No.1250 大御宝による、大御宝のための国


 日本は「大御宝のための国」として建国され、大御宝たちが力を合わせて護ってきた。

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■1.「日本の未来を少しでも明るくできるよう」「一人でも多くの方が幸せに生きられるよう」

 新年早々、1月9日に東京駅前の八重洲ブックセンターにて、国史啓蒙家ねずさん、こと小名木善行さんとのトークショーを行いました。ねずさんの明るい、ユーモアたっぷりのお話に引きづられて、私も楽しくお話できました。いずれ動画が公開されたら、読者の皆さんにお知らせしますが、出席者の皆さんのご感想を、ここで、お二人だけ紹介させていただきます。

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新年早々に希望のわくお話をお聞きできて、良かったです。私は30代前半ですが、日本の社会はかなり行き詰まっていると感じていました。しかし本日、お二人のお話を聞き、私自身も一隅を照らす生き方をして、日本の未来を少しでも明るくできるように頑張りた
いと思いました。(地方公務員・男性A様)
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素敵な講演会でした。私も寺子屋を母と始めました。両先生のお話は自信を持って生きていくための原動力となる話だと思いました。一人でも多くの方に知っていただけるよう、一人でも多くの方が幸せに生きられるように、出来る範囲で少しずつ活動をしていきた
いと思います。(会社員・女性U様)
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「日本の未来を少しでも明るくできるよう」「一人でも多くの方が幸せに生きられるよう」というお気持ちを述べていただきました。

 最近の心理学では、このような利他心は人間の本能の一部だとして、それを発揮することが人間を元気にする、と唱えています。当日は、こういう生き方こそが、我が国が建国された目的であり、神話時代から一貫した国家を続けてこられた原動力であり、また「この国の希望のかたち」だと、お話ししました。

小名木先生&伊勢先生イベント写真.jpg


■2.日本の歴史は「英雄」ではなく、庶民が作った

 トークショーでとりあげたのは、3冊の本、すなわち、ねずさんの『庶民の日本史 ねずさんが描く「よろこびあふれる楽しい国」の人々の物語』、私の『この国の希望のかたち 新日本文明の可能性』、それに最新刊の『判定! 高校「歴史総合」教科書 こんなに違う歴史記述』でした。この三冊を通して日本の歴史を見ると、二千年以上の歴史を貫く一貫した理想が見えてきます。

 まず、ねずさんの『庶民の日本史』に関しては、このタイトルを見た瞬間に「なるほど」と膝を打ちました。というのは、まさに日本の歴史は庶民が作ってきたものだからです。

 世界の歴史を見ますと、アレクサンダー大王とか、ジンギスカン、ナポレオン、ジョージ・ワシントンなどの「英雄」が歴史を作ってきました。ところが日本の歴史では、そういう「英雄」は見当たりません。せいぜい織田信長ぐらいでしょうか。その信長も天下統一の志半ばで倒れてしまいました。

 日本の歴史が庶民によって作られたというのは、明治日本の世界史に残る大躍進によく現れています。日本は幕末に開国し、日清・日露戦争に勝ち、第一次大戦での戦勝国にもなり、その後、国際連盟の常任理事国にもなって、国際社会で指導的な大国になりました。この間、わずか60数年しか経っていません。

 しかも、非白人国としては世界で最初に近代的立憲国家を作り、自由市場経済を発展させました。非白人でも西洋文明を吸収・発展できる、と世界に示したのは、明治日本だったのです。

 この大躍進は、明治天皇の精神的な指導はありましたが、個人的に明治維新を成し遂げた、という特定の「英雄」は見当たりません。まさに無数の庶民が、それぞれの場で頑張り、その結果として実現した世界史上の奇跡でした。


■3.偉業を成し遂げた庶民の知的、人格的エネルギー

 なぜ庶民の力だけで、世界史に残る偉業ができたのでしょうか。その庶民の力を養ったのは、ねずさんの本に書いてあるように、江戸時代の教育だったのです。幕末に日本にやってきた西洋人たちは、日本人の教育の高さに皆驚いています。本当の文盲は1%もいないのではないか、世界にこんな国はない、ということを書いています。

 これは、江戸時代に多くの藩が藩校を作って武士たちを教育し、さらに百姓や町人たちは寺子屋で学んだ。そこで養われた知的エネルギーが近代国家の建設に当たって、爆発的な力を発揮したということです。

 もう一つ大事なのは、知識だけでなく、人格教育です。庶民が助け合い、互いのために努力する、そういう思いやり、人格力が、近代国家を作る上で大きな役割を果たしました。

 ねずさんの本には武士がお能を見ることで武士道を形成したことが書かれています。武士は公のために尽くさねばならない、という武士道精神によって、明治になって、廃藩置県、四民平等で、武士の特権を返上する、などという奇跡的なことまで実行できたのです。また、庶民も、太平記や忠臣蔵を歌舞伎や講談で見て、世のため人のために尽くすことが立派な生き方だと学んでいました。

 二宮尊徳は「積小為大」という言葉を説いています。「小さな努力の積み重ねが、やがて大きな収穫や発展に結びつく」という意味ですが、それは個人の生き方だけでなく、国民全体にも言えるでしょう。無数の庶民による小さな努力の積み重ねが、世界史に残る大業を成し遂げたのです。


■4.「国家」の中で支え合う「大御宝」

 この国の歴史が庶民によって作られたのと同時に、この国は庶民が安心して暮らせることを目的として建てられたものです。そのことは初代の神武天皇が即位されたときに、宣言されています。「大御宝(おおみたから)を鎮むべし」と。

「大御宝」とは『日本書紀』では漢字で「元元」と書いています。漢文では単なる「人々」という意味ですが、我が国では大和言葉で「おおみたから」と読ませたのです。したがって、日本の「庶民」は、「大御宝」と考えられていたのです。そして、その「大御宝」が「鎮むべし」、安心して暮らせるようにしよう、と神武天皇は即位の際に宣言されています。

 続いて神武天皇は「八紘(あめのした)を掩(おお)ひて宇(いえ)にせむこと、亦(また)良からずや」と述べられています。「大御宝」といっても、個人が国家に頼り切って安楽な生活をする「福祉国家」を目指したのではありません。一家の中で、祖父母、両親、兄姉から幼児まで、それぞれ処を得て、一家全体のために支え合う、それを「大御宝」の理想の姿とされたのです。

 日本語の「国家」にはわざわざ「家」の字を添えられています。国とは家と同じようなものと見なした先人たちの国家観が、「国家」というたった一つの言葉からも窺えます。私の知る限り、外国語にはこういう表現はありません。


■5.現代日本は国民を「大御宝」として大切にしているか?

 このように「大御宝」を捉えれば、現代日本は果たして大御宝を神武天皇が願われたような形で大切にしているのか、と問いかけなければなりません。たとえば、地方で生まれた青年が、ふるさとでは仕事が見つからないので、親元から離れて、都会に出なければなりません。

 都会で派遣社員やパートの仕事をしていたのでは、住宅費も高いので、結婚したくともできません。今や給与所得者のうち5人に1人は年収200万円以下です。そして、50歳以上の男性の4人に1人が未婚のままです。こういう経済的な苦境が、昨今の少子化の最も大きな要因なのです。

 政府の調査では、若者の意識で、「自分の将来は明るい」「どちらかと言えば明るい」と答えた日本の若者は、わずか31%です。3人に2人が、自分の将来を暗いものと捉えているのです。欧米ではこの数字は60%台です。若者たちがこれからの長い人生を歩んでいくのに希望も持てないとは、これほど残酷なことはありません。

 その一方で、子供たちが都会に出て行って取り残された老夫婦は、不安を抱えながら、広い家で寂しく暮らしている。これでは親も子も、大御宝として大切にされているとは、とうてい言えません。

 しかし「希望のかたち」はあります。たとえば福井県は三世代が同居、あるいは近居する家族の比率が高く、祖父母が育児を助けて、お母さんたちも外に働きに出る率も非常に高いのです。子供たちは豊かな自然と明るい家庭の中で、すくすくと育ち、その結果、学力も体力も、日本の都道府県の中ではトップクラスです。

 また、高齢化の問題も、このままでは年金がパンクするとか、介護が崩壊するというような暗い未来が喧伝されていますが、これも「大御宝を鎮むべし」をいかに実現するかと考えれば、「希望のかたち」が見えてきます。

 高齢化そのものは長寿という、おめでたいことなのです。そして、お年寄りの幸福とは、何歳になっても、元気で仕事をしたり、社会のために役だって、自分なりの居場所を持てることです。我が国では高天原の神々も、田んぼを耕したり機織りをしています。それが大御宝の幸せの姿です。

 そのためには、健康寿命を伸ばさなければなりません。寝たきりにならずに自分の力で健康に暮らせる。そういう寿命を健康寿命といいます。この健康寿命が延び、定年後も第二のキャリアを追求すれば、年金問題も軽減されますし、介護のニーズも減っていきます。

 ですから、いかに健康寿命を延ばすかというところに政策目標を置いて、医療技術の発展を目指す。それが現代において、大御宝を鎮めるための政策なのです。

 このように大御宝を大切にする国家とは、どのような形であるべきか、それを考えたのが『この国の希望のかたち 新日本文明の可能性』です。


■6.「大御宝による大御宝のための国」

 神武天皇の詔(みことのり)を継承して、歴代天皇は大御宝のために祈られてきました。その御祈りを実現すべく「大御宝」たちが、国を支えてきました。とすれば、「大御宝による大御宝のための国」こそが、我が国の歴史を貫く理想だったと言えます。

 しかし、現在の歴史教育には、こういう事をまったく教えていません。先人たちを断罪して、マルクス主義的な歴史観に誘導しようとする「思想誘導」型か、歴史現象の中に因果関係を求めようと先人たちの歩みに冷たい目を向ける「社会科学」型が中心です。

 例えば、学習指導要領には「日露戦争が世界に与えた影響を書くように」というガイドラインがあります。これに従って実教出版の教科書は「日露戦争での日本の勝利はアジア諸国の独立運動に影響を与えた」と書いていますが、すぐその後に「しかし、実際は日露戦争は帝国主義どうしの戦争であった」とちゃぶ台返しをします。何の説明も論証もない、問答無用型の記述です。

 そもそも世界一の陸軍、世界第二位の海軍を持つロシアに対して、その数分の一の戦力しかもっていなかった日本が、どうして帝国主義として覇権を争えるのでしょうか。高校生でも抱く疑問です。史実を黙殺して、日本が帝国主義だった、と誘導しようとすれば、説明も論証もできない、問答無用型の記述にならざるを得ないのでしょう。

「社会科学」型記述の例としては、山川の教科書で「日露戦争で、国民が期待したほどの賠償金や領土が得られなかったことに人々は不満を抱いて日比谷公園で暴動を起こした」と書いています。それは確かに史実の正確な記述です。しかしそのような論理的な記述では、生徒の頭に知識は貯まっても、心には届かないのです。

 そもそも賠償金や領土を得られても、国民の生活では何の得にもなりません。それなのに、なぜ当時の人々は暴動まで起こしたのでしょうか? 大切な息子を亡くした老人が、「せめて賠償金をとって、新しい軍艦の一隻でも建造できれば、息子の死もお国のためになったのに」という無念の気持ちを抱いたのかも知れません。

 そういう先人の心に迫れば、高校生たちも、当時の人々はそれほど、国家との一体感を持っていたのだ、と学べるでしょう。


■7.青少年を大御宝に育てる歴史教育を

 人間が心の底から共感できるのは、イデオロギーや理屈ではありません。史実に基づいた歴史物語こそ、先人たちの苦しみや悲しみ、喜びの声に耳を傾け、その歩みを共感を持って学ぶ事ができる、真の歴史教育なのです。

 例えば、明成社の教科書では、日露戦争後にインドの複数の新聞が、日本への熱烈な賛辞を送った史実を紹介しています。長い間、イギリスの植民地として苦しんだインド人たちが日本の勝利を見て、「アジア人も白人に勝てるのだ、それなら自分たちも独立に向けて頑張ろう」という希望を持ったのです。

 こういう史実を読むことによって、高校生たちは、自由で独立した国家の大切さを理解し、それを求めるインド人にこれほどの感激を与えた自分たちの先人に誇りを抱き、またそのような先人の子孫として日本の自由独立を護っていこう、という志を抱くのです。これこそが、国家を支える大御宝を育てる道です。

 逆に、思想誘導型では先人を恨み、あるいは嘲(あざけ)る人間しか育ちません。社会科学型では、頭の中に知識はたくさん詰め込んでも、それをどう使ったら良いのか分からない無気力な人間、あるいは自分だけ良い学校、良い会社に入れば良いという利己的な人間しか育たないでしょう。

 こういう青少年はせっかく日本に生まれたのに、立派な大御宝として育つ未来を奪われているのです。青少年が希望も志も持てない教育をしているということは、極めて残酷な「基本的人権」の侵害です。

「大御宝による大御宝のための国」を維持するには、一人ひとりの国民が、先人の苦闘努力に感謝し、その恩返しとして、自分の人生の中で周囲の人々や子孫のために尽くしていく、そういう志をもった大御宝になる必要があります。そういう大御宝の生き方こそ幸福に至る道であり、そういう人々が増えるほど、立派な国となって、より多くの国民を大御宝として大切にできるのです。

「大御宝による大御宝のための国」、この理想を思い出すことが、日本を再び元気のある国にするための本道だと考えます。
(文責 伊勢雅臣)


■リンク■

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・JOG(1243) 庶民に生き方を教えた「物語」教育 ~ ねずさんの『庶民の日本史』から
 日本の武士、農民、町民は、能や歌舞伎などの「物語」を通して、人の生き方を学んだ。
http://jog-memo.seesaa.net/article/202111article_3.html

・JOG(特別号外) 新日本文明の創り方(ロシア政治経済ジャーナルより)
http://jog-memo.seesaa.net/article/202104article_4.html

・JOG(特別号外) 伊勢雅臣著『判定! 高校「歴史総合」教科書 こんなに違う歴史記述』
http://jog-memo.seesaa.net/article/202201article_1.html

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以上

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