No.1413 旧石器・縄文時代の世界最古記録ラッシュをなぜ教えない? ~『親が知らない 小学校歴史教科書の穴』を読む
日本の旧石器・縄文時代の世界最古記録ラッシュは教えずに、弥生時代の大陸からの稲作伝来から教える魂胆は?
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■1.旧石器時代にも3つある世界最古
伊勢: 花子ちゃん、小学校の歴史教科書について論じた『親が知らない 小学校歴史教科書の穴』[松木他]という本が最近出て、早速、読んでみたけど、小学校の偏向ぶりは中学校や高校よりひどいね。
花子: そうなんですか? 私の小学校の時には、特に気がつきませんでしたけど。
伊勢: この本では、日中戦争、南京事件、朝鮮統治などの近現代史で、いかに偏向した記述がなされているか、小学生にも分かりやすく論じられている。でも、今日は旧石器時代や縄文時代の章を取り上げたい。というのは、日本列島では当時の遺跡から、世界最古の道具や工夫がいくつも見つかっているんだ。そんなこと、小学校では教わらなかっただろう?
花子: えー、日本列島にも世界最古の発明があったのですか? そんなことは、中学校の歴史の授業でも習いませんでしたし、小学校でも出てきませんでした。
伊勢: そのあたりは、自由社の『新しい歴史教科書』で詳しく書かれている。例えば、以下の3点が世界最古の事例として紹介されている。[藤岡他]
・世界最古の外洋航海
黒曜石は叩くと鋭利な刃先ができるため、狩猟用の槍の穂先などに使われた。伊豆諸島の神津島産の黒曜石が、八丈島から能登半島にまで広範囲で見つかっている。神津島は伊豆半島から約55km離れており、約3万5千年前に外洋を航海していた最古の例とされている。
・世界最古の落とし穴猟
静岡県や神奈川県では、約3万3千年前の狩猟用の落とし穴が100メートル以上にわたって連続している遺跡が見つかっている。これは世界最古の落とし穴と考えられている。
・世界最古の釣り針
沖縄の約2万3千年前の遺跡から、巻貝製の釣り針が発見されており、これも世界最古とされている。
花子: 「国際派日本人養成講座」で、縄文土器は世界最古級だと教わって、縄文文化の独自性に驚きましたが、それ以前の旧石器時代から高度な文化があったんですね。
伊勢: 縄文時代は磨製石器の使用から「新石器時代」とされている。その前の「旧石器時代」では、石を打ち砕いて作る打製石器が使われていた。日本の旧石器時代は少なくとも約4万年近く前まで遡れることが明らかになっているよ。
■2.1998年の学習指導要領では旧石器時代も縄文時代も削除
花子: 中学での歴史の授業では、黒曜石を使った打製石器などは習いましたけど、その旧石器時代に、世界最古の事例が3つもある、なんて、全く習いませんでした。そう教わっていたら、きっと驚いて、記憶にも残っていたはずです。
伊勢: 小学校では習った記憶はあるかな?
花子: 全然、覚えていません。
伊勢: だろうね。小学校の社会科教科書は3社から出ているが、それぞれの歴史の説明は、縄文時代から始めているに過ぎない。
花子: 日本列島の旧石器時代に世界最古の事例が3つも見つかっているのに、それらを完全に無視するなんて、ひどいですね。
伊勢: その点について、日本最大の考古学研究者の組織「日本考古学協会」が「小学校学習指導要領の改訂に対する声明」を平成26(2014)年に出している。[日本考古学協会]
その声明では、まず1998年の小学校学習指導要領改訂で、「歴史教科書から旧石器・縄文時代が削除され、歴史学習が弥生時代からはじまるという不自然な教育がおこなわれていることに対して、繰り返し改善要望を提示してきました」として、2008年の改訂では、ようやく縄文時代の記述が復活したことを評価している。
花子: じゃあ、2008年までの教科書は、縄文時代すら教えられてなくて、弥生時代から始まっていたのですか。日本列島にいたのは野蛮な原始人で、弥生時代になって大陸から稲作が伝わって初めて文明が始まった、という見方ですね?
伊勢: そのようだね。しかし、縄文時代を記述するようになっても、その声明では「旧石器時代については、本文で明確に位置付けられた教科書はなく、年表でも旧石器時代の名称が記載されていない」と批判しているよ。
花子: なんか、日本独自の文化はなるべく教えたくない、という意図を感じますね。
■3.「全国で1万ヶ所を超える遺跡の発見と調査事例の蓄積」
伊勢: 日本考古学協会の声明はこう続く。
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旧石器時代の研究については、1949年の群馬県岩宿遺跡の調査以降、全国で1万ヶ所を超える遺跡の発見と調査事例の蓄積があります。そして、半世紀を越える研究によって、今日に連なる生活の技術や多様な環境を克服してきた社会の仕組みが具体的に解明されています。
我が国の歴史を学ぶ上で、旧石器時代からはじまる歴史の推移と長く厳しい環境を克服してきた先人の営みが教科書の記述で取り扱われない現状は、学問の成果を教育に活かすという考えに逆行するものです。[日本考古学協会]
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花子: 旧石器時代の遺跡は1万件以上も発見されているのですか!それだけの努力が黙殺されていては、研究者の皆さんも黙ってはいられませんよね。
伊勢: まったくだ。それに世界最古という発見が何件もあるんだしね。小学校の歴史とは、子供たちが人生で最初に学ぶ歴史の授業だ。そこに、世界最古の事例がいくつも並んでいたら、子供たちはまず自分たちの先人に誇りを持つだろう。
花子: そういうことが教えられていたら、「日本の文化はすべて大陸からの輸入品」という自虐史観は通用しなくなりますね。
伊勢: 確かに。そんな魂胆があるから、縄文時代や旧石器時代の独自性、先進性を隠そう隠そう、としているのかも知れないね。
■4.縄文時代にも続く世界最古の記録ラッシュ
伊勢: 旧石器時代の日本列島は、世界最古の記録が3つもあると話したけど、その記録ラッシュは縄文時代にも続くんだ。
・約1万6900年前: 青森県大平山元I遺跡から世界最古級の土器が発見された。
土器の内側には焦げた炭化物が付いており、このことから煮炊きに使われたことが分かっている。土器のお陰で、当時の食生活がどんなに変わったか、この本では分かりやすく、こう説明されている。
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土器のおかげで、木の実のほかにアクの強い野草や根菜類、硬い肉や貝類も食べることができ、食材の種類がいっきに広がりました。さらに煮たあとのスープも飲めたし、乾燥させて干し肉や干し貝などをつくり保存することもできました。
煮たりゆでたりすると、柔らかく食べやすく味もよくなり、子供やお年寄り、病気の人にも消化しやすく栄養を補給することができるようになりました。[松木他、p127]
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世界最古の記録はまだまだ続くよ。
・約1万3400年前: 鹿児島県黒土田遺跡で食物の貯蔵穴が見つかり、世界最古の例とされる。
その貯蔵穴には、炭化したクヌギ・カシといつたコナラ類(ドングリの一種)がびっしりとつまっていた。世界最古の文明と言われる中東でも、貯蔵穴は約12500年前だ。
・約1万2600年前: 鹿児島県栫ノ原(かこいのはら)遺跡で世界最古級の燻製施設が見つかる。
この遺跡では燻製施設として煙道つき炉が見つかっている。さらに木の実を磨り潰すための石皿や磨石(すりいし)などが多数、出土している。食料を燻製にしたり、粉にして、保存食を作ったんだね。
花子: 私が小学生時代に習った東京書籍の『新しい社会 歴史編』の教科書を見直してみたら、「縄文時代は、何日も食べ物が手に入らないことが多かったようです。食べ物がないと、安心してくらせないね」などと、女の子が語っています。
こうして縄文社会の貧しさを指摘して、その後、中国から伝わった米作りで、ようやく人々の生活が安定した、と書かれてますけど、そのはるか前に、これら様々な世界最古の技術革新が行われていた事を黙殺しているのは、本当におかしいですね。
伊勢: その他にも、12600年前の世界最古の栽培された漆(うるし)の木とか、約9000年前の世界最古の漆塗りの副葬品も見つかっている。さらに外洋航海に使われる丸木舟の製作に使われる丸ノミ型の磨製石斧(せきふ)は約1万4000年前のものが出土している。丸ノミ型の磨製石斧で、世界の他地域で見つかっているのは、最古のものでも約5千年前のものがせいぜいらしい。
■5.「皆で助け含い支えあって全ての命を大切にする共生社会」
花子: しかし、なんで、この大陸の東端の日本列島で、こんなにたくさんの世界最古の記録が生まれたんでしょうか?
伊勢: それを探るに、旧石器時代や縄文時代の社会の有様を見ておこう。この本には、こんな重要な指摘がなされている。
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森・川・海の恵みに生きる縄文社会では、あえて都市や国家をつくらず、大きな紛争や戦争もありませんでした。
その根拠の1つは、どの遺跡からも戦争の跡が全く見当たらない(晩期末を除く)ことです。遺物(人を殺傷する武器がない)、遺構(防御用陣地ではない)、人骨(切り傷。刺し傷等の跡がほとんどない)等、平和社会の元型であつたといえるでしよう。[松木他、p134]
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伊勢: 「晩期末」というのは、縄文時代の晩期末に地球が寒冷化して、大陸でも戦国時代となり、戦争難民が朝鮮半島を経由して、日本列島に入ってきたからだね。彼らが武器と戦争を持ち込んだんだ。
さらに当時の社会は「高度福祉社会の原型」でもあったと記述されている。約1万1000年前の成人人骨で、軽度の脳性麻痺・分娩麻痺あるいは脊髄性小児麻痺の可能性を指摘されたものが、複数ある。障碍児が大人になるまで、回りの人々に世話されていたんだね。[松木他、p134]
花子: へえー、そんな優しい社会だったんですか。
伊勢: さらにお年寄りも大切にされていた。
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また、縄文社会では平均寿命が35歳の時代とされていますが、北海道北黄金貝塚では、60歳代女性と推定される人骨が発見されました。下顎は歯が全て抜け落ち、自力での食事摂取できなかったと推察されています。周囲の人々が食事等の介助をしていたと考えられます。
歯の抜け落ちた老婆も歩けない少女や青年も生きてゆける、皆で助け含い支えあって全ての命を大切にする、そんな共生社会が見えてきます。[松木他、p135]
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花子: 戦争がないだけでなく、障碍者や老人も大切にする社会だったんですね。私たちの先祖がそんな優しい人たちだと聞くと、とても嬉しくなります。そんな素晴らしい社会だった事を、なぜ歴史の授業で教えないのでしょうか。
■6.なぜ日本に世界最古の記録ラッシュが起きたのか?
伊勢: 花子ちゃん、君が縄文社会に暮らしていて、障害児や、お年寄りの面倒を見てる、と考えてご覧。そして、隣の集落で、縄目の模様のついた不思議な土器を使って、生では食べられない、いろいろな食物を煮炊きして、おいしく食べている。それを知ったら、花子ちゃんならどうする?
花子: もちろん、すぐにその集落に行って、土器の作り方を教えてもらいます。
伊勢: それで作り方を教わって、花子ちゃんの集落でも作ってみたら、土の性質のせいか、軽くて丈夫な土器ができたとする。そうしたらどうする?
花子: もちろん、最初に教わったお礼に、その土のことを教えてあげます。
伊勢: 隣の集落とも仲良くしていれば、そういう形で、技術革新がすぐに広まり、またさらなる改良があちこちで進むね。周囲の集落と戦いばかりしていたら、そういう訳にはいかないけどね。
■7.内部抗争している天才集団より、教え合う凡人集団の方が創造性も高い
伊勢: オランダの歴史学者ルトガー・ブレクマンは『希望の歴史』で、我々よりも脳も身体も大きいネアンデルタール人は厳しい氷河期に絶滅したのに、なぜ我々、現生人類は生き残れたのか、について、説得力のある説明をしている。「なぜなら(現生人類は)彼らより協力する能力が高かったから」とね。[ブレクマン、p112]
内部抗争している天才集団よりも、助け合い教え合う凡人集団の方が、創造性も高くなるということだね。
実は日本列島は他の地域と比べても、格別に平和な地域だった。大学の研究でも、縄文時代の2500体もの人骨を調べて、暴力による死亡率は1.8%と、世界各地、各時代の10数%に比べて5分の1以下だったというデータが得られている。[岡山大学]
これは私個人の見解だけど、日本列島に住み着いた我々のご先祖様は、世界でもダントツの平和に助け合う共生社会を作り、それゆえに高い創造性を発揮して世界最古の記録ラッシュを作った、と考えられるんじゃないかな。
花子: そういう事を、小学生の頃に教わりたかったです。そう教わっていれば、勉強でも運動会なんかでも、もっと皆で知恵と力を合わせて、いろいろな学びや遊びもできたと思います。
伊勢: 小学校の学習指導要領[文科省]では、「平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎」を育成するという目標が最初に掲げられているけど、旧石器時代・縄文時代はそのための最も良い教材だね。
それを教えずに「弥生時代に大陸から文明を学びました」では、今の中共政府みたいな「暴力的で独裁的な国家及び社会」の形成者を育ててしまう恐れがあるけどね。
(文責 伊勢雅臣)
■リンク■
・JOG(134) 共生と循環の縄文文化
約5500年前から1500年間栄えた青森県の巨大集落跡、三内丸山遺跡の発掘は、原日本人のイメージに衝撃を与えた。
https://note.com/jog_jp/n/n57e9163721d5
・テーマ・マガジン「世界に遺る縄文人の足跡」
丸木舟で優れた航海術を持った縄文人は日本列島だけでなく、世界各地に足跡を残しています。
https://note.com/jog_jp/m/m3308b7a5953f
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
→アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
・岡山大学「日本先史時代における暴力と戦争」、H28
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id383.html
・日本考古学協会「小学校学習指導要領の改訂に対する声明」、H26
https://archaeology.jp/maibun/nikokyo2014-10.htm
・藤岡信勝他『検定合格 新しい歴史教科書』★★★、自由社、R06
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4908979243/japanontheg01-22/
・ブレクマン、ルトガー『Humankind 希望の歴史 上』★★★、文藝春秋、R03
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4163914072/japanontheg01-22/
・松木國俊,松浦明博,茂木弘道『親が知らない 小学校歴史教科書の穴』★★★、ハート出版、R07
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/480240235X/japanontheg01-22/
・文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編』、H29
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_003.pdf
■伊勢雅臣より
読者からのご意見・ご感想・ご質問をお待ちします。本号の内容に関係なくとも結構です。本誌への返信、ise.masaomi@gmail.com へのメール、あるいはブログのコメント欄に記入ください。
■編集後記
大リーグのドジャース対カブスの試合が、東京ドームで行われ、日本人選手たちの活躍が、日本中を沸かせました。私も目が離せず、二晩が潰れたので、本号の執筆もピンチでした。
アメリカのSNSでは、大谷選手が今永選手に深々とお辞儀をしている画像が広まって、大谷選手ほどの大選手でも、年長者に敬意を払うのは日本の美しい仕草だと、評判になっていました。
海外では、地位や財産などの実績に対して、敬意を払うのが一般的ですが、年長者に敬意を払うのは、より人間平等の精神が現れていると考えます。人間誰でも年長者にはなれますから。しかも、年長者はそれだけ長く社会を支えてきた、その年月のご苦労に対して感謝するのは、いかにも人間らしい、深い精神だと思うのです。
■講演会・勉強会情報
・「ニッポンだいすき」歴史勉強会(第4回)
日時 3月29日(土)10:30~12:30
会場 かながわ県民センター(横浜駅から徒歩数分)
テーマ 「なぜ天皇は『日本の象徴』なのか? 皇位継承」
講師 清田直紀氏(公立中学校教諭)
参加費 入場無料(カンパ歓迎)
申込み yokokyorenjimukyoku@yahoo.cojp
・川崎正論の会
日時 3月29日(土) 午後2時~4時
会場 ミューザ川崎
講師 日大名誉教授・百地章先生
「国難の克服に向けて ー夫婦別姓・男系の皇統・そして改憲」
参加費 1000円(ただし資料代として任意)
申込み https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScmizXoR9ch07LBvrZpQeFciwNadE6r-thFRCZlB4lgPJlAkQ/viewform
・「中朝事實」 勉強会
日時 4月14日(月)午後1時 ~
会場 かながわ県民センター 603会議室
内容 山鹿素行が著した歴史書『中朝事實』の勉強会
今回は、附録の「或疑(わくぎ)」を勉強します。
講師 佐藤健二氏(素行會代表)
参加費 1000円
テキスト準備の都合上、初参加の方は kingarmy00@ybb.ne.jp までお知らせください
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