No.1137 即位礼 ~ 聖なる責務の世襲


「民安かれ」の祈りを継承される天皇の聖なる責務。

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■1.「世界一古い国の、世界で唯一のエンペラーの即位式」

 10月22日、即位礼正殿の儀が開かれ、参列者は1999人、海外からも191カ国・機関の元首・首脳級が参加した。

 国王だけでも、オランダ・ウィレム・アレクサンダー国王夫妻、ベルギー・フィリップ国王夫妻、スウェーデン・カール16世グスタフ国王、スペイン・フェリペ6世国王夫妻、ブータン・ワンチュク国王夫妻、ブルネイ・ボルキア国王、カンボジア・ノロドム・シハモニ国王、マレーシア・アブドラ第16代国王夫妻、トンガ・ツポウ6世国王夫妻が参列。[1]

 国際的な関心も高く、アメリカのCNNは儀式の模様を中継し、海外の通信社も次々と速報を発した。およそ、一国内の儀式でこれほど多くの元首・首脳級が集まり、国際的にも関心を集めるものはないのではないか。

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 これも戦後日本が世界各国と友好関係を築いてきた事に加えて、日本の天皇が国際社会で唯一のエンペラー(皇帝)級、すなわちキング(国王)よりも格式が高いと位置づけられている事も一因だろう。我々が目の当たりにしたのは、世界一古い国の、世界で唯一のエンペラーの即位式なのであろう。

 もっとも、エンペラーとはローマ帝国や中華帝国の皇帝という「権力者」であり、その本質は天皇とはまるで違う。国際社会が高く評価してくれるのは良いが、天皇の本質の理解をもっと広める必要がある。そのためにも、まずは国民の間での理解を深めることが必要だろう。


■2.「『主権者はだれか』という深刻な疑念」

 この即位礼に欠席したのが共産党である。欠席の理由を次のように「しんぶん赤旗電子版」で明らかにしている。

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「神話」にもとづいてつくられた、神によって天皇の地位が与えられたことを示す「高御座」(たかみくら)という玉座から、国民を見下ろすようにして「おことば」をのべ、「国民の代表」である内閣総理大臣が天皇を仰ぎ見るようにして寿詞(よごと=臣下が天皇に奏上する祝賀の言葉)をのべ、万歳三唱するという儀式の形態自体が、「主権者はだれか」という深刻な疑念を呼ぶものです。[2]
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 さすがに、こんな言い分をまともに受けとめる国民も少ないだろうが、こうした論理のおかしさを明確に指摘しておくことが、天皇の本質について国民の理解を深めることにつながるので、以下、反論をしておこう。

 まず共産党の主張では、上に立つ者は「権力者」だ、という前提がある。確かに習近平や金正恩が軍事パレードを見下ろす姿は「権力者」そのものである。それも民主的に選ばれたわけでもない人間が国民を見下ろすのだから、日本共産党は彼らにこそ「『主権者はだれか』という深刻な疑念」を持つべきだろう。

 しかし、国民が見上げる人がすべて「権力者」という訳でもない。たとえばローマ教皇はサンピエトロ広場に集まった群衆を大聖堂のバルコニーから見下ろしてお言葉を述べるが、教皇は「権力者」ではない。「権威者」である。

 同様に、天皇は「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」としての権威を持たれているのだから、その権威者に対して、国民が仰ぎ見ることは何の不思議もない。191カ国・機関から参列した外国の元首・首脳も、天皇の「権力」に屈しているわけではない。友好国・日本の元首として、その権威を仰いでいるのである。

 西洋史においては天皇を例えるとしたら、権力者であるエンペラーよりも、権威者である教皇の方がはるかに近い存在なのである。マルクス主義の唯物論では、人間が権威を仰ぎ見る、という精神性を理解できないので、仰ぎ見るのはすべて「権力者」である、という単純な錯誤に陥るのだろう。


■3.「国民の幸せと世界の平和を常に願い」

 天皇陛下は、即位礼正殿の儀で、次のように述べられた。

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上皇陛下が三十年以上にわたる御在位の間、常に国民の幸せと世界の平和を願われ、いかなる時も国民と苦楽を共にされながら、その御心を御自身のお姿でお示しになってきたことに、改めて深く思いを致し、ここに、国民の幸せと世界の平和を常に願い、国民に寄り添いながら、憲法にのっとり、日本国及び日本国民統合の象徴としてのつとめを果たすことを誓います。[3]
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 上皇陛下について「常に国民の幸せと世界の平和を願われ、いかなる時も国民と苦楽を共にされ」と述べられ、御自らも「国民の幸せと世界の平和を常に願い、国民に寄り添いながら」と繰り返されている。

 すなわち「国民の幸せと世界の平和」を願われること、そして「国民と苦楽を共に/国民に寄り添い」が天皇の御使命である事を述べられている。これが権力者の言葉ではない事は、正常な国語能力を持つ人なら明白である。

 外国人に対しても、天皇とはどのような存在かと説明する際に、「国民の幸せと世界の平和を常に願い、国民に寄り添」う存在である、と答えれば、簡明至極である。それは我々の勝手な解釈ではない。天皇ご自身が即位の式で、国民及び全世界に対して誓われたことである。


■4.「天皇のつとめ」「国民統合の象徴としての役割」

 今回のご即位の発端となったのは、平成28(2016)年8月8日に、上皇陛下が直接「ビデオメッセージ」としてお伝えした「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」だった。その中に次の一節がある。

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私はこれまで天皇の務めとして、何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えて来ましたが、同時に事にあたっては、時として人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うことも大切なことと考えて来ました。[3, p13]
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「国民の安寧と幸せを祈る」「人々の傍らに立ち・・・」と、今上陛下が即位にあたって述べられたお言葉の原型がここにある。そして、これが「天皇の務め」と明言されている。

 近代・近世の天皇方の詔勅を平明に解説した好著『時代を動かした天皇の言葉』[3]では、このお言葉に対して、次のように述べている。

__________
 その陛下が第一にお心に懸けてこられたのが「何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ること」でした。われわれは、祈りこそが天皇の最も大切なお務めであると知っていても、天皇の生の声を通して直接このようなお話を伺うことはありませんでした。[3, p16]
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「民安かれ」の祈りこそ天皇の務めであると、「天皇の生の声を通して」直接拝聴したのは、歴史上初めての事であった。


■5.「全身全霊をもって」行われるべき祈りを続けるために

 こう述べた後で、上皇陛下は、ご高齢に故にこの務めを続けられるかどうか、懸念を示される。

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 既に八十を越え、幸いに健康であるとは申せ、次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています。[3, p13]
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 この点に関して、上記の『時代を動かした天皇の言葉』では次のように述べている。

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 テレビを通して、陛下から直にこの「全身全霊をもって象徴の務めを」果たしてきたというお言葉を聴いたときの驚き、有り難いという思いを感じられた方も多いと思います。[3, p17]
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「民安かれ」の祈りは、まさに「全身全霊をもって」行われてきたのである。しかし、御年80歳を超えて御身体の衰えを考えるとき、もはや「全身全霊をもって」民安かれの祈りを続けることはできない。それが上皇陛下がこの「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」を発せられた動機であった。

 そこには「もう年だから、この仕事はきつい」とか、「あとはゆっくり楽をしたい」というような私情は露ほども感じられない。「全身全霊をもって」行われるべき祈りを続けるためには、次代に継承するしかない、という無私の御心なのである。

 この上皇陛下の「祈り」の継承への御意思が、今上陛下の御即位の言葉にしっかりと受け止められているのである。


■6.「責務」と「天職」

 上皇陛下は30年前、昭和64(1989)年1月7日の昭和天皇崩御の翌々日に開かれた即位後朝見の儀で、次のように述べられた。

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 顧みれば、大行天皇には、御在位60有余年、ひたすら世界の平和と国民の幸福を祈念され、激動の時代にあって、常に国民とともに幾多の苦難を乗り越えられ、今日、我が国は国民生活の安定と繁栄を実現し、平和国家として国際社会に名誉ある地位を占めるに至りました。
 ここに、皇位を継承するに当たり、大行天皇の御遺徳に深く思いをいたし、いかなるときも国民とともにあることを念願された御心を心としつつ、皆さんとともに日本国憲法を守り、これに従って責務を果たすことを誓い、国運の一層の進展と世界の平和、人類福祉の増進を切に希望してやみません。[4]
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 上皇陛下も、昭和天皇の「ひたすら世界の平和と国民の幸福を祈念され」た御遺徳を継承して、この「責務を果たすことを誓」われ、平成の30年間を「全身全霊をもって」務めてこられたのである。

 ちなみに、昭和天皇も昭和3(1928)年11月10日の即位礼において発せられた勅語で、歴代の天皇が「国をもって家と為し民を視ること子の如く」臨まれたとして、祖宗の擁護と国民の助けによって、この「天職」を堕(お)とすことなきを願う、と述べられている。表現は異なるが、その御心は上皇陛下、今上陛下に継承されている。

 国を一つの「家」となし、民は「子」を如く視て、その平和と安寧を祈られるのが、歴代天皇の「天職」であり、責務なのであった。この「天職」「責務」が現実に歴代天皇によってどのように果たされてきたのかは、拙著『日本人として知っておきたい 皇室の祈り』[a]で辿った通りである。


■7.崇高なる「責務」の世襲

 これらのお言葉と対比して、もう一度、共産党が呈した「主権者はだれか」という「深刻な疑念」を考えて見よう。この場合の「主権者」とは、「至高の権力」を持つ人間の意味である。この言葉は、国王が国民と国土を自らの「財産」としてきた欧州の歴史から生まれてきた。

 その「至高の権力」を国王から奪い取ろうと国民が戦ってきた。その戦いの中から誕生したのが「民主主義」であった。民主主義、すなわちデモクラシーの語源は古代ギリシャ語の「デーモス」(人民)がクラトス(権力・支配)を持つ、という意味である。

 この意味で、金正恩のように「至高の権力」を世襲する体制を批判し、打倒あるいは法によって抑制してきたのが、欧州の民主主義の伝統であった。

 しかし、昭和天皇と上皇陛下が国民に誓い、かつ「全身全霊をもって」お努めになってきたのが「民安かれ」の祈りであった。それは「権力の世襲」ではない。「聖なる責務」の世襲なのである。

 この点が共産党員たちには見えていない。欧州の国王と民衆の権力闘争の歴史の中から生まれたマルクス主義の階級闘争史観という色眼鏡をかけて、それとは全く異なる我が国の歴史を素直な眼差しで見ようとしないのだから、この史実が見えないのも当然である。


■8.国民の「責務」

 先に引用した上皇陛下のお言葉の中で、もう一つ心に留めておきたい一節がある。

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 皇太子の時代も含め、これまで私が皇后と共に行って来たほぼ全国に及ぶ旅は、国内のどこにおいても、その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々のあることを私に認識させ、私がこの認識をもって、天皇として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした。[3, p14]
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 上皇陛下は国民に寄り添うための全国への旅の各地で「その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々」と出会われた。それが御心のうちに、「人々への深い信頼と敬愛」を育てられた。

 日本でただ御一人、「国民を思い、国民のために祈るという務め」をほとんど生涯にわたって「全身全霊をもって」務められるという事は、思えば孤独な道である。しかし、「その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々」に、上皇陛下は同行者を見いだされたのである。その発見が天皇の務めを幸福なものとした。

 新たに、天皇として務めを始められた今上陛下も、また各地で「その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々」に出会われて、「人々への深い信頼と敬愛」をお持ち頂けるよう務めるのが、この国に生を授かった民の「責務」である。

 天皇の「民安かれ」の祈りに導かれて、国民が各地、各分野で「共同体」を地道に支える。それが「和の国」の幸せを実現する道なのである[b]。
(文責 伊勢雅臣)

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■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
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1. 「即位礼正殿の儀参列予定の国・機関と出席者 外務省発表、21日時点」『産経新聞』R011022
https://www.sankei.com/life/news/191022/lif1910220020-n1.html

2. 「『即位の礼』儀式 憲法に抵触」『しんぶん赤旗』R011022
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-10-22/2019102204_03_0.html

3. 茂木貞純, 佐藤健二『時代を動かした天皇の言葉』★★★、グッドブックス、R01
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4. 「主な式典におけるおことば(平成元年)」宮内庁ホームページ
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/okotoba/okotoba-h01e.html#D0109

5. 「官報 号外」(昭和3年11月10日)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2957025/3

この記事へのコメント

功成
2019年10月28日 01:35
陛下の即位礼は、たまたまテレビでリアルタイムに視聴することができました。
それまで雨が降っていたのに、即位礼が始まると共に突然止んだのは、何とも言えぬ神秘的な事象を目の当たりにした気持ちになりました。

あとで虹も掛かっていたことを知り、天も陛下の即位を祝されたのかと嬉しくなりました。
2019年11月04日 02:06
私はイタリアに在住しておりますが、インターネット(YouTube)のおかげで日本の皆様と同じようにLiveで拝見することができ感激しています。いい時代になったものだと思います。

学生時代かなり手強い左翼だった私ですが、天皇家の存在に関しては微塵も疑問を抱いたことはありません。
何にでも単に反対すればいいという日本共産党の姿勢はあの頃の私よりもさらに幼い感じがします。
威厳のある物事には自然に頭が下がるという当たり前のことを素直に認めるべきでしょうね。

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