No.1312 ロシアから北方領土を取り戻すチャンス


 ロシアは国際法や国際信義では動かない。北方領土を日本に返還した方が得だと思わせれば、、、

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■1.ウクライナ戦争後に北方領土奪回のチャンスが訪れる可能性

 ロシアのウクライナ侵略は、ウクライナ国民の頑強な抵抗と西側諸国の一致結束した支援により、行き詰まっています。プーチンの最後の悪あがきで核戦争を引き起こす最悪の事態が起これば別ですが、そうでなかればロシアの敗北で終わるでしょう。その時に、日本にとっては北方領土奪回のチャンスが訪れる可能性があります。

 昨日公開された日本志塾第22号「北方領土 ~ いかに取り戻すか」では、このテーマを取り上げています。外交交渉とは相手がある事で、今までの交渉経過から相手の思考・行動パターンをよく読みとり、また今後の相手の状況を予測して、取り戻すための手を打っていかなければなりません。こうした内容を説明しています。

 現在なら、お試し価格100円で、この号を視聴できます。その後の講読はいつでも無料でキャンセルできますので、お気軽にご覧ください。

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 本稿では、今月号の一部をご紹介して、日本国民なら知っておくべき、北方領土に関する基礎的な常識・見識をお届けします。


■2.北方領土の関する地理的な常識

 まず、北方領土に関する地理的な常識として、以下を認識しておく必要があります。

【地理的常識(1)】沖縄本島より大きい択捉(エトロフ)島、国後(クナシリ)島

 北方領土中、択捉島、面積3,167平方キロは、本州、北海道、九州、四国の本土4島に続く最大の島で、沖縄本島1,207平方キロの2.6倍にもなります。その次に大きいのが、これまた北方領土の国後(クナシリ)島、1,489平方キロ。その次にようやく沖縄本島がきます。

【地理的常識(2)】北方領土の総面積は人口509万人の福岡県より大きい

 この2島に色丹(シコタン)島、歯舞(ハボマイ)群島を合わせた北方領土全体では5,003平方キロ。福岡県4,976平方キロより大きいのです。福岡県の人口が509万人ですから、それくらいの人口が住める領土を我々は奪われているのです。

【地理的常識(3)】北方4島中2島の返還では面積6.8%

 4島中、色丹(シコタン)島、歯舞(ハボマイ)群島の2島を返還する、という案がありました。「4島中2島」と言えば半分のように聞こえますが、面積は6.8%に過ぎません。

【地理的常識(4)】北方領土の最も近い島までわずか3.7km

 歯舞群島の貝殻島は納沙布(ノサップ)岬から、わずか3.7kmです。明石海峡大橋が全長3.9キロですから、橋でもつなげる近さです。また国後島は知床半島とほぼ並行に北東に伸びており、羅臼町からは長大な島の広がりを眺めることができます。公益社団法人の北方領土復帰期成同盟の『北方領土紹介映像』で実写をご覧ください。



 こんなに近い北方領土にロシア軍の基地が展開されたら、深刻な国防上の脅威となります。


■3.北方領土は国際法上、日本の固有領土

 次にロシアとの領土交渉で踏まえておくべき、外交常識を見ておきましょう。

【外交的常識(1)】北方領土は日本固有の領土であり、かつて他国の領土となったことはない。

 日本とロシアの領土を確定した最初の条約が、安政元(1855)年の日露通好条約です。この時、樺太は国境を定めることができず日露混住の地となりましたが、千島列島については択捉島以南の北方4島が日本の領土と定められました。近藤重蔵以来、幕府による開拓・統治がなされていたからです。[JOG(1308)]

 その後、明治8(1857)年の樺太千島交換条約では、樺太はロシア領、北方領土を含む千島列島全体が日本領と確定されました。

 明治38(1905)年、日露戦争後のポーツマス条約で南樺太が日本領となりましたが、千島列島は変わらず。

 昭和26(1951)年の大東亜戦争後のサンフランシスコ講和条約では日本は樺太と千島列島の主権を放棄しましたが、この時の受諾演説で、吉田茂全権は「主権放棄した千島列島には、日本固有の領土である4島は含まれない」と指摘し、調印した48カ国からも異議はありませんでした。

【外交的常識(2)】ロシアには北方領土の主権を主張する国際法上の根拠がない。

 ロシアが北方領土の主権を主張する根拠として、ヤルタ密約とサンフランシスコ講和条約を挙げていますが、この二つとも根拠にはなり得ないことは明らかです。

 まずヤルタ密約は、大戦末期の1945年2月、ソ連スターリン首相、米ルーズベルト大統領、英チャーチル首相の間で取り決められたもので、樺太南部と千島列島のソ連引き渡しが含まれていました。しかし、当事国の日本を含まない密約が国際法上の有効性を持たないことは明らかです。

 米政府も、この密約は米議会が批准していないので正式な条約とは認めておらず、「ルーズベルトの個人的文書に過ぎない」としています。

 さらに、サンフランシスコ講和条約では、樺太と千島列島の日本の主権放棄は定められましたが、その帰属先は決められていませんでした。それがためにソ連は同条約の調印を拒否しました。自国が調印もしていない条約を、自国主権の根拠にすることはできません。

 以上、国際法上、北方領土は日本固有の領土であり、かつロシアには主権を主張する国際法的根拠はまったくありません。


■4.ソ連軍の樺太、千島列島侵攻

 スターリンは、終戦の翌日、8月16日に樺太と千島列島だけでなく、北海道の北半分も欲しいと、米大統領トルーマンに要求しました。トルーマンはすぐに拒否しましたが、スターリンは素知らぬ顔をして、9月1日までに千島列島の南部と北海道北部を占領するよう、ソ連軍に指示を出しました。

 この野望を打ち砕いたのが、樋口季一郞陸軍中将率いる第5方面軍で、樺太の国境を越え、同時に千島列島最北端に侵攻したソ連軍に大損害を与えて、侵攻を完全に阻止しました。しかし「8月18日午後4時までに停戦せよ」との大本営からの命令を守り、その後は戦闘を止め、武器を引き渡しました。

 この後、ソ連軍は各地で民間人も攻撃しつつ、樺太および千島列島を占領しました。北方4島はさすがに日本固有の領土として、しばし様子を見ていましたが、米軍が来ないと知るや、8月26日から9月4日の間に占領しました。

 北方領土には、戦前、1万7千人以上の島民が住み、日本国民としての普通の暮らしをしていました。そこにソ連軍が侵攻して、島民たちを支配下におき、島民の一部は船で北海道に脱出、それ以外の島民も、2,3年後にはすべての財産を没収され、手荷物1個に制限されて、追放されました。こうした悲劇を、15日に公開される日本志塾の「一隅を照らすコーナー」でご紹介しています。

 特に、故郷の島から追放された島民たちの苦しみ、悲しみを語る独立行政法人 北方領土問題対策協会の『ダイジェスト版 元島民の体験談』は、日本国民が共有すべき同胞の悲劇が語られています。



 こうして日本固有の領土であった北方4島はソ連軍に不法占領されたのです。


■5.国際的な信義など平気で無視するロシア外交

 戦後、北方領土の返還要求を日本政府は続けますが、ソ連・ロシアの外交姿勢には国際的な信義などまるで眼中にないことが見てとれます。たとえば、1956年の日ソ共同宣言では、次のように定められました。
__________
 両国間に正常な外交関係が回復された後、「領土問題を含む」平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「領土問題を含む」の一節は、当初のソ連側の原案に含まれていたのですが、交渉の最終段階でフルシチョフ首相は、この字句を削除することを要請しました。帰国日の迫っていた鳩山一郎首相(鳩山由紀夫氏の祖父)は、「そもそも平和条約とは領土の帰属を確定するもの」ですから、内容は変わらないと考え、了承しました。

 しかし、ソ連側は「領土問題を含む」の一句が削除された事から、以後、「日ソ間には領土問題は存在しない」という立場をとったのです。

 また、宣言の中には「平和条約が締結された後に・・・歯舞群島及び色丹島を引き渡す」と明記されていますが、1960年の日米安保条約改定に怒ったフルシチョフ首相は、「日本領土からの全外国軍隊の撤退及びソ日間平和条約の調印を条件としてのみ」2島引き渡す、と勝手に条件を追加してしまいました。互いに合意した約束を、このように勝手に変更してしまうのが、ロシア流です。

 1991年に来日したゴルバチョフは、崩壊寸前のソ連の立場の弱さから、領土問題の存在は認めましたが、「2島引き渡し」は否定しました。その後、1993年にエリツィン大統領が、2000年にはプーチン大統領が訪日しましたが、「4島帰属問題を解決し、平和条約を策定するための交渉を継続することを確認」しただけに終わっています。

 国際法、および両国の条約から、いかに北方4島が日本固有の領土であると主張しても、ロシアは聞く耳を持たないのです。


■6.ロシアは経済や軍事面の利益の方が大きいと判断すれば、領土を返還する

 しかし、ロシアが領土交渉に応じた例もあります。アムール川の川中島ヘイシャーズ島は、1929年にソ連と中華民国の間で武力衝突が発生し、ソ連は撤退を約束していたのですが、その約束を守らず、ロシア人を移住させ、実効支配を続けていました。60年代には中ソ国境紛争がこの地で起こっています。

 しかし、2008年にプーチン大統領は、江沢民主席と島の西半分の返還に合意しました。プーチン大統領の狙いは、強大化する中国に対して、国境紛争の懸念を払拭したかったのと、中国にエネルギーを輸出し、中国からの経済協力を得るという点にありました。

 武力の弱い中華民国とは約束を守らずに同島の占領を続け、中国が軍事的にも経済的にも強大となるや、領土は譲歩して、軍事的経済的利益を優先する、というのが、ロシアの外交姿勢なのです。

 とすれば、ロシアが北方領土を返還した方が得だと思わせる情勢作りができれば、北方領土を奪回するチャンスが生まれます。


■7.ロシアは極東では日本の助けを求めて接近してくる可能性

 そのチャンスは、現在のロシアによるウクライナ侵略戦争の後に訪れる可能性があります。この戦争の結末がどうなるか、まだ予断は許されませんが、一つのありうる結末は、西側諸国のウクライナへの圧倒的な軍事援助とロシアへの経済的制裁の結果、ロシアが軍事的経済的に疲弊して、何らかの条件で停戦を迎えることです。

 その際に、ロシア経済はどん底となり、国民生活は塗炭の苦しみを迎えているでしょう。ロシアは外国の助けを求めるでしょうが、その際に中国の風下に立って、「大きな北朝鮮」のようになってしまう、という予測があります。

 しかし、歴史的に中国の属国として長らくやってきた朝鮮とは違い、ロシアは少なくとも1613年のロマノフ王朝以降、世界の大国として覇を唱えてきました。ちょうど、中華帝国としてやってきた中国が、一時は共産化してソ連の陣営に下っても、すぐに中ソ対立を引き起こして覇権を目指したように、ロシアも一時は中国に屈しても、長期間その地位に甘んじる可能性は低いと思われます。

 一方の中国も、たとえウクライナ戦争を傍観して漁夫の利を得ても、中国共産党自体の支配体制が行き詰まって、ロシアを支えるだけの余力はなくなるでしょう。口先だけはロシアを支援するようなことを言っても、実態は伴わない、という事態が予想されます。

 その時に、ロシアは極東では日本の助けを求めて、接近してくる可能性がありえます。現在でも、シベリア、樺太、北方領土では、経済が停滞し、人々は仕事がないため、人口が流出しています。そんな中で、中国人の流入が続いたら、いつかはロシアの極東地方は中国に奪われてしまうと、現在のロシア人も恐れています。


■8.「日本からの対口投資を拡大させるためにも、領土問題を解決することが必要」との声を大きくするために

 たとえば、現在でも次のような声があります。
__________
ヴィクトル・イシャエフ・ハバロフスク地方知事、極東開発大臣(2001)

 日本は、世界最大の投資国であり、過去26年間に6,200億ドルの対外投資をおこなってきた。・・・ところが対ロへはわずか0.054パーセント、対ロシア極東への投資は、0.025パーセントにすぎない。・・・

 日本は、まず係争の四島問題にたいする外交的解決法をみつけたあとで、ロシアへの投資増大を考えている。その逆なのではない。
したがって、日本からの対口投資を拡大させるためにも、領土問題を解決することが必要となる。[木村、4324]
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 こういう声をロシア国内で大きくすることを目指して、わが国は現在のロシアとの付き合い方、国際世論への訴え方、それらを後押しする国内世論の盛り上げ方を考えるべきだと思います。

 本稿でのご紹介した内容を、日本志塾第22号「北方領土 ~ いかに取り戻すか」ではさらに掘り下げ、かつ、もう少し具体的な提案をしています。100円のお試し受講で、すぐに本編、さらには関連する「一隅を照らす」コーナー、「名歌で感じる国史・国柄」コーナー、特典書籍などもすべてご視聴できますので、ぜひご覧戴きたいと思います。

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(文責 伊勢雅臣)


■リンク■

・JOG(1308) 近藤重蔵~北方防衛を志した英傑
 南下するロシアから国を守るために、蝦夷地の開発と防備に命をかけた英傑。
http://jog-memo.seesaa.net/article/498436342.html

・JOG(181)北方領土交渉小史 ~ スターリンの「負の遺産」
 ロシアの変転きわまりなき外交攻勢に、わが国は信義と国際法で対抗してきた
http://jog-memo.seesaa.net/article/498769066.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

・木村汎『新版 日露国境交渉史 北方領土返還への道』★★、角川選書(Kindle版)、H28
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/B01AJ74Q2Q/japanontheg01-22/


■伊勢雅臣より

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