JOG(1434) 「死者の民主主義」~ 先祖代々の叡知を積み重ねていく


 日本とイギリスが共有する「草葉の陰の先祖」の声を聴くという姿勢が世代を通じて叡知をもたらす。

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★★★第5回「ニッポンだいすき」歴史勉強会★★★
【伊勢雅臣】中学生たちに大人気の授業を大人にも公開します。

日時  8月30日(土)10:30~
会場  かながわ県民センター 305会議室(横浜駅から数分)
テーマ 「世界史を変えた日露戦争 ~日本を勝利に導いた5つの理由・要因~」
講師  清田直紀氏(公立中学校教員)
    著書に『なぜ、日本は戦争をしたのか? ~ 17の質問から読み解く歴史物語』(アメージング出版)
参加費 入場無料(カンパ歓迎)
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■1.「それは理屈だ」という「常識」

伊勢: 花子ちゃん、この間、国連女性差別委員会が日本の皇位継承について、男女平等にすべきという勧告を出したことを論じたよね。

花子: ええ、こちらの号ですね。
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JOG(1432) 天皇陛下は大忙し ~ 皇位継承の議論の前に知るべきこと
「皇位継承は男女平等に」などと抽象論を振り回す前に、天皇のお仕事がどれだけ大変か、よく知るべき。
https://note.com/jog_jp/n/n41df66f5bd98
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伊勢: 「男女平等のために皇位継承制度を変更せよ」という言い方に、私は昔、アメリカに留学していた頃、よく感じていたことを思い出した。

 その頃、授業の中などで学生どうしの議論をしたけど、どうも欧米人は頭でっかちで、一つの問題を理屈だけで考える傾向がある、とよく感じていた。特に驚いたのは、こちらの主張で理屈が通ると、相手は、「そうだ、君の言うとおりだ」などと、見事な「負けっぷり」を見せることだ。

 日本では、そうはいかない。生産現場でのベテランなどは、自分の長年の経験に合わない主張に対しては、理論的な反論ができなくとも「それは理屈だ」と言って、納得しない。頭だけではなく、その人の長い経験に照らして、「肚落ち」しないと納得してくれない。いわば、欧米人は「頭」だけで考えるけど、日本人は「頭」と「肚」で考えているように思う。

花子: 「頭」では理解しても「肚落ち」しない議論を「理屈」と言うんですね。

伊勢: そうなんだ。「理屈」という言葉には、そういう一種の健全な軽蔑感が籠もっている。長年の経験から「肚落ち」しない議論は「それは理屈だ」と拒否できるところに、日本人らしい健全な考え方を感じるんだ。


■2.祖先からの相続財産を自分だけの考えで勝手に処分してもよいのか

伊勢: 私が気になるのは、そもそも世界最古126代も続いてきた日本の皇位継承制度に対して、自分たちがまだ知らない歴史的叡知がそこに潜んでいるかも、という敬虔な姿勢がまったく感じられないことだ。そういう傲慢な姿勢に疑問を感じるんだよ。

花子: なるほど、長い歴史に対する敬意の問題ということですね。

伊勢: 花子ちゃんの家は、100年以上も続く老舗の蕎麦屋だったね。お父さんは養子だけど、お祖父さんの職人気質を受け継いで、代々の味を顧客に提供しようと頑張っている、って言ってたね。

花子: はい、父はいつも祖父から受け継いだ味を大切にしています。でも、今思い出したんですけど、大叔父、つまり祖父の弟の話があります。

伊勢: どんな話だい?

花子: 祖父にはだいぶ年の離れた弟がいて、一時、その弟に店を継がせたそうなんです。でも、その弟は自分はいろいろな工夫で勝負できるラーメン屋をやる、と言って、ラーメン屋に衣替えしてしまい、結局、失敗してしまったそうです。いろいろな具材やスープ味の新規の工夫なら、それで勝負してきた、ラーメン屋の老舗には敵わなかったということでした。

 それで祖父がまた苦労して蕎麦屋を再開して、その頃、アルバイトで働いていた父を母の婿養子にして、店の後継者にしたんです。父は祖父の職人技をしっかり受け継いで、店を昔のように繁盛させました。

伊勢: なるほど、お店というのは代々の相続財産なんだから、なんでも自分の代で好き勝手にできると思ったら、大間違いなんだね。それを残してくれた先祖が今、生きていたら何と言うだろう、と考えなければならない。

花子: 確かにそうですね。祖父は、生前、父の頑張りを嬉しそうに見ていました。しかも、父は祖父に教わった通りにするだけでなく、そば粉を変えたりしながら、コストを抑え、さらに良い味になるよう、工夫を積み重ねています。そんな所も、祖父は頼もしげに見ていました。

伊勢: そもそも人間の智慧には限界がある。何代も続いてきた老舗は、その間の体験的な智慧の蓄積がある。それは一人の人間の勝手な思い込みなどよりも、はるかに深く豊かなものなんだね。


■3.「彼らは自分の英知を絶対視する」

伊勢: 欧米人はアタマでっかちと言ったが、それが端的に表れたのがフランス革命なんだ。「人は、自由、かつ、権利において平等」との「人権宣言」が発せられたが、王権やカトリック教会がそれに反するとしてフランス王のルイ16世をギロチンにかけて殺害し、無数のカトリック教徒を虐殺した。「人権宣言」のもとで、200万人もの犠牲者を出したんだ。
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JOG(1065) 公民教科書読み比べ(5):フランス革命から学ぶ人権弾圧の歴史
 フランス革命は「人権の歴史」ではなく、「人権弾圧の歴史」として学ぶべき。
https://note.com/jog_jp/n/n6112c0a565cf
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花子: そんなに多くの犠牲者が出たのですか。学校では、フランス革命が自由や人権の始まり、などと学びましたけど、、、

伊勢: そんなフランス革命をその勃発の時から批判したのが、イギリスの下院議員エドマンド・バークだった。革命は1789年7月のバスティーユ牢獄の襲撃で始まったけど始まる。バークは、直後から友人に革命批判の手紙を出し始め、それらを集めて、わずか1年3ヶ月後に『フランス革命の省察』を出した。

 フランスでは国民議会が中心となっていたが、王政はまだ廃止されていなかった。その段階で、「この国で王政が復活するようなことがあれば、史上かつてない独裁政権の誕生となるだろう」と予測したんだ。実際に3年後には、ロベスピエールの独裁政権が実現して、恐怖政治を行った。その後は、ナポレオンが出て、共和制を倒し、皇帝となった。

花子: バークはなぜそんなにフランス革命の行く末を予言できたんでしょう?

伊勢: その頃バークはすでに60歳ほど。イギリスの老練な政治家として、頭でっかちのフランスの革命家たちの愚行がどう展開するのか、先が見えていたようだね。バークはこう言っている。
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 彼らは他人の英知に敬意を払おうとせず、そのかわり自分の英知を絶対視する。古くから続いてきた制度は、ただ古いというだけで否定されてしまう。[バーク、p105]
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■4.フランスは「頭でっかちの口達者」、イギリスは謙虚

伊勢: 結局、フランスは革命後、共和制から帝政へ、そしてまた共和制へと、合計5回も行ったり来たりした。こんな具合だ。

 ・第1共和制 1792年、王政廃止
 ・第1帝政  1804年、ナポレオンが皇帝となる
 ・第2共和制 1848年、2月革命
 ・第2帝政  1852年、ナポレオン3世が皇帝に。
 ・第3共和制 1870年の普仏戦争敗北後、ナポレオン3世退位

 この間に、イギリスは安定した立憲君主制のもとで、議会制民主主義を発展させ、7つの海にまたがる大英帝国を築いた。一方、フランスはイギリスよりもはるかに広大で豊かな国土を持ち、人口も多い大国だったけど、近代国家の発展という面ではイギリスの後塵を拝した。これだけ政治が迷走していては、それも当然だけどね。

花子: フランス革命は自由や平等、人権という理想を打ち出したと学びましたけど、現実政治の実態ではだいぶ違うのですね。

伊勢: そう、悪く言えば、革命家たちは「頭でっかちの口達者」だね。バークはこうも言っている。
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 誰もが自分の理性に従って行動するのは、社会のあり方として望ましいことではない。個々の人間の理性など、おそらく非常に小さなものにすぎないからである。国民規模で定着した物の見方や、時代を超えて受け継がれた考え方に基づいて行動したほうが、はるかに賢明と言えるだろう。[バーク、p104]
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花子: まさに「世代を超えて、かつ国民的規模で考える」イギリスと、「自分の英知を絶対視する」フランスの違いなのですね。

伊勢: そう、バーク自身も、自分たちの謙虚さが幸福と繁栄の原因だったと述べている。
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 フランスの革命派諸氏は、自分たちが英知の光に満ちていると吹聴する。わが国の父祖たちは、そんなうぬぼれとは無縁だった。人間は愚かであり、とかく過ちを犯しやすい──これこそ彼らの行動の前提となった発想である。
 おかげでイギリスは神の祝福を受けるに至った。神は人間を不完全なものとしてつくったのだ。その点をわきまえ、謙虚に振る舞ったわが父祖たちにたいし、神は幸福と繁栄という褒美を与えた。[バーク、p249]
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■5.自由や権利は『祖先から直系の子孫へと引き継がれる相続財産』

伊勢: バークは、自由や権利は『祖先から直系の子孫へと引き継がれる相続財産』、と述べている。イギリス人の自由や権利は、祖先が専制君主などと戦って獲得した、イギリス国民独自の相続財産だと言うことだ。

 フランス革命は、自由や人権を人間固有のものとして訴えたが、それらを具体的にどう守るか、という工夫もないままに、抽象的なスローガンとして叫ぶだけだった。そして逆に自分たちのしたことは、何万という王統派をギロチンにかけたり、カトリック教徒を虐殺した。

花子: 抽象的な理念だけでは危険だということですね。

伊勢: それに対して、イギリス国民は自由や権利を相続財産のようにみなすことで、慎重に着実に発展させてきた。バークはこう説明している。
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 イギリス人は、自由や権利を相続財産のように見なせば、「前の世代から受け継いだ自由や権利を大事にしなければならない」という保守の発想と、「われわれの自由や権利を、次の世代にちゃんと受け継がせなければならない」という継承の発想が生まれることをわきまえていた。
そしてこれらは、「自由や権利を、いっそう望ましい形にしたうえで受け継がせたい」という、進歩向上の発想とも完全に共存しうる。[バーク、p59]
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花子: 祖先から受け継いだ自由や権利を大事に守りながら、少しずつ進歩して、より良い形で子孫に引き継いでいくということですね。


■6.「相続財産」が、国民の節度と尊厳、同胞感をもたらす

伊勢: さらにバークは言う。
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 過去の世代から自由を受け継いだとする姿勢は、われわれの行動におのずから節度と尊厳をもたらす。地位であれ権利であれ、自分一代で獲得した者は、ほとんどが成り上がりの傲慢さに取り憑かれて恥をさらすが、そんなみっともない真似をせずにすむわけだ。わが国の自由は、こうして高貴なものとなる。[バーク、p772]
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花子: 「成り上がりの傲慢さ」って、ラーメン屋で失敗した大叔父のことを言っているみたいです。父みたいに祖父から相続した財産、という意識があれば、謙虚さが生まれるということですね。

伊勢: そして「相続」の概念は、国民共同体に次のような特長を与える。
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 同時にそれは、「相続」の概念を基盤にする点で、国家を家族になぞらえることにもつながる。わが国の憲法は、血縁の絆に基づいたものという性格を帯び、さまざまな基本法も、家族の情愛と切り離しえなくなる。国家、家庭、伝統、宗教、それらが緊密にかかわり合いながら、ぬくもりに満ちたものとなるのである。[バーク、p60]
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花子: 国民が、自由や人権などを先祖から受け継いだ共同の相続財産と見なすことで、お互いに家族のような同胞感で結ばれる、ということですね。なんて温かい見方なんでしょう。

伊勢: 日本語では、「国家」という言い方に、すでに国とは家族のような共同体という語感が込められているけど、イギリス国民も同様の感覚をもっているようだね。


■7.「死者の民主主義」

伊勢: 最後にバークの重要な指摘がこれだ。
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 偉大なる先祖の面々が自分の振る舞いをつねに見ていると思えば、これにも責任感や慎重さという歯止めがかかろう。[バーク、p60]
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花子: えー、これなんか、「草葉の陰で先祖が見守っている」という日本人の死生観とまったく同じですね。

伊勢: 本当にそうだね。そして、イギリスと日本には相通じる表現がまだある。イギリスの批評家G・K・チェスタトンが言った「死者の民主主義」という言葉だ。現在、たまたま生きている国民だけでなく、何百世代という過去の先祖たちの声も聴かなければ、本当の民主主義にならない、ということだ。

 一方、日本の民俗学の創始者・柳田國男も、「死し去りたる我々の祖先も国民なり。その希望も容れざるべからず」と言っている。[茂木、905]

花子: 亡くなった先人たちの声も聴け、ということですね。うちの父も、「こういう時、お祖父さんだったら、どうするかな」って口癖にしています。

伊勢: こうして考えると、フランス革命のように「自分たちが英知の光に満ちている」などとうぬぼれた姿勢では、結局、自分たち一代の、それも多くの反対者を排除して、ごく一部の人間の限られた理性しか使えない。それに対して、イギリス人や日本人の姿勢では、無数の世代の積み重ねてきた知恵と経験を活用することができる。どちらが賢い道か、明らかだね。

花子: 草葉の陰のご先祖様の声を聴く、それこそ歴史を学ぶ意味なんですね。
(文責 伊勢雅臣)


■リンク■

・テーマ・マガジン「リベラル思想にご用心」
 人権、平等、平和などを振り回す思想の正体は?
https://note.com/jog_jp/m/m9d13b41efef4


■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

・バーク、エドマンド『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』★★★、PHP文庫(Kindle版)
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・茂木誠『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない「保守」って何?』★★★、祥伝社(Kindle版)
(著)
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■1432号「天皇陛下は大忙し ~ 皇位継承の議論の前に知るべきこと」へのおたより

■天皇の祈りと、出産育児は両立しない(長谷川さんより)

皇位継承が父系男性であるべきとは思っていたのですが、その根本が、
『天皇の役割が、私心を捨てて、民の安寧と幸福を祈り、祈り続けることだけであり、人生のある時期に出産、育児を経験する可能性のある女性に求めるのは、酷であるばかりか、無理だと想像します』

とのご意見を拝見し、心の底まで納得しました。

 そういう意味では、父系女性の天皇を戴くことも少し無理があるのかもしれません。

 旧11宮家の皇族男子の父系の男子子孫に、現宮家の養子になっていただくか、直接、皇族になっていただくかの案を早く法案成立させて具体的に動くことを支持します。

 学習院の左傾化や悠仁親王の蜂子皇子の墓参りは初めて知りました。やはり私もマスコミの誤情報に害されていたんだと、ちょっとがっかりしております。

■伊勢雅臣より

 私も、天皇の万民の幸せを祈るお仕事と、出産育児で我が子の幸せを祈るのは、両立しないというご意見に「なるほど」と思いました。だから、歴史上、女性天皇はいても、未婚か、未亡人だけだったのですね。皇位継承の歴史に潜む、深い知恵がありました。

 読者からのご意見・ご感想・ご質問をお待ちします。本号の内容に関係なくとも結構です。本誌への返信、ise.masaomi@gmail.com へのメール、あるいはブログのコメント欄に記入ください。

■編集後記

 終戦記念日で、多くの方々が靖国神社を参拝されている光景がテレビで報じられていました。ちょうど、「靖国」という月刊の広報誌の次号に、一文を掲載させていただきました。子供たちに「靖国神社」をどう教えるか、というあるベテラン教師の方の授業をご紹介しています。これも英霊へのご供養になればと思っています。いずれ、内容をご紹介させていただきます。乞うご期待。

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