No.1171 明治日本の躍進を生んだ人々はいかに育ったのか?


 古典教育を通じて情(共感)、意(利他)、知(処を得る)のバランスのとれた偉人たちが近代国家を作った。

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国際派日本人養成講座Live 新シリーズ「世界に誇る『和の国』の教育」
■第2講「共同体で輝く日本の力 編」申込み受付中

■第2回 7/25(土)AM10:00~11:30
(当日、ご視聴できなくとも、録画ビデオはご覧にいただけます)

(一般向け)¥4480(税抜)
https://in.powergame.jp/iskne2_gene

(学割)¥1480(税抜)
https://in.powergame.jp/iskne2_2006_release_stu?cap=is

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■1.根っこ、幹、花の「全人モデル」

 昨日、「国際派日本人養成講座Live」の第2シリーズ「世界に誇る『和の国』の教育」の第1講「明治日本の躍進」編を発信させていただきました。1100名以上ものご参加をいただきました。

 今回は香港、アメリカ、ブラジル、ドイツ、スイスなどからも聴講いただきました。アメリカやブラジルでは金曜日深夜、ドイツ、スイスでは土曜日未明の時間帯です。それでも受講いただいた事に感激しました。

 今回も、講義中および講義後にたくさんのご意見、ご質問をいただきました。ご参加頂けなかった方々にも、参考となる点が多々ありましたので、本稿でご紹介させていただきます。[a]

 今回の「教育」シリーズの柱としたのは、「全人モデル」というフレームワークです。これは樹木をモデルとして、

   根っこ:共感の「情」
   幹:利他の「意」
   花:処を得るの「知」

 として、知情意のバランスのとれた全人教育を目指すべき、という主張です。明治日本の躍進を担った人物として、明治の日本人の10人に1人が読んだ『学問のすすめ』の福沢諭吉、近代日本最初の世界的医学者・北里柴三郎、世界最先端の自動織機を開発した豊田佐吉を例に、それぞれの知情意を紹介しました。

 たとえば、福沢諭吉は上海で英国人に侮蔑されている中国人の姿を見て、日本人同胞にはこういう思いをさせたくない、という「共感」の「情」を持ちました。そこから「一身独立して一国独立す」と国民一人一人が独立精神を以て国家の独立を維持しようという利他の「意」を抱き、その結果、『学問のすすめ』という大ベストセラーを出して教育者としての「処を得」ました。

 現在、教育というと「知」ばかり着目して、早く花を咲かせるよう詰め込み教育を行っていますが、しっかりした幹なくして、立派な花が咲くはずもなく、また深い太い根っこなしには立派な幹も育ちません。根っこも幹も無視して、ただ花を咲かせようというところに、現代教育の徒花(あだばな)ぶりが見てとれます。


■2.共感と利他は人間の本能

 利他心とか、世のため人のための志などというと、いかにも古めかしいという批判を受けそうですが、実はそういう考え自体が時代遅れとなっています。現代科学は、人間が共同体の中で助け合って生き延びてきた生物であり、進化の過程で共同体を維持するために、他者との共感や利他心を発達させてきたと考えています。

 この点は、次回講義で詳しく述べますが、共感と利他心が人間の本能である以上、これらを無視した知のみの詰め込み教育は人間の本性にそぐわない非人間的なものとなっています。「一流大学に行き一流企業に入るために、しっかり勉強しなさい」と、利己心に訴えるような教育では、子供たちの心の奥底からのエネルギーは出てきません。

 それよりも、「世のため人のために尽くせる人間になれるよう、しっかり勉強しなさい」と子供の共感と利他心に訴えるべきです。そして、その根っこと幹を育てるために、古典や偉人伝を読み聞かせたりするのが教育の基本となります。

 明治の日本人たちが世界史に残る躍進を実現できたのも、共感の情、利他の志、処を得るの知を育てて、人間の心の奥底からのエネルギーをフルに発揮できたからです。


■3.なぜ、当時の人々は熱心に学問を求めたのか

 こういう明治日本の人作りの基礎は、江戸時代の寺子屋でできたと考えられます。幕末期には全国で1万6千もの寺子屋がありました。現在の小学校が2万7千校ですから、その6割ほどの数の寺子屋が、人口が現在の1/4ほどしかない時代に作られていたのです。

 それらはすべて有志のお師匠さんたちが設立したもので、それだけの寺子屋に子供たちを学ばせようとする親も多かったということです。我々の先人たちの教育意欲、学習意欲には驚かされます。どうしてそれほど教育、学問に対する意欲が高かったのでしょうか。

 講義では、農村自治での徴税はすべて文書でやりとりされており、読み書きは農民にとっても必要であったこと。また農業技術を解説した「農書」が多数、出版されており、それらを読むことで、出来高を上げることができた、等々の実利的な面をお話ししました。

 しかし、それだけでなく、たとえば江戸時代初期の中江藤樹が真心を磨くことを説いた平明な学問が広く農民、商人、職人にまで浸透していったり[a]、中期の石田梅岩が商人としての道を説いた石門心学が広まったり[b]と、当時の学問は、人としての生き方を説くものでした。寺子屋でも、論語の素読で、まずは「仁」「忠恕」など、人としての思いやりを教えました。

 花ばかり教えようとする現代教育では、子供たちは勉強の目的も分からないので、学習意欲がでるはずもありません。江戸時代の教育はまずは根っこや幹を育てようとしたのです。人間の本能である共感と利他心を刺激すれば、そこから勉強しようという学習意欲も湧いてきます。

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 私の先祖に寺子屋の先生をしていたと言う話が先祖から伝わる「系図」にありますが、本日の先生の話を伺って誠に感動いたしました。私の使命として本日の先生の講話を、私の息子や孫に伝える宿命を感じ取りました。(Kinncyanさん)
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 寺子屋の先生をしていた事を系図に残すくらいですから、周囲からも尊敬され、一族にとっても誇りだったのでしょう。利他の心からボランティアで寺子屋を営むお師匠さんたちの生き方それ自体が、子供たちにも、立派な人間になりたい、そのために勉強したい、という気持ちを奮い立たせたことでしょう。

 そう考えると、共感も利他心も教えず、「知」ばかりを詰め込もうとする現代の教育は、子供たちから学問を求める心を奪い、知情意兼ね備えて幸せになる道を閉ざしているのではないでしょうか。


■4.「教科書の墨汁塗りつぶしを経験した」

 そもそも現代の教育がなぜ共感や利他心を黙殺してしまったのでしょうか。目黒佳子さんが、次のような体験談を語って下さいました。

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 大変興味深く拝聴させて頂きました。日本の敗戦は私の小学校5年の夏でした。秋からは教科書の墨汁塗りつぶしを経験した世代です。今日伺ったお話の大半は修身や国語のテキストで既に習っていましたが、私の直ぐ下の世代は黒く塗りつぶされ学んでいません。教育勅語や五箇条の御誓文も禁断の書となりました。

 両親はこの二つを書家だった叔母に書いて貰い額に入れて子供部屋の壁に掛けて呉れました。そして教育勅語は人間の守るべき道、五箇条の御誓文は民主主義の根元が示されているから「毎日読んでよく吟味せよ」と言われて育ちました。今日のお話を伺い、新しい価値観が怒涛のように襲って来て変形して行く教育環境の中で「よくぞ護って呉れた」と両親に改めて感謝しました。
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「今日伺ったお話の大半は修身や国語のテキストで既に習っていました」というご感想に、ご先祖様たちからの声援をいただいたようで、改めて心強く思いました。

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 今でも教育勅語が出てこないというのは、どういう理由からなのか? 少なくとも占領が終了して60年も過ぎている。
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 まことにごもっともなご質問です。共感という根っこ、利他という幹を奪われては、徒花(あだばな)の知しか残されません。根のない知は占領軍の「墨汁塗りつぶし」にやすやすと操られて、「教育者は労働者」というような浅薄な左翼思想に騙されてきました。まずは「墨汁塗りつぶし」を消し去って、共感という根っこ、利他という幹を蘇らせる処から始めなければなりません。


■5.「応援してくれる皆のため」の方が頑張れるのではないか

 占領軍が、共感や利他の心が芽生えないよう「教科書の墨汁塗りつぶし」をした事は、日本人のエネルギーを枯らすために、まことに効果的な政策でした。講義でも申し上げたように、人は自分のためよりも、人のための方がエネルギーが出るからです。この点を柳井康伸さんが、次のように体験を語ってくれました。

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 私は小さい時から、スポーツをやっていました。そして長い間「自分のために頑張るのだ」と言い聞かせていましたが、大学4年の引退の直前に、「これは違うのではないか? 応援してくれる皆のため」の方が頑張れるのではないかと思いました。

 本日の講義で、「利他」の精神こそが重要なのだという言葉は、あの時感じた自分の気持ちが間違いでなかったことを思い起こさせてくれました。
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■6.「私たちは、両親が大事だったから、その期待に応えようと勉強した」

 共感と利他の心がエネルギーを生む実例として、ブラジルの日系人の皆さんの頑張りぶりを紹介しました。たとえば、日系人はブラジルの人口の1%弱ですが、名門サンパウロ大学では9.5%も占めていること、また小学校上級での算数の成績は、日系の子供たちが断然のトップを占めている点。

 こうした優秀さの理由として、日系人が勉強熱心なことが挙げられますが、なぜ熱心に勉強したのか、中川ヒロコ・イベッチさんは次のように説明しています。

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 家族の名誉を苗字の重みに感じている。母は小学3年、父は4年までしか行かなかった。彼らは学歴でバカにされたから、私たちの教育は彼らにとってとても重要なものだった。私たちは、両親が大事だったから、その期待に応えようと勉強した。
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 移民した当初はみな貧しい労働者としてスタートしますから、学校にはあまり行けません。初期の移民は学歴で差別されて悔しい思いをしたので、子供たちには立派な学歴をつけさせようと頑張りました。そのように親が子を思う気持ちは、子供には痛いように感じられたでしょう。親の気持ちに応えるべく頑張ったというのです。

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「共感」、「利他」のエネルギーの項で、日本から遠く離れたサンパウロ大学における日系人の成績の良さ、並びに「家族の名誉、苗字の重みに応えて勉強した」との中川さんの言葉には、胸を打たれました。(島津薩摩さん)
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 ちなみに、ブラジルで美しい日本語を通じて、子供たちの美しい心を育てようという趣旨で設立された大志万学院を卒業した日系5世の高校生・宮崎真優さんが「天皇陛下御即位三十年奉祝感謝の集い」で完璧な日本語と、深い内容で満場の感動を呼んだ事をご紹介しましたが、早速、次のようなお便りもいただきました。

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ブラジル日系人五世 宮崎真優さんの「天皇陛下御即位30周年奉祝感謝の集いスピーチ」youtubeで早速見ました。本当に素晴らしかった。まるで自分も皇后陛下、天皇陛下、と順にお会いできたかのような共感ができて、ものすごくありがたい気持ちになりました。(キクちゃん)
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「日本語を通して、私はおもいやりと優しさの心を学ばせていただいています」という一節から、宮崎さんは利他の心にあふれた先生方から、利他の心を学んでいるのだと推察しました。以下から、ぜひご覧下さい。
https://www.youtube.com/watch?v=sx0wsjmdre4
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■7.「一家庭の母親として」

 講義の最後は、いつもの如く「一隅を照らす、これ即ち国宝なり」という最澄の言葉を引用して、「教育は国民全体の、かつ国家最重要の課題であり、同時に一人一人が家庭、地域、職場などでなんらかの貢献ができる分野です。一隅を照らすために、ご自身では何ができるか、考えていただきたい」と結びましたが、早速、その答えをいただきました。

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 一家庭の母親としてこども三人を教育していくうえで、すべての人に居場所のある社会を作ること、引いてはあなたにも必ず居場所があり、なすべきことがあり、その目的は利他の心を満たすものであれば、あなた自身の人生は喜びに満たされるということを、積極的に具体例で伝えていこうと思いました。
 父親は働いて家族が幸せであることが喜びであり、母親はその父親を支え、こどもが成長する姿を見ることが喜びであり、こどもは両親が自分たちの存在により幸せになっていることを見て、生まれた喜びを感じる、
そこまでは身近に感じ理解も出来ますので、その先の家族から外へ視線を向け、暮らす地域社会のために出来ること、国家のために出来ること、地球のために出来ることを、こんなすごい人がいるよという動画や本の紹介、食事時の会話などに織り込んでいこうと思いました。ありがとうございました。
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 こういうお母さんに明るく照らされた一隅に育つ三人のお子さんたちは、将来、成人してそれぞれの一隅を立派に照らす国の宝に育ってくれるでしょう。そういう子供たちが一人でも多く育つよう、皆で頑張りましょう。

 7月25日の第2回講義では、現代の心理学や進化人類学の成果から、人間は共同体での助け合いを通じて、共感や利他心を本能として発達させてきたこと、それに比して戦後日本の教育が時代遅れの個人主義や左翼思想にねじ曲げられてきた点を中心にお話しいたします。また積極的なご参加とご意見・ご質問の発信をお願いいたします。
(文責 伊勢雅臣)


■リンク■

a. 「国際派日本人養成講座 LIVE」、シリーズ「世界に誇る『和の国』の教育、「明治日本の躍進 編」レビュー投稿
http://www.prideandhistory.jp/sp/Review/index_iskne1.php

b. JOG(324) 中江藤樹 ~ まごころを磨く学問
 馬方や漁師を相手に人の生き方を説く中江の学問が、ひたひたと琵琶湖沿岸から広がっていった。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h15/jog324.html

c. JOG(406) 石田梅岩~「誠実・勤勉・正直」日本的経営の始祖
 それは経済的な豊かさだけでなく、精神的な豊かさへの道でもある。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h17/jog406.html

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