No.1337 こうして止めよう!「自損型輸入」 ~ 小島尚貴『脱コスパ病』


 コスパ病克服で国家観、人間観、歴史観、職業観の再建を。

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■■「NPO法人 歴史人物学習館」賛助会員への活動報告会 ■■

 感想文祭り参加生徒が累計800人、賛助会員318人に達しました。
この半年の活動を、賛助会員にご報告します。あわせて、
★伊勢雅臣「歴史教育再生のための歴史人物学習」
のお話もさせていただきます。

日時:10月7日(土)午前9時~10時、リモートにて。
10月4日午後5時の時点で賛助会員の方に、ご案内します。
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■1.「あなたの提言は画期的だが、会員の間に波風を立たせたくない」

 弊誌1297号「『自損型輸入』とコスパ病 ~ デフレと地方疲弊の真犯人」でご紹介した小嶋尚貴氏の問題提起が波紋を広げています。

 少し復習をしておくと、「自損型輸入」の実態を小島氏はこう紹介しています。

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例えば、太宰府の特産品である「梅の実ひじき」という加工食品と極めて類似した品目を福岡の大手スーパー数店舗で調べたところ、ほぼ同じ容量ながら価格は約半額、梅とひじきは中国産で、輸入者は福岡の会社です。[小島R05、p15]
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 同様に、ワカサギの加工品、魚の練り物、佃煮やおでんの具材、タケノコ、にんにくなど、かつては国内で作られていた多くの品目が、中国から輸入され、国産品より低価格で売られています。一次産業の品目のみならず、家具、衣料品、雑貨、陶磁器、木工品、食器、金属製品、眼鏡、光学機器、電子部品、小型の家電製品といった軽工業品にも同じ手法がとられています。

 すなわち、一次産品の原料生産、あるいは軽工業製品の製造工程が中国などに移され、それらが安価に日本国内に輸入されて、日本の中小企業が壊滅的打撃を受け、この数十年のデフレをもたらしたのです。

 小島氏はこの問題を業界団体や産業別組合に訴えてきましたが、「あなたの提言は画期的だが、会員の間に波風を立たせたくない」と言われて、行動を起こしてくれませんでした。ところが、全く別の方面から、応援の声が上がってきたのです。

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■2.「女性の声、消費者の声こそ、自損型輸入に対抗する最強の無力化兵器だ」

 小島氏の友人が前作『コスパ病』を用いた勉強会を実施した際、福岡のある会社の男性役員が参加していて、こう主張しました。
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 あなたの言う自損型輸入も、決して全てが悪いわけではない。企業として納税義務は果たしているし、実際、安価な商品で生活が助かっている消費者もいるのだから。それに、彼らは安くて品質が良い商品を作って、顧客満足を実現している。[小島R05、p65]
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 すると、前作を読んでいた主婦が、こう反論しました。
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 一社ではきちんと納税してるかもしれないけど、その会社のせいで業界と産地全体の税収が激減して、トータルで日本は損してるんですよ。そんな会社は、納税を盾に自損型輸入商品の販売動機を正当化すべきじゃないと私たち女性消費者は思います。安いのしか買えないのは福岡の収入が低いから。だから安物を売って助けるんじゃなく、収入を増やして助けないといけません。

 コスパ病から目が覚めた私たち消費者は、もう、安くて品質が良い輸入品を支持しません。女性は旦那、息子の給料を増やすため、少々高くても国産品を買うべきです。日本人を幸せにする商品と会社を応援すべきです。私たちは女性として、母親として、そういう本質的な、みんなを幸せにする買い物が大事だと思うんです。[小島R05、p66]
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 その男性役員は一言も言い返せずに、気まずそうな顔をして沈黙してしましました。その光景に小島氏は、こう考えました。
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 私はひそかに、「女性の声、消費者の声こそ、自損型輸入に対抗する最強の無力化兵器だ。男性に日本人を貧困に追い込む悪い商品を作って売るなと言ったら百年かかるけど、女性にそんな商品を買わずに日本人を幸せにする会社と商品を応援しましょうと言えば、数年で日本が変わるぞ」と決意を新たにしました。[小島R05、p67]
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■3.「自損型輸入」はかつての「公害」と同じ

「その会社のせいで業界と産地全体の税収が激減して、トータルで日本は損してるんですよ」という声は、前回ご紹介した熊本県南部の八代地方の畳表の例で明らかでしょう。畳表に使われるい草はかつてはこの地が最大の産地でした。

 ところが、日本の一部の業者が、い草を中国で栽培し、畳表に製造して、日本に輸入する事業を始めました。日本人のい草栽培技師が現地を指導し、また畳表を編む織機を中国に持ち込んで、製造させたのです。価格は国内産の半額以下。品質も、栽培法と品質管理を熟知する日本人の専門家が中国で指導を続けた結果、日本人消費者でさえ見分けがつかないほど改良されました。

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「日本人主導で中国で生産されたい草による中国製の畳表」が、日本に大量輸入された結果、1990年には6580ヘクタールあった八代のい草栽培面積は2003年には1781ヘクタールと、たった13年でなんと72.9パーセントも激減しました。

 また、1990年の時点でい草栽培農家の数は5237戸だったそうですが、去年八代の農家さんに聞いたら「360戸ほど」ということでした。30年間で実に93パーセントが廃業した計算で、これは産地の「衰退」と呼ぶより「崩壊」です。[小島R03、p39]
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 小島氏は、「自損型輸入」をかつての「公害」と同じ構造だと指摘しています。公害を出している企業は、本来なら環境を守るためのコストを払わなければならないのに、それを無視して公害を垂れ流すことによって、利益を得ています。しかし、その公害は、周辺地域で被害者を生み、自治体に環境保全の対策費を押しつけています。

「自損型輸入」も、日本の中小企業を倒産させ、自殺者まで出し、自治体も失業対策、税収減などで、経済的負担を余儀なくされます。公害企業も、「自損型輸入」企業も、地域社会に損害を与えつつ、自分だけ利益を貪っている、という構造は同じです。

 こういう企業を避けて、「日本人を幸せにする会社と商品を応援」する方法は、後で述べましょう。


■4.「自損型輸入のプチプラ商品って、贈り物にできないよね」

 ある学生サークルが小島氏の講義を聴いた時、学生どうしの議論で、こんな発言がありました。
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 こうやって学ぶと、自損型輸入のプチプラ商品って、贈り物にできないよね。[小島R05、p237]
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「プチプラ」とは、「プチ」がフランス語で「小さい」、「プラ」は英語の「プライス(価格)」で、低価格の商品です。主に女性用のファッションアイテムや化粧品、雑貨などに使われるようです。

 たとえば湯飲み茶碗なら、佐賀県の有田焼などの伝統工芸品が1000円程度から購入できます。長い歴史で磨かれたデザインや質感、手触りで、相手が喜びそうなものを選ぶ時間も楽しいものです。貰う方も、その湯飲み茶碗を通して、贈ってくれた人の気持ちを想像します。これが100円ショップで売っているような無地の、何の特徴もない茶碗ではこうはいきません。

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 学生のこの一言は、地産品と国産品がその豊かな社会的機能性を発揮して、選ぶ人、買う人、売る人、もらう人の心を循環的に潤していくことで、社会に喜びと感謝の連鎖を生み出す力を持っている事実を、改めて私に教えてくれました。[小島、p273]
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 これも「日本人を幸せにする会社と商品」です。自分のために使う品物も同じです。

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「私の生活には、この湯飲みでお茶を楽しみながら考え、語り合う時間が必要だ」、「私も、こんな湯飲みで仕事の疲れを癒し、休日の喜びを感じたい」。このように、モノに価値を認める態度は、自分の生活や仕事の価値を確かめる態度と同一であり、自分と自分の人生を粗末にしない態度でもあります。[小島R05、p104]
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「自損型輸入」は社会経済を破壊するだけではありません。低コストで私たちの日々の生活を機能的に満たすパフォーマンスだけで、自分らしう生活、人との心の交流といった生活の価値も黙殺してしまうのです。


■5.「私たちは、ただ、怠けてきたということがよく分かりました」

 小島氏が熊本で講演をした時のことです。女性経営者が小島氏のところに来て、「私たちは、ただ、怠けてきたということがよく分かりました」と話してくれました。その素直な言葉が小島氏の印象に残りました。

 自損型輸入とは、既存の商品の工程の一部を低賃金の外国に移して値段を安くし、既存の顧客に販売する、ということです。それはコストを下げるだけで、顧客に対する新しい商品価値の創造はありません。

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 五万円のスーツを売ってきた会社が十万円のスーツを売ろうと思ったら、プラス五万円の価値に納得してもらうため、別の会社に生まれ変わるほどの努力が求められますが、その価値を認めてもらえれば、会社もお客も同時に成長します。しかし、二万円のスーツを売ろうと思えば、そこに求められるのはコスパだけです。

 つまり、デフレ経済とは、企業経営や労働において、お客という相手の内面の成長に貢献するための挑戦を忘れ、「低価格実現」という決まりきったゴールばかりにシュートしようとする経営の集積が生み出す「怠け者の経済」だと考えることもできます。[小島R05、p213]
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 多くの経営者が顧客のための新しい価値の創造という企業本来の使命を忘れて、単にコストを安くするだけの「怠け者の経済」にうつつを抜かしてきたことが、日本の停滞を生み出してきたのです。


■6.主婦の方々は日頃の買い物で産地確認の「ひと手間」を

 こうして、様々な害悪を垂れ流してきた「自損型輸入」から脱却するには、どうしたら良いのでしょうか? 小島氏はそのキーワードを「消費者主導の地産地消」だとしています。それは実に簡単な手段です。
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 消費者向けに販売されている物品は原産地表示が義務付けられていますから、主婦の方々は日頃の買い物で「ひと手間」を産地確認に当て、(1)原料の原産地、(2)完成品の加工地、(3)工業製品なら製造国に注目し、主原料や加工地が海外の場合は、カゴに入れる前に確かめて「買わない」、「減らす」という選択をしていけば、それだけ地産品、国産品に支出する割合が増えていきます。
[小島R05,p197]
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 それによって、今まで外国に流出していたお金が、国内に留まり、国産企業の利益、その従業員の賃金、さらにはその家族の消費として、国内の経済を循環して潤していきます。

 しかし、買いたい品目で国産品がない、あるいは何割も高い、ということがあるでしょう。

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 しかし、それでもやはり高いと感じる場合は、無理をせず輸入品を買いながら、消費者としての自覚と責任感を深めていきましょう。値段だけでカゴに入れていた頃と比べれば、問題意識が生まれるだけでも大きな一歩です。「なぜ、輸入品は、日本まで何千キロも運んできたのにこんなに安いのか」、「なぜ、地産品は同じ県内で栽培、製造されているのに、こんなに高いのか」・・・
[小島R05、p197]
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 そうすると、アメリカから輸入されている農産物に使用されている危険な農薬や、乳製品や肉類に使われている怪しげなホルモン剤などにも気がつくことになるでしょう。

 次の段階は、同じ事を語り合える仲間を増やして、スーパーやお店に自分たちが欲しい商品を提案することです。

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例えば、「五十円高くてもいいので、国産のあさり貝を買いたいんですけど、週に五十袋仕入れることは可能ですか? 私たちの主婦仲間で呼び掛けて買います」と提案してみるのです。・・・

 スーパーの売り場担当者や仕入れ担当者は、同じ品目でも値段が高い商品を仕入れる際に、売れ残りが出ないか、客離れが起きないかを一番心配します。しかし、お客からの要望があると分かれば、状況は大きく変わります。[小島R05、p198]
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 自由民主主義国では国民が主権者であるように、自由主義経済では消費者が主権者なのです。

脱コスパ病~さらば、自損型輸入~ - 小島尚貴
脱コスパ病~さらば、自損型輸入~ - 小島尚貴

■7.コスパ病克服で国家観、人間観、歴史観、職業観の再建を

 本稿では、小島さんの問題提起に触発された人々の言葉をご紹介してきました。曰く「日本人を幸せにする商品と会社を応援すべき」という女性の消費者、「自損型輸入のプチプラ商品って、贈り物にできないよね」と気づいた学生、そして「私たちは、ただ、怠けてきた」という女性経営者。

 これらの人々の発言は、ごく真っ当な国家観、人間観、職業観に気がついた所から生まれているのです。

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 コスパ病は国家観、人間観、歴史観、職業観を失った現代日本に発生すべくして発生した、日本特有の経済現象であり、消費心理だと思わずにはいられません。[小島R05,p229]
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 逆に言えば、コスパ病の克服を通じて、我々が真っ当な国家観、人間観、歴史観、職業観を取り戻した時には、それに基づいた健全な消費、生産、販売、さらには教育活動を展開できるようになるでしょう。それこそが、日本国家の再生への近道になると思われます。
(文責 伊勢雅臣)

■リンク■

・JOG(1297)「自損型輸入」とコスパ病~デフレと地方疲弊の真犯人
 外国の低賃金を武器にした「自損型輸入」が、コスパ病を蔓延させ、デフレと地方経済の疲弊を招いた。
http://jog-memo.seesaa.net/article/494685865.html


■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

・小島尚貴『脱コスパ病 ~さらば、自損型輸入~』★★★、扶桑社、R05
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/459409564X/japanontheg01-22/

・小島尚貴『コスパ病: 貿易の現場から見えてきた「無視されてきた事実」』★★★、Independently published、R03
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/B09RLY9LYY/japanontheg01-22/


■伊勢雅臣より

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