け取れる。子ども2人の場合は約8千ユーロ。「家族手当」と合算すれば、3万9千ユーロ(585万円)となる。

 子沢山を奨励するために、これが5人の子どもだと、家族手当15万ユーロ、乳幼児受け入れ手当約3万ユーロ、合計で約18万ユーロ(約27百万円)となる。一方、日本の児童手当は12歳までで、1人180万円、5人でも450万円に留まる。

「家族政策の見本市のよう」と評されるフランスでは、さらに出産先行手当、保育ママを雇った際の手当などがある。しかも、現在、20歳以下の子どものうち、85%がなんらかの手当の対象となっている、という浸透ぶりだ。


■6.子沢山なら、税金も安くなる

 フランスの家族支援は手当の支給ばかりでなく、税金面でも抜かりない。冒頭で登場いただいた4人の子育て中のタカコさんはこう語る。

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 フランスでは子どもを育てることに対していろんな優遇措置がとられていますが、わが家の場合は、そのなかでも税金について一番恩恵を受けていると感じています。[1,p49]
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 フランスでは、世帯の収入を家族人数で割って税額を算出する方法をとっている。たとえば、夫婦で年収6百万としたら、子どもなしの家庭は一人あたり3百万の収入として税額が計算されるが、子どもが4人いたら、最初の二人の子どもは0.5人分とされるので合計5人、一人あたり120万円の収入と見なされる。それだけ税金も大幅に安くなる訳だ。

 保育園や学校の費用も、我が国とは大違いである。3歳からの無料の保育園にほぼ100%の子どもが通う。小学校と同じ敷地内にあり、朝8時半から4時半まで預かってくれる。タカコさんは言う。

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 3歳になった下の子が今年から学校(保育園)に通い始めてからが、子育てがこれまでで一番楽になりました。フランスでは3歳から公立の学校に通えるのも、日本との大きな違いです。今では4人とも同じ敷地内にある学校(JOG注:保育園と小学校)に通っています。

私の通訳の仕事は不規則で、フランス以外のヨーロッパの国に出張することも多いので、月曜日から金曜日まではお手伝いさんとベビーシッターを兼ねた人に来て貰っています。私の出張と主人の残業が重なった場合などは、泊まってもらうこともあります。
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 ちなみに、フランスでは公立校に通う限り、大学までは無料である。日本では子どもを大学までやろうとすると、1人2千万円かかる。4人なら8千万円。大卒のサラリーマンの生涯賃金が3億円程度と言われているから、日本で4人の子どもを育てようとするには、それこそ「悲壮な決意」がいるが、タカコさんには学費の心配をする必要もない。


■7.「仕事をつづけようかどうしようかと悩んでいます」

 エールフランスに務めるミサコさんには2歳年下の妹がいて、もうすぐ東京で双子を出産するという。

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 彼女は会社勤務を経て、3年前にフリーのカメラマンになったんですけど、妹のように母親がフリーで働いていると、なかなか保育園が見つからないといって困っています。

預かってもらえたとしても、2人の保育料だけで月10万円以上かかるというので、ようやく独立はしたものの、仕事をつづけようかどうしようかと悩んでいます。「[1,p43]
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 2人の子どもを無料の学校に通わせ、いろいろな手当も貰い、税金も減免して貰って、フライトアテンダントとして飛び回って仕事をしているミサコさんとは大違いである。ミサコさんは子育てと仕事を両立させるために、日本に住むのを諦めたというが、その気持ちはよく分かる。

 日本は少子化傾向が続いているのに、フランスでは出生率が大幅に回復しているのは、こうした制度上の違いが大きな原因となっていることがよく分かる。


■8.国民を不幸にし、国の未来を自ら暗くしている現在の日本

 フランスがいかに手厚く子育てを支援しているかを見てきたが、日本で同様なことをするには税金が足りない、という意見がすぐ出てくるだろう。

 しかし、1人あたりGDP(国内総生産)はフランスが約4万4千ドル(100円換算で440万円)に対し、日本が約3万85百ドル(385万円)と、それほど違いがあるわけではない。フランスにできて、日本ができない訳はないのである。

 現在の日本の公的家族支援は対GDP比で0.75%だが、フランスは3.02%。フランスの比率は、イギリスの2.93%、スウェーデンの3.54%と欧州各国と比較しても、決して突出した水準ではない。

 逆に日本はアメリカの0.70%と並ぶ低い水準である。もともとアメリカは個人の生活に国が介入するのを嫌う傾向があり、政府による公的支援は極端に低い。そのアメリカと同じ水準でしかない、という事は、日本の公的家族支援の手薄さを示している。

 フランスでは「国を守るためには人口が重要なんだ」と小学校から教えているという。育児支援、特に子沢山ほど手厚く支援するという制度は、その思想の反映である。

 フランスのように国家政策として多産を奨励するかどうかについては、いろいろな議論があるだろうが、それとは別の次元で、子どもを産みたいのに産めない家庭が少なからずある、という事は、国民生活にとって解決すべき問題である。

 また、外国人留学生には奨学金や渡航費まで援助するのに、自国民が大学まで出るのに2千万円も覚悟しなければならない、というのは、誰が見ても馬鹿げた政策である。

 子どもを産み、高度な教育を施すということは、将来の優れた国民を育て、かつ税収を増やす、ということであり、将来投資として税金を投入する、というのは合理的な国家政策である。

 明治初期の日本は、貧弱な財政の中でも、全国津々浦々に無料の小中学校、師範学校などを作って、多くの人材を育て、そのエネルギーでわずか半世紀で世界の5大国の一つにのし上がった。

 それに対して、現在の日本は誤った政策から、子育てを「悲壮な決意が必要」なものとして、国民を不幸にし、国の未来を自ら暗くしているわけである。明治の先人たちは墓場の陰で「何をやっているのか」と歯がみしているのではないか。
(文責:伊勢雅臣)

■リンク■

a. JOG(431) 少子化と人口減を乗り越えよう
 少子化・人口減は幸せな国づくりへの好機。
http://www2s.biglobe.ne.jp/nippon/jogdb_h18/jog431.html

b. JOG(646) 親学のすすめ(上) ~ 母の愛を待つ胎児・新生児
愛された子供が、人を愛することができる子供に育つ
http://jog-memo.seesaa.net/article/201006article_6.html

c. JOG(650) 親学のすすめ(下)乳幼児編 ~ 母の愛で子は育つ
「ぼく、生まれてきていけなかったの?」と3歳の子は母親に聞いた。
http://jog-memo.seesaa.net/article/201006article_2.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 横田増生『フランスの子育てが、日本よりも10倍楽な理由』★★、洋泉社、H21
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4862483755/japanontheg01-22/

2. 第14回出生動向基本調査に関する資料、「第14回出生動向基本調査に関する資料」
http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou14/point14.pdf

■「フランスに学ぶ子育て支援」に寄せられたおたより

■正雄さんより

 フランスは行政がしっかりとしているから子育てが自信をもって、安心してできます。それに比べて、日本は行政どころか、出産する女性社員を冷たい目で見る企業の多いこと。これでは日本は少子化にますます拍車がかかります。

 その結果、人口は減り、働く世代が少なくなり、超高齢化社会になります。私は元公立小学校の校長です。3年前に定年退職しましたが、校長時代、毎年児童数が減ってきました。現在も、減ってきて統廃合の危機になるかもしれません。

 これらは日本がまだまだ子育てには安心できない国だということです。だから子どもは2人までとか、一人で十分だという母親が増えています。わたしたちが子どものころは兄弟姉妹が4~5名は当たり前でした。私自身4人兄弟です。

 それに最近の日本人は自己中心です。自分が楽しければいい。子どもはその次。自分の私生活を乱す者は、たとえ、それが我が子であっても許さないという変な理屈がまかり通っています。赤ん坊が泣けば、殺してしまうなど凄惨な事件が続出しています。

 子どもは天から授かったものという意識が薄いのも気になります。しかも、子どもを育てる能力に欠ける若い女性が急増しています。日本の子どもは、ある意味では不幸です。

 国を繁栄させるのは人です。人材です。子どもたちがすくすくと育ち、よい教育を受けていけば、必ずや国を支える大きな力になります。

「米百俵」の精神は今の日本には必要でしょう。何にお金をかけるかが問われる時代です。目先のことばかり考えていますと、この国はアジアの中でも後進国になってしまいます。貧困な子どもたちになります。

 成功しているフランスや他の国々の政策に学ぶべきです。私は今の日本は沈没船に近いと思っています。このままでは日本は政治経済の破綻が来ます。もっと人を大事にして、人を育成することに力を、お金をもっと投資すべきです。


■編集長・伊勢雅臣より

「米百俵」は、まさに子育て支援と次世代の人材育成に使われるべきですね。


■大輔さんより

 子供を産みたくても産めない家庭というのは今の若い人の中ではどちらかというと恵まれている方だと思います。というのも、今の若い世代(40歳以下)は結婚はおろか、恋愛すら難しい状況だからです。

 今の若い未婚男性は約半数が派遣社員か契約社員か出来高制給料の営業などです。つまり、給料の上がる見込みの少ない低賃金労働者であり、出来高制の不安定な雇用環境の人が増え続けています。

 今の資本主義社会においては、男と言うものは何だかんだ言っても収入とセルフイメージが連動している人が多いと思います。

 特に女性を幸せにしようという責任感があればあるほど自分の少ない給料では、男から女性にアプローチすることが無責任にも感じられてしまいます。

 安倍政権の政策により今後低賃金外国人労働者が増えていくとますます日本人の賃金は下がり、結婚率は低下し、日本国内の日本人の比率が下がりますね。

 私は日本が好きだし日本人が好きなのでとても悲しいです。

■伊勢雅臣より

 派遣社員、契約社員という制度は、我が国にはふさわしくない制度だと思います。


■博美さんより

 恐らく大半の方がご存じないと思うのですが、この"派遣さん"という立場は柔軟に働くには非情にありがたい雇用形態なので子育てをされている女性には重宝されてます。

 保育所の充実を掲げられる方は多いのですが、保育所に預けていると子供が熱を出した場合などすぐに引き取りに行かなければならないのですが、正社員で働いていると意外とできないことが多く、結局仕事を辞めざる得ないのです。

 しかし、派遣さんだと最初から"子供が熱を出した場合など保育所から連絡があればその場で仕事を止めて帰ります"という条件で働くことが可能です。

 ただ、この派遣さんですが、労働者保護の名目で3年以上同じ職場で働くことができません。今の国会で働き続けられるように法改正をしようとしてますが、労働者保護の名目で、野党は阻止しようと妨害工作に躍起になってます。

 法改正に成功すれば子育て支援になるのですが、野党はいったい何を考えているのやら。やっぱりジェンダーフリーは子育ての敵なのでしょうか? 子育て支援には、必ずしも、予算が必要というものではありません。


■伊勢雅臣より

 予算だけでなく、保育所で子どもが熱を出したら、どうするのか、という制度的な問題も考えなければなりませんね。



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