No.1216 フェイクニュースと毒入り餃子
フェイクニュースは毒入り餃子と同じ。消費者主権を発揮して、有害な新聞、雑誌、著者を敬遠しよう。
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伊勢雅臣の新著『この国の希望のかたち 新日本文明の可能性』
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・文明の問題として論じる意義に共感(おやおやさん)
幸いなことに、科学技術、特に通信技術の発達は、必ずしも「都市集中」を必要としないレベルに達しつつあります。この科学技術の恩恵を存分に活用して、地方分散を進め、グローバル化によって「瀕死の重傷」にあえぐ第一次産業を救い、同時に、失われてしまった共同体の和を回復して、人間の幸せの基盤を再構築しようというのが本書の一つの提言であると思います。
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■1.「疑念が次々とわいてくる」
本年2月3日、森喜朗・東京五輪・パラリンピック組織委員会会長が「女性蔑視」発言をしたとして、マスコミから袋だたきとなり、辞任に追い込まれました。翌日の朝日新聞社説は、こう訴えています。
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そうでなくても懐疑論が国内外に広がるなか、五輪の開催に決定的なマイナスイメージを植えつける暴言・妄言だ。すみやかな辞任を求める。
東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長を務める森喜朗元首相の女性蔑視発言である。
日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会に名誉委員として出席して、次のような耳を疑う見解を口にした。
女性がたくさん入っている(スポーツ団体の)理事会の会議は時間がかかる。女性は競争意識が強く、1人が手を挙げて発言すると自分も言わなければと思うのだろう。規制しないとなかなか終わらない――。[朝日]
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森会長は発言を謝罪し撤回しましたが、辞任は否定したとして、
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それで許されるはずがない。
こんなゆがんだ考えを持つトップの下で開催される五輪とはいったい何なのか。多くの市民が歓迎し、世界のアスリートが喜んで参加できる祭典になるのか。巨費をかけて世界に恥をふりまくだけではないのか。疑念が次々とわいてくる。[朝日]
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「疑念が次々とわいてくる」とは、冷静さを失って妄想に走っているようです。報道機関なら、その前に、森会長がどのような発言をしたのか、きちんと事実を報じるべきでしょう。
■2.「欠員があるとすぐ女性を選ぼうということになる」
「スポニチ」は、「森喜朗会長の3日の“女性蔑視”発言全文」を報道しています。スポーツ新聞ながら、こちらの方がよほど報道機関の責務を果たしています。それによると、森氏は上記の話は「誰が言ったかは言いませんけど、そんなこともあります」と他者の話として紹介した後で、次のように締めくくっています。
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私どもの組織委員会にも、女性は何人いますか、7人くらいおられますが、みんなわきまえておられます。みんな競技団体からのご出身で国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりです。ですからお話もきちんとした的を得た、そういうのが集約されて非常にわれわれ役立っていますが、欠員があるとすぐ女性を選ぼうということになるわけです。[スポニチ]
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「女性の話が長いという人がいるが」という他者の話を前置きした上で、組織委員会は違うと称賛している発言です。この前置きだけ切りとって森氏を糾弾する姿勢こそ、「ゆがんだ考え」としか思えません。慰安婦問題について、数々の意図的な誤報虚報をまき散らし、自ら「世界に恥をふりま」いた罪も反省しない朝日新聞の「プロパガンダ機関」の体質は、少しも変わっていないようです。
こんな朝日新聞を早期退職した烏賀陽弘道(うがや・ひろみち)氏が『フェイク・ニュースの見分け方』という本に、いかにもプロのジャーナリストが持つノウハウを書いています。今回はこの本から、学びしょう。
■3.「証拠となる事実の提示がない「オピニオン」(意見)は全部捨ててかまわない」
烏賀陽氏の著作で、最も強烈なメッセージは次の一文でしょう。
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ここで大胆な法則をお話ししよう。証拠となる事実の提示がない「オピニオン」(意見)は全部捨ててかまわない。
ファクトの裏付けがないオピニオンが社会にとって重要なことはほとんどない。あっても、それは例外的なことだと考えてよい。[烏賀陽、215]
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「ファクトの裏付けがないオピニオン」の実例として氏が挙げているのが、『安倍政治と言論統制-テレビ現場からの告発!』(『週刊金曜日』編)です。「告発」は次の一節から始まっています。
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2016年3月は『テレビが死んだ日』として歴史に刻まれるかもしれません。
『クローズアップ現代』(NHK)の国谷裕子さん、『報道ステーション』(テレビ朝日系)の古舘伊知郎さん、『NEWS23』(TBS系)の岸井成格さん。安倍政権の言論統制ともいえるメディア締め付けの下で、比較的、権力にもの申してきた看板キャスターがこぞって降板しました。独裁色を強める『安倍政治』でなければこんな事態は生まれなかったでしょう。(註一文責『週刊金曜日』メディア取材班)[烏賀陽、387]
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■4.3人とも「証拠となるファクト」なし
烏賀陽氏は、安倍政権の「メディア締め付け」で降板したという3人のキャスターを、一人ずつ検証していきます。
まず「NEWS23」の岸井成格氏。同書には「放送法遵守を求める視聴者の会」が新聞に出した意見広告が岸井氏降板の背景にある、といいます。しかし、この会は純然たる民間団体で、安倍政権とのつながりについては何も書いていません。しかも、わずか2頁後の「現役テレビ局社員匿名座談会」では、自らの主張を真っ向から否定するような発言を掲載しています。
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この(JOG注:岸井氏の発言が暴走気味になってきた)ため経営的な判断もあって、『岸井さんにはそろそろ降板してもらおう』となったんです。直接的に安倍政権が『クビを切れ』と言ってきたという話では全くありません。[烏賀陽、430]
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「ニュースステーション」の古舘氏の場合は、何も根拠は書いておらず、逆に古舘氏自身がこんな発言をしている事実を、烏賀陽氏は見つけています。
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僕に直接、政権が圧力をかけてくるとか、どこかから矢が飛んでくることはまったくなかった。圧力に屈して辞めていくということでは、決してない。(2016年5月31日付朝日新聞朝刊)
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「クローズアップ現代」の国谷キャスターの場合は、菅官房長官へのインタビューで、集団自衛権問題に関して執拗に批判的な質問をしたことから、「この一件のあと官邸からの風圧は日増しに強くなり、今回のキャスター降板につながったというのが大方の見方だ」としています。
ただ、「この一件」は降板の1年8ヶ月も前の話であり、「官邸からの風圧」とは具体的には何を指すのかも示しておらず、「大方の見方だ」というのも情報源不明です。烏賀陽氏がNHKのベテラン記者に会って確認したところ、「国谷氏は20年以上もキャスターだったので、交代は何ヶ月も前から決まっていた」ということでした。
「証拠となる事実の提示がない『オピニオン』(意見)は全部捨ててかまわない」とは、まさにこのような本のことでしょう。
■5.「日本会議陰謀論」6冊に「証拠となる事実」なし
「証拠となる事実の提示がない『オピニオン』(意見)は全部捨ててかまわない」という原則を例示した面白い事例を、もう一つ紹介しましょう。
2016年春から夏にかけて、保守系政治団体「日本会議」に関する書籍が次々に出版され、それらの多くは「日本会議は安倍政権の政策決定に重大な影響力を持っている」「政治の右傾化の原因は日本会議である」という説を展開していました。烏賀陽氏は以下の本を対象に、「証拠となる事実の提示があるか」という点をチェックします。
・菅野完『日本会議の研究』(扶桑社新書・2016年5月)
・上杉聡『日本会議とは何か-「憲法改正」に突き進むカルト集団』(合同出版・同年5月)
・成澤宗男編・著『日本会議と神社本庁』(金曜日・同年6月)
・俵義文『日本会議の全貌-知られざる巨大組織の実態』(花伝社・同年6月)
・青木理『日本会議の正体』(平凡社新書・同年7月)
・山崎雅弘『日本会議-戦前回帰への情念』(集英社新書・同年7月)
最初の菅野完『日本会議の研究』が15万部超のベストセラーとなって「日本会議陰謀論」のブームを作り、その後、わずか2か月でこれだけ次から次へと同じテーマの本が出たのです。これらの本をすべて調べて、烏賀陽氏は次のように結論づけています。
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しかし、残念ながら、私はどの本を読んでも「日本会議が安倍政権の政策決定に重大な影響力を持っている団体」という説に首肯できる事実を見出すことができなかった。[烏賀陽、118]
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■6.「日本会議関係者」とのミーティングは10年間で49分
たとえば、日本会議の幹部が安倍政権関係者に頻繁に会っている、などという「事実」が提示されていればともかく、そういった事実はこの6冊では出てこない、と烏賀陽氏は指摘します。氏が朝日新聞の「首相動静」欄を調べると、過去10年間で「日本会議」という語が登場するのは以下の2件のみでした。
・2016年3月14日付け朝刊 1時37分、日本会議地方議員連盟の会合に出席。2時18分、東京・富ヶ谷の自宅。
・2006年11月14日付け朝刊 4時51分、日本会議国会議員懇談会の平沼赳夫会長ら。59分、国会。
次の予定までフルに日本会議関係者との面談に使ったとしても、前者は41分、後者は8分、合計49分です。これが10年間の実績です。日本会議関係者と名乗らずに会っている、あるいは秘密裏に会っている可能性は否定できませんが、それを立証する責任は「日本会議が安倍政権の政策決定に重大な影響力を持っている団体」という説を主張する側にあります。
6冊も本が出ていながら、どれもこの「立証責任」を果たしていないのでは、単なるゴシップ本に過ぎず、こういう本をいくら読んでも、出版社を儲けさせ、「日本会議」への妄想を逞しくするだけで、読者の見識は深まりません。
まさに烏賀陽氏の「証拠となる事実の提示がない『オピニオン』(意見)は全部捨ててかまわない」という原則をそのまま当てはめるべき本でしょう。ただ、「捨てて構わない」というよりは、有害なフェイクニュースは「捨てるべき」と弊誌は主張します。
■7.フェイクニュースと毒入り餃子
平成19(2007)年末に起きた毒入り餃子事件を覚えているでしょうか? 中国から輸入した冷凍餃子を食べた3家族計10人が、下痢や嘔吐などの中毒症状を訴え、このうち1人の女児が一時意識不明の重体になった事件です。鑑定結果からは、餃子数個を食べたら致死量に達するほどの有機リン系殺虫剤が検出されました。
この事件は氷山の一角で、他の食品でも他の国でも中国産食品による中毒事件が起こっています。毒入り餃子は肉体の健康を害しますが、フェイクニュースは精神の健康を害します。朝日の「従軍慰安婦」虚報は日本国民のみならず、多くの外国人にも誤った歴史観を植え付けてしまいました。
また上述の何冊もの「日本会議陰謀論」の本が十数万部も売れたということは、十数万人の人が毒入り餃子を食べて、中毒症状まではいかなくとも、知らないうちに有害な殺虫剤成分を体内に蓄積してしまったのと同じでしょう。こういう有害物質が脳内に蓄積してくと、やがて健全な判断が出来なくなってしまいます。
日本の情報市場は、いつ毒入り食品を食べさせられるかも知れない中国の食品市場と同じ無法状態とです。毒入り情報を規制する法律も政府機関もほとんどありませんが、言論の自由にも抵触する恐れもあるので、今後も有効かつ安全な公的規制は、すぐにはできないでしょう。
とすると、我々は我々自身で毒入り情報から身を守らなければなりません。変な味や匂いのする食品を危ないとして避けるのと同様に、毒入り情報を検知して避ける自己防衛が必要です。その検知手段のひとつが、烏賀陽氏の説く「証拠となる事実の提示」があるかどうか、ということでしょう。これは本屋での立ち読みレベルでも確認できる簡便な方法です。
しかし、このチェック方法だけでは冒頭の森発言報道のような「事実の切り取り報道」や、「従軍慰安婦」報道のような「事実のでっち上げ報道」は、見た目の「証拠となる事実の提示」をしているだけに、見破れません。こういう高度な毒入り情報から身を守る方法が、前科のある企業を避けることです。
食品市場では、有害食品を売った企業はそれ以降、多くの消費者の信用を失って経営的ダメージを受け、潰れるか、再発防止を徹底して再出発しなければなりません。こういう消費者主権が、危険な企業を駆逐して、食品市場の安全性を高めていくのです。
情報市場においても、毒入り情報を乱発している企業は、同様に消費者主権によって制裁を受けなければなりません。近年、朝日新聞が大きく発行部数を減らしているのは、まさに消費者主権による制裁です。ただ冒頭の森発言に関する毒入り社説を見ると、何も反省していないようです。
我々が毒入り情報に対する危険予知能力を高めることは、自分自身の精神の健康を保つだけでなく、日本の情報市場の安全性・健全性を高める事にもつながるのです。わが国の政治、経済、外交、教育を真っ当なものにしていくためには、主権を持つ国民が真っ当な見識を持つ必要があります。そのためには、真っ当な情報源が不可欠なのです。
健全な国民主権を確立するには、まずは情報市場での健全な消費者主権を発揮しなければならないのです。
(文責 伊勢雅臣)
■リンク■
・JOG(1181) 朝日新聞は罵倒、呪詛(じゅそ)、偏見から脱却できるか
安倍政権への呪詛まみれの論説を載せながらも、「安倍政権を「評価する」が71% 朝日新聞世論調査」と報じたのは?
http://jog-memo.seesaa.net/article/202009article_1.html
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
→アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
・朝日新聞ディジタル「(社説)女性差別発言 森会長の辞任を求める」、R030205
https://www.asahi.com/articles/DA3S14789266.html
・烏賀陽弘道『フェイクニュースの見分け方』★★、新潮新書(Kindle版)
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・スポニチ「森喜朗会長の3日の“女性蔑視”発言全文」、R030204
https://www.sponichi.co.jp/sports/news/2021/02/04/kiji/20210204s00048000348000c.html
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