No.1421 沖縄県政10年の停滞 ~『オール沖縄 崩壊の真実』を読む
「辺野古新基地建設反対」のリーダー翁長雄志・前知事は、かつては「辺野古しかない」と言っていた。その変節の理由は?
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■1.「翁長さんのあの言葉は何だったんだろう」
伊勢: この間、読んだ『オール沖縄 崩壊の真実』という本で、とても面白い事が書いてあったよ。花子ちゃんは「オール沖縄」って知っているかな?
花子: はい、聞いたことはありますけど。
伊勢: 「オール沖縄」は前知事の翁長雄志(おなが・たけし)が生みの親で、普天間への米軍基地移設反対を叫んできた団体だ。しかし、その翁長氏が、かつては熱烈な辺野古推進の賛成者だったことを、一緒に現地を視察した島尻昇さんという政治家志望だった人が語っている。
島尻さんは、辺野古の埋め立て予定地の美しい海を見て、埋め立てを避けるための別の候補地のアイデアを述べた時のことだった。
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翁長は呆れたような表情で島尻を見た。
「君は全然、勉強不足だね」
「……」
「ここしかないんだよ。辺野古しかないんだよ。勉強しなさい」[仲新城、p186]
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その翁長が、2014年11月、沖縄県知事選で突如、「オール沖縄」を立ち上げ、「辺野古新基地建設反対」を訴え始める。島尻は、翁長の豹変ぶりについて行けなかった。「翁長さんのあの言葉は何だったんだろう」と思った、というんだ。
■2.「オール沖縄」の看板で、共産党候補も得票倍増
花子: いったいどうして、そんな変節が起きたんでしょう。
伊勢: 「『オール沖縄』は、翁長さんが知事になるための戦略的な政治闘争の中で生まれた」。これは翁長氏と長い間、盟友だった自民党沖縄県連顧問の元・県議、翁長政俊氏の言だ。氏はこう説明している。
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(当時の県知事だった)仲井真さんは、やり残した沖縄振興策を3期目で完成させたいという強い意欲を持っていた。後継者問題は明確な結論が出ておらず、翁長氏は仲井真さんが3選出馬するのか、自分に禅譲するのか見極めるため、いろいろ情報を取っていた。[仲新城、p190]
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その仲井真知事は、2013年12月に辺野古沿岸埋め立てを承認して、安倍晋三政権から巨額の沖縄振興予算を約束された。しかし、沖縄の左翼メディアから激しいバッシングを受けた。
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仲井真さんへの激しいバッシングを見ていた翁長さんは、翌年の3~4月ごろから『オール沖縄』をつくる方向に大きく舵を切った。発言も先鋭化し、エスカレートしていき、辺野古反対運動の先頭に立った。世論の動きを見極め、革新側に軸足を移し、知事選出馬の腹を固めたのだと思う。[仲新城、p190]
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翁長さんは2014年の沖縄県知事選挙で、自民党を割って左翼勢力と共闘し、「オール沖縄」を掲げて仲井真さんに圧勝した。その時に有名になったスローガンが、「イデオロギーよりアイデンティティ」だった。これは、左右のイデオロギー対立より、沖縄人としてのアイデンティティで一つにまとまろう、という意味で、沖縄の人々の心情に訴えるところが大きかった。
そのアイデンティティに訴えるのに、辺野古への基地移転問題が使われた。「面積では0.6%にすぎない沖縄に、全国の米軍専用施設の7割が集中しているのは、沖縄に対する差別だ」という論法だった。
これは集票の仕掛けとしては絶大な効果を発揮した。たとえば、共産党の赤嶺政賢氏は衆院選の沖縄一区で、「憲法9条堅持」を訴えていた時は3万票を超えたことがなかったけど、「オール沖縄」で辺野古移設反対を前面に押し出すと、6万票もとれるようになった。無党派層の人々は共産党に投票するのは抵抗があるけど、沖縄のために頑張ってくれている人なら投票しようという気になった。
花子: 翁長さんの選挙戦術では超一流なのですね。自分が知事になるためには、政策の方は自由自在に変えてしまう、というのは、政治家としてはどうかと思いますけど。
■3.辺野古への基地移転による巨大なメリットが封じられてきた
伊勢: それに「新基地建設」という言い方が、真実を隠したプロパガンダだね。そもそも、辺野古への基地移転は、現在の普天間が周囲を住宅街に囲まれてしまって、米軍機の事故でもあったら、大きな災害になりかねない、という危険除去が、第一の狙いだった。辺野古なら、海上ルートを使うので、危険は大幅に緩和される。
だから、翁長知事誕生以来の10年、事故の危険はずっと普天間周辺の住民を脅かしてきたんだ。大事故が起きなかったのは、幸運としか言いようがない。
第二の目的は、基地面積の整理縮小だ。辺野古沿岸などの埋め立て面積は150ヘクタールに対して、普天間飛行場の移設で返還される土地面積が約476ヘクタール。実に東京ドーム102個分だ。
那覇市の北15キロほどの処に、これだけの土地が生まれる。しかも周辺の西海岸地域は、美しい遠浅のビーチがたっぷりある。那覇市はすでに名古屋市並みの過密状態になっているから、返還後に那覇市からモノレールなどで20~30分の所に、新しいリゾート地域、住宅地、商業地域が生まれる可能性がある。
第三に、辺野古の基地は、自民党中央からも軍民共用化しようという提言が出ている。那覇空港は本島南部にあるため、観光客が北部に移動しようとすると、車で数時間かかる。辺野古によって本島北部に空港ができれば、平時の観光、さらに災害時や有事の対応にも大きなメリットが生まれる。
翁長氏が県知事となり、現在の玉城知事が引き継いで10年。結局、「新基地建設反対」と叫ぶだけで、普天間の危険性除去、さらに沖縄本島の発展という可能性は封じられてきた。
花子: そういう沖縄の発展の可能性も考えれば、かつての翁長さんが「辺野古しかないんだよ。勉強しなさい」と言っていた意味がよく分かりますね。しかし、それだけ勉強していながら、自分が県知事になりたいという野心のために、県民全体の将来をすべて封じてしまったとすれば、政治家の選び方を間違えると、恐ろしい結果を招く、ということですね。
■4.「沖縄民族主義」で反基地運動を盛り上げ
花子: しかし、翁長さんの「オール沖縄」戦術が、そんなに選挙面で効力を発揮したのは、なぜなんでしょう。
伊勢: やはり「イデオロギーよりアイデンティティ」という戦術が成功した要因だろうね。『オール沖縄 崩壊の真実』の著者・仲新城誠氏は沖縄県石垣島生まれで、こう語っている。
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私は(沖縄の本土)復帰翌年の生まれだが、それでも私の心には「自分は沖縄人なのか、日本人なのか」という若干の迷いがある。差別に苦しんできた先人たちのDNAがどこかに生きているのか、本土の人たちと自分とは「人種的に違うのかも」と思うこともある。私より上の世代であれば、そんな感覚はなおさら強い。
「オール沖縄」は、差別に苦しんできた沖縄人たちの微妙な心のひだに入り込む。[仲新城、p163]
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たとえば、翁長氏は辺野古移設に反対する県民大会で「ウチナーンチュ、ウシェーティナイビランドー(沖縄の人をばかにするな)」と沖縄方言で叫び、沖縄民族の獅子吼(ししく)として沖縄メディアで大きく取り上げられた。[仲新城、p164]
■5.「沖縄ヘイト」と「沖縄民族主義」
さらに沖縄のメディアは、反基地運動を批判する言動を「沖縄ヘイト」と罵倒して、基地問題を差別問題にすり替える。
「もともと普天間基地は田んぼの中にあった。基地の周りに行けば商売になるということで、どんどん基地の周りに人が住みだした」。こういう言論まで、沖縄人に対するヘイト、民族的差別と切り捨てる。
琉球新報は「沖縄ヘイトにあらがう」をテーマにしたフォーラムを2023年11月に那覇市で開いた。パネル討論会で、ある市民団体の代表は、自らを「琉球の先住民族。祖国は日本ではない。琉球だ」と自己紹介した。同じくパネル討論の参加者が「(私は)日本人じゃなくてよかった」と語りかけると、会場からは大きな拍手が起きた。
仲新城氏は、こう断言している。
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(自民党)政権と対立する「オール沖縄」が狙うのは、日本と沖縄の分断につながる「沖縄民族主義」の高揚だ。県民が「沖縄ヘイト」にさらされている、という報道にも「沖縄民族主義」をかき立てることで、辺野古移設反対運動を盛り上げようという底意がある。[仲新城、p164]
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「オール沖縄」は、この「沖縄民族主義」を国連まで持ち込んで、沖縄の人々を勝手に「被差別先住民族」として、日本政府に勧告を出させている。翁長知事も国連人権理事会で、2分間のスピーチをするために、わざわざスイスのジュネーブまで行った。
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JOG(1208) 国連で勝手に「被差別先住民族」とされた沖縄の人々
国連は勝手に、沖縄の人々を日本人でない「先住民族」とし、中国は「日本から独立したがっている」と主張している。
https://note.com/jog_jp/n/n1aed83211ec9
JOG(958)日本を守る沖縄の戦い ~ 我那覇真子さん、国連での言論戦
翁長知事の国連を利用した米軍基地移転反対に、若き沖縄女性が立ち上がった。
https://note.com/jog_jp/n/na44bae621888
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■6.中国にすり寄るだけの玉城外交
花子: しかし、いくら「新基地建設反対」とか言っても、代替地を提案できるわけもなし、と言って、基地を無くすことなど、今の中国の尖閣諸島に対する無法ぶりを見れば、責任のある政府ができることではありませんよね。
伊勢: そう、反基地闘争と言っても出口はない袋小路なんだ。そして米軍基地に反対し、日本政府を批判していれば、頼れるのは中国しかなくなる。今の玉城知事の「地域外交」を見れば、その結末がよく分かる。
玉城知事は、2023年7月、日本国際貿易促進協会の訪中団に同行して北京で李強首相と面会したが、その席は会長の河野洋平・元衆院議長の隣という厚遇ぶりだった。しかし、玉城知事は尖閣諸島の問題については、何も言わなかった。しかも、前年8月に、中国が軍事演習で日本のEEZ(排他的経済水域)に弾道ミサイルを撃ち込んだ問題に対しても、一切、抗議しなかった。
玉城知事と対照的な態度をとったのが、沖縄県議会の赤嶺昇議長だった。23年10月に中国の呉江浩駐日大使が沖縄県庁を訪れた際に、表敬訪問を受けた。その際に、赤嶺議長は中国海警局の艦船が尖閣諸島で領海侵入を繰り返し、日本漁船を威圧している問題に抗議して、平和的な外交を求める「要望書」を手渡した。
さらに、弾道ミサイル発射に関しても、「このような行動は偶発的な軍事衝突を生む」として、平和的な外交交渉の必要性を強調した。いずれも県議会で同内容の決議が可決されている。
呉大使は、玉城知事の親中姿勢から「沖縄は自分が訪問すれば、歓迎一色だろう」と勘違いしていたふしがある。思わぬ抗議に、大使の顔からは汗が噴き出し、緊張した様子で「見解の相違がある」などと反論したという。
花子: 沖縄にも毅然とした政治家がいるんですね。
伊勢: そう、「地域外交」というなら、自分の県の漁船が中国の武装した艦船に威圧されたり、ましてや弾道ミサイルを撃ち込まれたのを、厳重に抗議しなければならないはずだ。玉城知事の親中姿勢は「外交」にすらなっていない。
■7.「引きこもり型自文化尊重」から「参画型自文化尊重」へ
花子: 今後、「オール沖縄」はまだまだ沖縄を支配していくのでしょうか?
伊勢: いや、そろそろ終わりが見えてきている。2024年6月の県議会選挙では、玉城知事を支持する与党は48議席中、過半数を大きく割り込む20議席しかとれず惨敗した。今年に入ると、県内で唯一「オール沖縄」系だった宮古島市長選で現職が落選し、保守系候補が初当選した。これで「オール沖縄」系の市長は、沖縄県内の11市でゼロになった。
玉城知事の任期は、来年9月までだ。辺野古移設を阻止するために国を提訴していた訴訟では、最高裁で県の敗訴が決まっている。そんな手詰まりの問題よりも、県民は物価高騰などで苦しくなっている生活をなんとかして欲しいという不満が高まっている。このままなら、来年の知事選で「オール沖縄」県政は完全に終焉を迎えるのではないかな。
花子: 翁長前知事から玉城知事へとバトンが渡された「オール沖縄」の反基地闘争も、10年でようやく幕がおりそうですね。
伊勢: 長年、「オール沖縄」を取材してきた仲新城さんは、後世の歴史家はこう総括するだろう、と断言している。
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現実の問題より反基地イデオロギーを優先させ、沖縄振興を10年間遅らせた県政史上の汚点。[仲新城、p235]
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同時に、日本国民全体も、この「県政史上の汚点」から学ぶべき点があると私は思う。それは、「オール沖縄」の「沖縄民族主義」に対して、しっかりした思想的批判ができずに、「辺野古しかない」というような技術論でしか応えられなかった点だ。
私は、沖縄の独自の歴史、文化、自然から、沖縄人が「自文化を尊重しよう」という姿勢を持つ事は大事だと思う。ちょうど薩摩人や京都人が自文化を誇りに思うようにね。しかし、「祖国は日本ではない。琉球だ」というような「引きこもり型自文化尊重」になっては、「オール沖縄」のような袋小路に入ってしまう。
やはり「日本の中の沖縄」であり「東アジアの架け橋」として「参画型自文化尊重」の姿勢で、独自の歴史、文化、自然で貢献することが、沖縄人としての「仕合わせ」な道だと思う。
花子: それは世界の中の日本の立ち位置についても言えることですね。国粋主義的な「引きこもり型自文化尊重」や、昨今のグローバリズムに見られるような「参画型自文化蔑視」では、国際社会ではやっていけないですよね。
伊勢: そう、その通り。「参画型自文化尊重」こそが「国際派日本人」の生き方だね。
(文責 伊勢雅臣)
■リンク■
・テーマ・マガジン「沖縄の真実」
沖縄の歴史と文化、政治に関する史実と真実を学びましょう。
https://note.com/jog_jp/m/mb34daa7aa1af
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
→アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
・仲新城誠『オール沖縄 崩壊の真実 反日・反米・親中権力』★★★、産経新聞出版、R07
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4819114522/japanontheg01-22/
■前々号『左翼という認知バイアス』へのおたより
■図書館などにある歴史人物の本は大丈夫?(寛子さん)
子供たちが認知バイアスに迷い込まないようにするためには,歴史人物学習、とありましてお聞きします。
今、図書館などにある歴史上の人物の本は、読んでも大丈夫なのでしょうか。プロパガンダの本などもあるのではないかと思い躊躇しています。
子どもたちが読むべき伊勢さんおすすめの本、よかったら教えてください。
■伊勢雅臣より
私たちが運営している歴史人物学習館は、まっとうなYouTube動画などを人物毎に集めています。このサイトで、お子様の興味に従って、歴史人物を選んで、お勧めのYouTube動画を見たり、ブログを読んでいただければ、と思います。現在、160人以上の歴史人物を取り上げ、地域、時代、職業などで検索できるようにしています。
歴史人物学習館
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その上で、これはと思う人物が見つかったら、その人物に関して違和感のない記述をしている伝記などを読み進めることをお勧めします。
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■編集後記
本号の冒頭に登場した島尻さんは、政治家を目指していましたが、こう語っていたのが、心に残っています。
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もちろん当選はしたいけど、自分の信念を変えてまで通ろうとは思わない。だって当選することが目的じゃないから。当選して何をするかが大事。[仲新城、p194]
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当選のためには信念まで変えてしまうのが「政治屋」で、自分の信念を実行するために当選を目指すのが「政治家」でしょう。政治を志す人々が、真の「政治家」になるためにも、歴史上の「政治家」たちの生き方に学んで欲しいと思いました。
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