JOG(1428) 日本の目指すべき「5つの自立」 ~ 北野幸伯『新版 日本の地政学』を読む
日本の置かれた地政学的状況から、国民の幸せをもたらすための「5つの自立」とは?
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■1.イスラエルのイラン攻撃も予測した北野幸伯氏
伊勢: 国際政治評論家の北野幸伯さんの最新刊『新版 日本の地政学』を読んだけど、そこでの北野さんの予測がまた当たっていた。
花子: えっ、どんな予測ですか?
伊勢: イスラエルとイランの関係についてなんだ。北野さんはこう書いている。
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私は、イスラエルがイランの核施設を攻撃する可能性は高いと思います。というのも、イランが核兵器を保有することは、イスラエルにとって「死」を意味するからです。「イスラエルが、イランを攻撃すれば、トランプ・アメリカもイスラエル側につかざるを得ない」とネタニヤフは考えるのではないでしょうか。[北野、p185]
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花子: すごい! 本当にその通りになりましたね。
伊勢: そうなんだ。北野さんはロシアのウクライナ侵攻も正確に予測していたんだよ。ロシアの大軍が国境に集結している段階で、多くの国際政治評論家が「軍事的恫喝に過ぎず、本当のウクライナ侵攻などありえない」とみる中で、北野氏は実際の侵攻の可能性があると、正しく指摘していたんだ。
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JOG(1369) 「戦術」的勝利と「戦略」的敗北 ~ 北野幸伯『プーチンはすでに、戦略的に負けている』を読む
ロシアと中国に対する戦略的勝利を目指して、日本はどうすべきか?
https://note.com/jog_jp/n/nd2b0ec83cbdf
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■2.北野幸伯氏の予測はなぜ当たるのか?
花子: どうしてそんなに北野さんの予測は当たるんですか?
伊勢: それはね、現在の各国の置かれた状況を正しく掴んでいるからなんだ。今の引用で「イランが核兵器を保有することは、イスラエルにとって『死』を意味する」というのは、この良い例だ。それが地政学なんだね。それが分かれば、日本の行くべき道も見えてくる。民主主義国家の日本では、多くの国民が正しく日本の進路を理解することが大切なんだよ。
花子: 私もそんな日本人になりたいです!どうすればいいんですか?
伊勢: 北野さんの本を読むといいよ。特に今回の『新版 日本の地政学』がおすすめだ。これは2020年の『日本の地政学』を大幅に加筆したものなんだ。前の版では中国の脅威にどう立ち向かうかが中心だったけど、新版では「第5章 これから世界で起こること」と「第6章 未来の繁栄のために」が全面的に改訂されて、日本が進むべき道がより具体的に示されているんだ。
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JOG(1196) 地政学で対中戦略を考える ~ 北野幸伯『日本の地政学』を読む
地政学的に見れば、21世紀初頭の日中関係は20世紀初頭の英独関係にそっくり。台頭するドイツを英国はいかに抑えたのか?
https://note.com/jog_jp/n/n2d2e84a16e3d
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■3.トランプの予測は簡単
花子: でも今の国際政治では、トランプ大統領がめちゃくちゃにかき回していて、どうなるか誰も分からない、という状況なのでは?
伊勢: いや、もう一つ北野さんの予測がよく当たる理由は、国際政治の主要な登場人物をよく理解しているからなんだ。たとえば、トランプ大統領はその性格を理解すれば、行動を予測するのは簡単だと、北野さんは見抜いている。
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基本的にトランプは、「思ったことを話し、話したことを実行する」人です。ですから、彼の行動を予測しようとすれば、彼の話を聞くだけでいい。[北野、p162]
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花子: へえ!例えばどんなことですか?
伊勢: 私もトランプが最初に大統領選に出馬して「メキシコとの間に壁を作る」と言い出した時、アメリカにいたけど、回りのアメリカ人もみな単なる比喩だと思っていた。だから、当選して本当に壁を作り始めたので驚いた。
花子: 本当に言ったことをそのまま実行するんですね!
伊勢: そう。イスラエルとイランの件でも、こんなことがあった。
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かつてトランプを「イラン核合意」から離脱させたイスラエルは今、「親イスラエルのトランプがいるうちに、イランの核施設を徹底的に破壊してしまおう」と考えている。そういう意志を知っているトランプは2024年10月、「イランの核施設を破壊しろ」と呼びかけた。[北野、p184]
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伊勢: 私が思うに、こういう有言実行ぶりは、トランプ大統領が「不動産王」と呼ばれた凄腕のビジネスマン出身だという所から理解できる。政治の世界とは違って、ビジネスの世界では、企業どうしの契約や、株主に対する約束は絶対だからね。
でも、そこが、逆にトランプの限界にもなる。アメリカの不動産ビジネスと国際政治は全く違うからだ。不動産ビジネスなら、アメリカは国土が広いから、ニューヨークで誰かと組んで成功しても、ロサンゼルスではまた別の相手を探す。だから同盟相手を大切にすることをそれほど重視しない。
でも国際政治は、狭い町内でみんなが顔を突き合わせている日本やヨーロッパの方が近いんだよ。そういう世界では、まずは信頼できる仲間を大切にしなければならない。その感覚が、トランプ大統領にはまるでないね。北野さんも「アメリカの歴代大統領とトランプの謙虚な違いは、『群れで行動しない』ということです」と断言している。
■4.日米同盟は大丈夫?
花子: それで日米同盟も大丈夫なんでしょうか?
伊勢: それが心配なところなんだ。北野さんはこう分析している。
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実際トランプは、「私たち(アメリカ)は、彼ら(日本)を守るが、彼ら(日本)は、私たち(アメリカ)を守る必要はない」と発言。日米安保の不公正性を指摘し、繰り返し不満を表明しています。「他国を守りたくない」というのは、「アメリカファースト」「お金ファースト」のビジネスマン・トランプの「本質的価値観」だと思います。
これまでの大統領は、「同盟国の存在は力だ」と考えていた。しかし、トランプは、「同盟国は、アメリカからお金を奪っていく存在だ」と考えている。ですから、トランプ・アメリカが、他国の防衛に関与しない方向なのは、今後も変わらないでしょう。[北野、p214]
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■5.日本の進むべき道
花子: じゃあ、日本はどうすればいいんですか?
伊勢: 北野さんは明確な答えを示しているよ。
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こんな時代を日本は、どう進んでいけばいいのでしょうか。答えは、「自立化」「大国化」「国際法を守る」「民主シーパワー同盟の仲介役」です。[北野、p219]
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花子: 最初の「自立化」って、どういうことですか?
伊勢: 北野さんは20年前から同じことを言い続けているんだ。
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「日本は、アメリカ幕府の天領」「自立国家にならなければならない」
私は、同じ話を20年前からずっと続けています。
「自立国家」といってもぼんやりしているので、もう少し具体化し、「五つの自立」という話をしています。すなわち、「精神の自立」「経済の自立」「食料の自立」「エネルギーの自立」「軍事の自立」です。[北野、p220]
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花子: 五つもあるんですね!それぞれどんな内容なんですか?
伊勢: まず「精神の自立」は「自虐史観を捨てましょう」ということ。次に「経済の自立」については、こう書かれている。
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国産化できないものは、輸入先を多角化すること。そして、物を「武器」として使いがちな、独裁ランドパワー同盟(JOG注: 中国やロシアなど)からの戦略物資の輸入は、減らしていくことが重要です。[北野、p220]
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花子: なるほど。他の自立はどんな内容ですか?
伊勢: 「食糧の自立」では、カロリーベース38%の食料自給率を100%に近づけていくこと。「エネルギーの自立」は今、エネルギー自給率が12.6%しかないから、水力発電や核融合発電を活用していくことが必要なんだ。
■6.「軍事の自立化」のための経済力
花子: 最後の「軍事の自立」はどうですか?
伊勢: その前提として「経済力」が必要なんだ。ここで日本に大きな変化が起きている、と北野さんは言う。
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日本では2023年から2024年にかけて「大きな変化」が起きました。今後も変化は続いていくでしょう。どんな変化でしょうか?
「日本国民が、『暗黒の30年』の『真因』に気づき、抵抗し始めた」[北野、p228]
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伊勢: 「暗黒の30年」とは、日本経済の長期停滞のことだね。北野さんはこう説明している。
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一人当たりGDPは、もっと悲惨です。世界2位だったのが、2025年時点で世界38位まで下がっている。
なぜ世界一の繁栄を誇っていた日本が、このような恐ろしい状態になったのでしょうか?
「はっきり分からなかった」というのが正直なところでしょう。しかし、調べてみると「日本政府の愚かな政策のせいで」、具体的には、「タイミング最悪な増税のせいで」日本経済が「暗黒の30年になった」ことが分かってきました。[北野、p229]
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花子: えっ!世界38位まで下がってしまったんですか? じゃあ、どうすれば経済を復活させられるんですか?
伊勢: 北野さんの答えは明快だよ。
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では、どうすれば、日本経済を復活させることができるのでしょうか?
日本はバブルが崩壊した1990年から2025年まで、35年間「増税路線」「緊縮財政路線」で「暗黒時代」が続いてきました。ですから、正反対のことをすれば、経済成長が戻ってくるでしょう。つまり、「減税路線」と「積極財政路線」です。自民党の中にも、「減税路線」「積極財政路線」の人たちがいます。彼らが政権を取れなければ、自民党は選挙に惨敗し、他の政党(例えば減税路線の国民民主党など)が暗黒の35年の過ちを正すでしょう。[北野、p241]
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■7.「軍事の自立化」のためのアプローチ
伊勢: こうして、経済力をつければ、最後の「軍事の自立」が可能になる。そのためのアプローチも、北野さんはこう説いている。
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日本に対しては、「日米安保は不公平だ!」「防衛費をGDP比3%まで増やせ!」と主張しています。日本は、「トランプさんに要求されて仕方ない」といいつつ、防衛費を増やしていくべきです。・・・
日米安保は、もっと「双務的」なものにしていくべきでしょう。「双務的な同盟」にすることで、日本はアメリカの「属国」ではなく、「対等なパートナー」になることができます。
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花子: 日本が軍事的に自立するまでの道筋はどうなるんですか?
伊勢: 北野さんは望ましい長期的な道筋をこう描いている。
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私の描く、日本の「軍事の自立」までの道筋は、以下のようになります。
・アメリカは、長期的に衰退していく
・アメリカは、すでに中東、欧州への関与を減らしている
・アメリカは、アジアヘの関与を減らすために、日本の防衛費増を求める
・日本は、アメリカの衰退分を補う形で、防衛費を増やしていく
・日本は、どんどん強くなっていく
・日本は米軍を追い出さないが、弱体化したアメリカは、自然と東アジアから撤退していく
・そのとき、日本は十分強くなっていて、アメリカと良好な関係を保ちながら、軍事の自立を達成している。
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花子: なるほど!アメリカと敵対するんじゃなくて、良好な関係を保ちながら自立していくんですね。
伊勢: その通り。これが北野さんの描く日本の明るい未来への道筋なんだよ。
私が思うに、これは明治日本が開国からわずか60余年で国際連盟理事国という世界の指導的大国にのしあがった「明治の奇跡」を再現しようというアプローチだね。幕末に開国した時の日本は、今の日本よりもはるかに小さく貧しい国だった。周囲はロシア、イギリス、フランス、アメリカなどが、今の中国並みの侵略主義をとっていた。
その中で、明治日本は「富国強兵」とイギリスとの同盟によって、日露戦争を勝ち抜いて独立を維持し、しかも世界の大国にのしあがった。
花子: 「富国強兵」って、何か悪いイメージで教わりましたけど。
伊勢: 国が富み、強い軍事力を持つことで、国民が豊かになり、安心して暮らせるようになる。それのどこが悪いのかな。そういう誤った先入観から自由になることが、「精神の自立」だね。
そういう「精神の自立」を実現して、一人ひとりの国民が日本の行くべき道を真剣に考えるためにも、北野さんの本を読んで欲しいね。今日話したことは、今度の本のあらすじだけで、もっと詳しい、豊かな内容がいっぱい詰まった本だ
花子: 分かりました。私も早速、読んでみます。
(文責 伊勢雅臣)
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・テーマ・マガジン「北野幸伯氏の説く国際情勢と日本の針路」
ロシアの外交官養成機関である「モスクワ国際関係大学」を、日本人として初めて卒業(政治学修士)した北野氏は透徹した国際情勢分析と深い国家観をもって、日本の行くべき道を具体的に説いています。
https://note.com/jog_jp/m/me51e0e343099
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
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・北野幸伯『[新版]日本の地政学』★★★、育鵬社、R07
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4594100384/japanontheg01-22/
■伊勢雅臣より
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■編集後記
参院選が始まりました。私は昨日、いつものように事前投票を済ませてきました。事前投票は空いていて、快適です。本号でご紹介した北野さんの「5つの自立」を実現するためにも、まずはそれを志す政治家、政党を選ばなければなりません。私たちの1票1票が日本の未来を少しずつ明るくしていきます。そういう気持ちで、投票所に向かってください。
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