No.1390 小3の偉人伝つくり、地理、地域の偉人 ~ 広がる歴史人物学習、歴人(歴史人物学習館)便り(10)
歴史人物学習の適用が、より広範な分野にひろがっている。
■転送歓迎■ R06.10.06 ■ 74,500 Copies ■ 8,692,534Views■
過去号閲覧: https://note.com/jog_jp/n/ndeec0de23251
無料メール受信: https://1lejend.com/stepmail/kd.php?no=172776
__________
■■■第8回歴史人物学習館 活用研究会plus(オンライン)■■■
『ICTを活用した歴史学習~どの学年でも取り組める感想文祭り』
日時:10月19日(土)午前9時~10時30分
報告:及川直人(千葉・小学校 歴史人物学習館活用研究員)
事前のお申込が必要です。==> https://1lejend.com/stepmail/kd.php?no=708203
今回ご登壇いただくのは本会・研究員で新進気鋭の小学校教諭・及川先生です。
及川先生は小学生に「人物研究&感想文」をパソコンのプレゼンソフトで作成させるという画期的な実践をしています(本会の「感想文祭り」に応募してくれました)。
優秀スライド 14作品: https://rekijin.net/kansou8/
子どもたちに"正しい歴史"をより楽しく、よりわかりやすく、そして主体的に学んでもらえるにはICTをどう活用すればよいのか?また問題点や課題はどこにあるのか?…及川先生の報告を土台にして考えたいと思います。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
■1.小学校3年生がクラス内で偉人伝作り
歴史人物学習館で新しい展開がありましたので、ご報告します。第一に小3という今まで最も低学年での偉人伝作り、第二は中学校の地理の授業での人物学習活用、第三は地域の偉人の学習です。
第一に、東京都世田谷の区立小学校での偉人伝作りです。担当の先生は、次のように説明してくれています。
__________
3年生では、子どもたちが係活動として、クラス内で偉人伝を作成しています。たくさんの児童が自分の好きな歴史人物の熱い想いをプレゼンしました。
なぜ困難に立ち向かったのか、どう乗り越えたのか、世の中に与えた影響など、自分たちで本を読んだり、サイトを観たりして、まとめました。
プレゼンも、ただ話すのではなく、相手にプレゼントを届ける気持ちで、心を込めて発表しました。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
その最優秀賞は、女子スポーツの開拓者・人見絹枝のプレゼンでした。こう始まります。
__________
今みんなは男女平等でたくさん運動できていますよね。
しかし、昔は女性の運動が許されなかったのです。
女性は男の人と結婚して子供を産めばいいと思われていました。
その女性のスポーツの道を切り開いた人がいます。
皆さん、誰だか知っていますか?
その人は・・・
「人見絹枝」さんです。
人見絹枝さんは、学生時代、未経験だったのにも関わらず、走り幅跳びで日本記録を出したり、三段跳びで、世界記録を出したりして、日本中はもう大騒ぎ。
絹枝は世間に注目を浴びてしまったのです。
そのご、スウェーデンで開かれた女子陸上の世界大会で、優勝を果たしました。
そこで問題です!!
日本に帰ってきた絹枝は、
(1)みんなに褒め称えられた
(2)みんなに傷つく言葉をかけられた
正解は・・・
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
聴衆がぐっと乗り出すような、巧みなイントロです。これもクラスで、互いに偉人伝を発表し合ううちに身につけた語り口でしょう。一人で偉人伝を読んだり、感想文を書いたりするのとは違った学びが、ここにはあります。
■2.「みんなに傷つく言葉をかけられた」
プレゼンはこう続きます。
__________
正解は・・・
(2)の、みんなに傷つく言葉をかけられた、でした。
女性が運動なんて、「みっともない」や、「子を産むのに健康に悪い」「バケモノだ」などの言葉をたくさん言われました。
絹枝は、「どうしたら、女性がスポーツをする事を素晴らしい事だと世の中が認めてくれるのだろうか」とずっと考えていました。
そこで思いついたのが
「オリンピックで結果を出す事」です。
絹枝は、オリンピックでメダルを取れば、みんなに女性が運動できると言うことが認められるだろう。と考えたのです。
世界記録を持ち、メダルを期待した100メートル走、皆さんはどんな結果になったと思いますか?
(1)無事、メダルをもらうことができた
(2)まさかの予選落ち
実は・・・
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ここでも、巧みな発問で、聞いている子どもたちを引きつけます。
__________
油断してしまったのか、まさかの予選落ちをしてしまったんです。やはり日本人女性には無理だった、そんな意見が確定してしまいます。
でも、絹枝は諦めませんでした。
一度も走った事のない800メートル走に、決死覚悟で出場した。
ゴール直後、意識を失うほど死にものぐるいで走った結果は、なんと
2位!!
日本人女性初の、オリンピック銀メダルに輝いたのでした。
帰国後、国中が手のひらを返したかのように大絶賛。
絹枝はオリンピックでの体験や、記者として取材した外国で盛んな女子スポーツを講演会で語りまくった。
また、絹枝に憧れてスポーツを始める女性も増えた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
まさかの予選落ちから、女性初のオリンピック銀メダルと、聴衆を引きつける人生の谷と山が快調なテンポで繰り広げられます。
■3.「頑張って努力していたら、亡くなってしまった後でもその努力が未来にもつながっていく」
しかし、最後は悲しい結末が待っています。
__________
絹枝は無理をしすぎた。
本の執筆や選手との練習、連日にわたる講演。
さらに、募金の呼びかけの手紙を書く作業。
疲れ果てた体は、病にむしばまれ…
わずか24歳という若さで亡くなってしまうのだった。
でも、
努力は身を結んだ。
絹枝の後には、世界で活躍している女子選手が、今でも誕生し続けているのだ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
泣かせる結末です。最後は自分自身のメッセージでこう結びます。
__________
私たちが伝えたい事は、何度失敗しても諦めずに、挫けずに、頑張っていたら、いつかはみんなに認められるし、一回もやった事がなくても、挑戦してみようという気持ちを持って、まずはチャレンジする事が大切です。そして、頑張って努力していたら、亡くなってしまった後でもその努力が未来にもつながっていくのです。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「亡くなってしまった後でもその努力が未来にもつながっていくのです」という結びなどは、小学校3年生とはとても思えない深い人生観です。
偉大な先人の人生の物語を辿る歴史人物学習という方法、それもクラスで互いに発表し合う、という形式が子供たちの心を揺り動かし、これほど素晴らしい作品を生み出したのではないでしょうか。
■4.関東地方の地理の学習で、玉川上水を造った玉川兄弟を学ぶ
第二の実践事例は、地理の授業での人物学習の活用です。神奈川県横須賀市立中学校の先生から、地理の授業を進めていて、夏休み明けには関東地方の地理を学ぶ、と聞きました。
そこで、関東地方の地理なら、玉川上水を作った玉川兄弟を取り上げては、と提案し、早速、玉川兄弟の人物ページを作成しました。ネットを探して見ると、いくつかの優れた動画や文章を見つけました。その一つが東京都水道局が作成した20分弱のアニメーション動画です。[人物ページ: 玉川兄弟]
弊誌も徳川幕府が上水建設を目指した経緯なども含めて、1編をまとめ、その動画化も行いました。[JOG(1382)]
中学校の先生は、これらを使った授業を行い、中二120名に100字の感想文を書いて貰いました。先生からは次のようなコメントをいただいています。
__________
玉川兄弟の偉業への驚きと二人の志への共鳴・共感を強く感じた授業になりました。先人の努力が現代社会の土台になっている事実への気付きも見られました。素晴らしい教材を準備していただき感謝しています。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
■5.先人の行いによる恩恵への気づきと感謝
12名の優秀感想文を読むと、生徒たちがどのような点に心動かされているのか、よく分かります。[優秀感想文]
まずは、こういう先人の行いがあって、その恩恵を現在の我々がいただいている、という気づきと感謝です。
__________
[2] 今の日本に水があって当たり前に使えるのは、この人達が世のため人のために頑張って活動してくれたというのもあるし、頭が良かったんだなと思います。あらためて昔の人を思い、感謝することができました。
[7] 困ることがなく生活できているのは人々を思って自分よりも優先して働いてくれている人がいるからだと分かり、すてきだと思った。前に努力して作られたものが今もあると知り、前と今とで深いつながりがあると感じた。
[10] 江戸に人口が多いのは、昔の人々や玉川兄弟などたくさんの人達の協力があったから昔も今も江戸・東京は人口が多く大都市になったんだと思います。特別授業をやっていて最初は自分で予想してから、あとでどう工事をしたか疑問をといたり、自分の考えが深まったと思います。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
地理の授業で、玉川上水という今も我々がお世話になっている具体的な、目で見える施設を見れば、誰が、どのような苦労をして作ったのか、という物語もいっそう感銘深く感じられるのでしょう。
■6.先人への感謝から、子孫への志へ
さらに、先人への感謝は、自分たちも子孫のために何かしなければ、という志につながります。
__________
[1] 徳川家康が努力して開拓した土地を、玉川兄弟がさらに努力して玉川上水を整備したから昔の大都市「江戸」、そして今の「東京」があるのだなと思いました。歴史の偉人が作り上げた大都市を、より良いものにしたいなと思いました。
[3] わたしたちに水などのインフラがあるのも先代の人が整備をしてくださったからであって、自分たちも世のため人のために動くことが今の世の中に必要なのだと思った。SNS等からも情報を入手し社会に貢献したい。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
地理の授業も、単に山や川の名前を覚えたり、特産物を調べたり、という知識注入型の授業では、子供たちの心は動きません。日本のほとんどの山や川には先人たちの治山治水の努力がなされており、また特産物もその開発の努力をした人々のお陰です。
こういう人々の苦闘の跡を学ぶことによって、先人への感謝が生まれ、それが学習指導要領が謳う「日本国民としての自覚、我が国の歴史に対する愛情」を持つ「国家及び社会の形成者」を育てることに繋がるのです。
■7.「なぜこれほどの偉人が郷土で話題に上がらないのでしょうか」
第3の展開は、地域の先人の学びです。栃木県宇都宮市では同市出身で、沖縄戦の際に警察部長として、20数万人の県民を県外、および沖縄本島北部に疎開させて命を救った荒井退造の作文コンクールを実施しました。そこで歴史人物学習館では、荒井退造の人物ページを作り、市の作文コンクールの予選の形で、感想文祭りを実施しました。
うち2人の生徒が、宇都宮市市長賞、荒井退造賞を受賞しました。感想文の中で、生徒たちは、荒井退造が地元でもまったく知られていない事に気がつき、自分たちが伝えていかなければ、との感想を述べてます。
__________
私の周りで退造さんを知っている人はおらず、栃木県の人にもほとんど知られていません。退造さんは沖縄県民のために活躍した人なので、もっと地元の人たちにも知ってもらうべきです。また、若い世代の自分たちが、退造さんのことをもっと知って、伝えていくべきだと思いました。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
__________
それにしても、なぜこれほどの偉人が郷土で話題に上がらないのでしょうか。責任感が強い荒井さんの生き方は戦争を知らない私達こそ知るべきです。少しでも多くの地元の人が荒井さんのことを知るために、私も両親や友達、身近な人達に荒井さんの功績を伝えたいです。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
地元に子供たちのお手本となる人物がいるのに、それを教えていないのは、まさに宝の持ち腐れです。全国一律、かつ人物不在の現在の歴史教育の欠陥が、こういう処にも現れていると思います。
歴史人物学習館では、地方の先人顕彰のための、人物ページ作り、出前教師育成、感想文祭り実施などでサポートしていきますので、お志ある方のご連絡をお待ちしています。本メールへの返信でお知らせ下さい。
以上、歴史人物学習館の最近の3つの展開をご報告しました。いずれも、子供たちの真剣かつ心のこもった反応に勇気づけられています。日本中の小中学生がこんな学びをして、彼らが大きくなった時には、どんな立派な国を作ってくれるかと思うと、一人でも多くの子供たちに歴史人物学習を広めていかねば、と励まされます。
(文責 伊勢雅臣)
■リンク■
・JOG(1382) 江戸と武蔵野の水不足を救った玉川上水
水騒動まで起こっていた江戸と、水のない荒れ地の武蔵野を救うために43キロもの上水道が開削された。
https://note.com/jog_jp/n/nd80fd261d45a
・テーマ・マガジン 「歴人(歴史人物学習館)便り」
(歴人便り既刊号を一挙掲載)
https://note.com/jog_jp/m/m744a6d1f54c2
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
→アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
・歴史人物学習館 人物ページ「玉川兄弟」
https://rekijin.net/tamagawa_kyodai/
・歴史人物学習館 優秀感想文「玉川兄弟」
https://rekijin.net/kansou16/
■伊勢雅臣より
神武天皇の「八紘一宇」とともに、明治天皇の「四海同胞」という御歌もありました。これらを国際社会に対する日本の基本姿勢として、常に意識したいものです。
読者からのご意見をお待ちします。本号の内容に関係なくとも結構です。本誌への返信、ise.masaomi@gmail.com へのメール、あるいは以下のブログのコメント欄に記入ください。
http://blog.jog-net.jp/
この記事へのコメント