No.1272 戦前の日本軍、戦後の日本企業 ~ インドネシア自立のために
2億人規模の人口大国を比べると、インドネシアはブラジルやナイジェリアよりもはるかに高い成長率を示している。なぜか?
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■1.インドネシアの経済成長率の高さ
最近インドネシアについて調べていたら、興味深い発見をしました。インドネシアは人口2億人を超える東南アジアの大国ですが、同じく2億人規模の南米のブラジル、アフリカのナイジェリアと比較してみると、経済成長率が断然、高いのです。
過去40年の一人あたりGDP(国民総生産、購買力平価=物価調整済み)で見てみますと、インドネシアは1982年に1,582ドルでしたが、40年後の2022年には14,535ドルと9.2倍にも伸びています。
一方、ブラジルは同じ期間に3.3倍、ナイジェリアは古いデータがないのでここ30年ですが3.1倍です。インドネシアはこれら南米やアフリカの人口大国と比べると、遙かに高い成長率を示しているのです。この違いは、どこから来ているのでしょうか?
経済成長は国土や資源にも左右されますが、これらの面でインドネシアは決して有利なようには見えません。ブラジルはロシアを除いたヨーロッパ全土よりも広大な国土を持ち、農業や鉱業も盛んです。ナイジェリアは総輸出額の約8割を原油で稼ぐ資源大国です。
インドネシアは総面積こそ日本の5倍ほどもありますが、小さい島も含めると1万3000もの島々が東西5000キロ以上に広がる非常に細長い海域に散らばっていて、とうてい経済効率が良い国土には見えません。
■2.日本企業の貢献
この3カ国で大きな違いとして気が付くのは、日本企業の現地進出状況です。 日本貿易振興機構(JETRO)のデータでは、2019年時点の日本企業進出数ではインドネシア1,498社、ブラジル654社、ナイジェリア47社と圧倒的な違いがあります。同年の直接投資ではインドネシア26億ドル、ブラジル19億ドル、ナイジェリア500万ドルという状況です。
ブラジルやナイジェリアは日本企業の進出や直接投資が少ない分、欧米企業の進出や直接投資の比率が高いでしょう。 私がアジア・アフリカ・南米の状況を観察した印象では、日本企業は採用した現地人を一生懸命育てて、長期的に戦力化していこうとします。せっかく育てた人材を、欧米企業に高い給料で引っこ抜かれるなどということもよくあります。
しかし現地から見れば、日本企業は人材を育成して、その国の成長基盤を作ってくれる学校のような存在です。欧米企業は既存の人材を即戦力として活用するのが中心で、その国の人材を厚くするための貢献は少ないようです。これでは日本企業が多数進出しているインドネシアの方が有利になるのは、当然でしょう。
もう一つの違いは、 アフリカや南米の優秀な学生たちはアメリカやヨーロッパに留学し、そのまま欧米で就職することに憧れます。これでは優秀な人材が先進国に奪われてしまうのです。
それに対して、日本では幸か不幸か、外国人が留学生としてやってきても、国内で採用して活用させるというケースはそれほど多くはありません。外国人をエリートコースで使える日本企業はまだまだ少ないのです。これは途上国から見れば、留学で人材を鍛えてくれて、しかもちゃんと返してくれると言う理想的な形です。
しかも相手国が国民国家としてよくまとまっていれば、祖国のために働くことをよしとする青年も多いでしょう。この点で、インドネシアはブラジルやナイジェリアに比べれば、はるかに国民国家としてまとまってるように見受けられます。こういう国にとって、日本は、進出企業の人材育成と日本国内での外国人材吸収の下手な点で、理想的な相手国なのです。
■3.自力で独立を勝ちとったインドネシア
国民国家としてのまとまり状況は、それぞれの国の独立に至る歴史を比較してみれば、明らかになります。
インドネシアは17世紀以来、オランダの植民地として過酷な支配を受けてきました。1942年、日本軍の進攻によりオランダ軍は降伏。3年半の軍政期間中に、日本軍は独立運動家スカルノ、ハッタを解放し、独立に向けた教育の普及、標準語の普及、郷土防衛義勇軍(ペタ)創設など、自立の準備を急ピッチで進めました。
1945年、日本の降伏とともに、オランダ軍が再進駐して、植民地支配の復活を試みました。しかしスカルノ、ハッタを中心としたペタの4年5ヶ月、犠牲者80万人を出した抗戦により、ついに独立を勝ち得ます。
この過程で、1000人以上の日本軍将兵がインドネシア独立戦争に参加しました。うち324人が生き残ってインドネシア国籍を取得し、45人が日本へ帰国しましたが、残りは戦死または行方不明。12柱の戦没将兵が「国家英雄」として、英雄墓地に埋葬されています。
インドネシアは、日本の助力を受けつつも、自力で独立を勝ちとったのです。独立記念式典でもペタが行事の中心となっており、そこに彼らの歴史の基づく自尊心を見ることができます。
■4.ブラジルとナイジェリアの独立
ブラジルは1500年にポルトガル人によって発見され、以来ポルトガルの植民地とされてきました。1822年に独立しましたが、ナポレオン戦争による混乱の後、ポルトガル王家の一人がブラジルで新たに帝国を築くと言う形でスタートしました。植民地時代のエリート層もそのまま残ったので、独立と言うよりは、ポルトガル王国の分裂と言えるでしょう。
その後も各地方の実力者による反乱や、自由主義者による共和制を求める革命運動などが繰り返され、20世紀に入ってからも左派独裁者や軍部独裁政権の登場により、国民共同体としてのまとまりはなかなか出来ませんでした。
ナイジェリアは1472年にポルトガル人が都市ラゴスを建設し、以来、奴隷貿易の中心地としてヨーロッパの貿易商人たちが支配してきました。19世紀以降、イギリスの植民地支配が続きましたが、第二次大戦時に自治領とされ、1960年に独立しました。
しかし500を超える少数部族があり、また3つの巨大部族が勢力争いを続けて、政治は混乱を続けました。近年ようやく安定した民主政権が成立し、今後の着実な経済成長が期待されています。
ブラジルとナイジェリアに共通しているのは、それぞれの国家の独立はしてもその中での国民共同体は成立してはいなかったということです。独立後、同じ国の国民とはなっても、同胞感としての意識を持つに至るには、様々な紆余曲折が必要でした。
■5.国内政治の安定に必要な国民共同体
速やかな経済成長には、国内政治の安定が必要です。国内で激烈な勢力争いや内乱があったり、頻繁な政権交代によって経済政策がころころ変わるようでは、安定した経済成長は望めません。
そして国内政治の安定には、国民共同体の存在が欠かせません。国民共同体とは、国民が互いに同胞感を持ってひとつの国家を形成している共同体です。そこでは国民は自分自身の利益だけではなく、共同体全体の利益、すなわち公共の利益をも考えます。
したがって政治上の勢力争いがあっても、それが共同体全体の利益を脅かすようになると、そこで自制心が働きます。このような国民共同体が一国の政治的主権を持つ国家を、国民国家と呼ぶことができるでしょう。
我が国は地球上でも最も純度の高い国民共同体であり、国民国家です。また近代世界において西洋諸国が覇権を握ったのも、国民国家として国民のエネルギーを十二分に引き出したからです。
国民共同体はどのように実現されるのでしょうか。わが国や西洋諸国では、一つの民族として国民の間で歴史と文化を共有していることが有効な前提として働きました。長い歴史を通じて共通の言語と文化を育て、それによって結ばれた自然発生的な国民共同体でした。
ブラジルやナイジェリアの場合は、国家として独立したとはいえ、国民共同体ができていなかったという点が、その後の内乱や勢力争いの原因となりました。 国民共同体としてひとつにまとまっていくには何世代もかかります。お互いを理解したり、「互いに争っているよりは公共のためにまとまった方が良い」と国民の大多数が理解するには、それだけの時間がかかるのです。
■6.インドネシアが国民共同体になれたのは
ブラジルやナイジェリアと違って、インドネシアはなぜ速やかに国民共同体としてまとまりを得たのでしょうか。
インドネシアは1万3000もの島々に約300の民族が住んでいます。言語の数は700以上にのぼると言われています。この状態で学校を作り、共通語として現在のインドネシア語を普及させたのが日本軍の軍政でした。元ジャカルタ州知事のチョクロプラノ氏はこう言っています。
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おそらく日本は想像していなかったと思いますが、インドネシア人がインドネシア語を使うことによって感情の統一、行動の統一、民族の統一が図られ、インドネシアの民族はたいへん強くなったのです。
インドネシア語の普及は、我々の独立にとって、たいへんな力を発揮したんですね。[日本会議]
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もう一つは郷土防衛義勇軍(ペタ)の創設によって、自前の軍事力を持ち、それによって自らの力で独立を勝ち得たことでしょう。ケマル・イドリス氏(元中将、ペタ出身)はこう語っています。
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(日本語で)ニホンセイシンハ、イチバン。
日本精神は我々にとって一番。なぜなら日本精神で我々はオランダに向かったのです。我々はこの精神を独立戦争に持ち込み、その結果独立を達成したのです。我々は武器はなく、たとえ竹槍で戦っても、勇敢でした。だから我々は、日本が独立戦争の基本となった軍事能力を与えてくれたことに大変感謝しているのです。[日本会議]
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再侵略を図るオランダに対するインドネシアの独立戦争は4年5か月も続き、80万人もの犠牲をもたらしました。 しかし連帯してこの苦難を乗り越えたという経験がインドネシアの人々に同胞観を与えたのでしょう。
ナショナリズム研究の古典とされる『想像の共同体』を書いたベネディクト・アンダーソンは インドネシア地域の研究者でもあり、その独立運動を踏まえて国民国家の理論をうちたてました。
アンダーソンは、そこで、国民(ネーション)とは「イメージとして心に描かれた想像の政治共同体である」としています。インドネシアの様々な文化的歴史的背景を持つ人々は、この四年半の間に多くの苦難を体験し、それによって共通の歴史物語を得たのでしょう。
インドネシアがこれほど地理的に分散し、文化的な多様性を保ちつつも、一つの国民国家として統合された背景には、この苦難の歴史があったからでしょう。独立後も様々な政治的動乱を乗り越えて、非常に高い成長率を維持してきたのは、強い国民同胞感によって結ばれた国民共同体であったからだと考えられます。
■7.オランダの収奪、日本の独立支援
しかしここで不思議なのは、オランダが3世紀半にわたって搾取し続けたのに対し、日本がわずか3年半でインドネシア独立の力を与えた、という違いがどこから生まれているのかという点です。
もちろんオランダ人の中にも善良な人はいたでしょうし、日本人の中にも性悪な人間はいたことでしょう。しかし政府の行為としては、オランダの植民地搾取と日本の自立支援と、対照的な姿勢がありました。
これはオランダ人を非難し、日本人が自慢しているだけでは片付かない疑問です。なぜこういう違いが出てくるのか、私はここにはやはりキリスト教的世界観と神道的世界観の違いが潜んでいると考えます。
中世の一部のキリスト教においては、「異教徒は人間ではない」という考えがあったようです。そのために日本にやってきたキリシタンは、日本人を奴隷として海外に売りさばいても、罪悪感は感じませんでした。奴隷は洗礼を受けて人間になることができます。少なくとも異教徒のまま動物でいるよりは、奴隷であっても人間になった方が良いという正当化がなされました。
西洋諸国がアジアやアフリカに対する人種差別と植民地化を数百年も続けてきたのは、このキリスト教的人間観が潜んでいたからではないかと考えます。
それに対して神道的世界観では、人間を含めて全ての生きとし生けるものは神の分け命であり、同胞であると考えていました。この世界観から見れば、キリスト教徒の人種差別と植民地収奪は看過できないものでした。だからこそ 日本の敗退の後も、インドネシアの独立のために千名以上もの日本将兵が立ち上がったのでしょう。
本稿の冒頭で日本企業の現地進出が経済発展に大きく貢献していることを述べましたが、戦時中の日本軍による独立支援と、戦後の日本企業による経済発展貢献は よく似ています。どちらも現地の人を同胞として扱い、その成長を計るという意味では、全く人間観が窺われるのです。
ここに当人は気づかなくても、生きとし生けるものを同胞と感じ、「大御宝を鎮むべし」という日本の建国目的に沿った行動を知らず知らずでも、してしまうという「根っこ」の力が現れています。
しかしこの「根っこ」の力も放っておけば衰弱します。植物は「根っこ」から吸い上げた水を用いて、葉が受けた太陽光で大気中の二酸化炭素から有機物を作って、それで根や枝葉を伸ばすのです。それは我々が子や孫に「根っこ」の存在を教える教育に比せられるでしょう。
近年の日本の経済的衰退は、我々が根っこの存在を忘れて、この教育活動を怠っているからでしょう。インドネシアの40年で9.2倍という経済成長の史実から学ぶべきは、この「根っこ」の力を再認識し、それが再生するよう努力を怠らないことです。
(文責 伊勢雅臣)
■おたより
■共存共栄を志向する神道的な考え方は世界平和のベースとなる(Naokiさん)
インドネシアの発展を他の国との比較で分かりやすく伝えていただき、その根本にあるモノの違いについて理解できました。
インドネシア独立に日本が関わっていることは知っていましたが、その後の経済発展の基礎にも日本企業の存在があるとは知らなかったので驚きました。
驚きましたが、日本企業の存在の有無が他国との発展の相違の要因になっているという指摘に納得できました。
日本の神道的な考え方は共存共栄を志向するものであり、これからの世界平和のベースになり得ると感じました。日本人が「日本らしさ」をきちんと発揮すれば、世界に貢献できるはずです。
日本らしさは先人の歩んできた物語を知ることで育んでいけます。教育現場で物語を紡ぎ、日本も世界もよりよい場所にできる人材の育成に励みます。
■伊勢雅臣より
世界に貢献できる国際派日本人になるには、まず自らへの自信と理解をしっかり持つ必要がありますね。
■リンク■
・JOG(967)「大東亜戦争は継続中だ」と語ったインドネシア将軍
日本軍が引き上げた後も、インドネシアは植民地主義・共産主義と戦ってきた。
・JOG(193) インドネシアの夜明け
インドネシア独立を担った人々が語る日本人との心の交流。
http://www2s.biglobe.ne.jp/%257enippon/jogbd_h13/jog193.html
・JOG(046) 「責任の人」今村均将軍(下)
戦犯として捕まった部下を救うために、自ら最高責任者として収容所に乗り込み、一人でも多くの部下を救うべく奮闘した。
http://www2s.biglobe.ne.jp/%257enippon/jogbd_h10_2/jog046.html
・JOG(045)「責任の人」今村均将軍(上)
インドネシアでは、民族独立を目指すスカルノとの友情を貫き、ラバウルでは、陸軍7万人の兵を統率して、玉砕も飢えもさせずに、無事に帰国させた。
http://www2s.biglobe.ne.jp/%257enippon/jogbd_h10_2/jog045.html
・JOG(036) インドネシア国立英雄墓地に祀られた日本人たち
多くの日本の青年たちがインドネシアを自由にするために独立の闘士たちと肩を並べて戦ってくれました。
http://www2s.biglobe.ne.jp/%257enippon/jogbd_h10_1/jog036.html
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
→アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
・日本会議事業センター【DVD】『独立アジアの光 大東亜戦争とインドネシア・マレーシアの独立』★★★、明成社、H17
https://meiseisha.thebase.in/items/52721371
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