JOG(1432) 天皇陛下は大忙し ~ 皇位継承の議論の前に知るべきこと
「皇位継承は男女平等に」などと抽象論を振り回す前に、天皇のお仕事がどれだけ大変か、よく知るべき。
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■1.国連女性差別撤廃委員会「皇位継承は男女平等に」?
伊勢: 昨年、国連女性差別撤廃委員会が「日本の皇位継承は男性に限られている現行の皇室典範を改正し、男女平等にすべき」として、改正を要求したね。
花子: 国連がそんなことまで口出しをするんですか?
伊勢: 「男女平等」を金科玉条として、すべてに適用すべきとする、上から目線の原理主義者の言い分だね。そもそも、そういう輩(やから)は、天皇がどんなお仕事をされているのか、何も知らないで発言しているんだろう。良識のある人間なら、そんなトンチンカンな主張はしないけどね。
もっとも、天皇陛下がどんなお仕事をしていて、どれほどお忙しいのか、日本人でも知っている人は、ごくわずかだろう。花子ちゃん、天皇陛下は普段どういうお仕事をされていると思う?
花子: えーっと、公民教科書には「天皇は、国の政治についての権限を持たず、憲法に定められた国事行為だけを行います」って書いてありました。
伊勢: そうだね。主な国事行為には何があったかな?
花子: 教科書に書いてあったのは、「国会の指名に基づく内閣総理大臣の任命」「内閣の指名に基づく最高裁判所長官の任命」「国会の召集」「衆議院の解散」「栄典の授与」などです。あと、全国植樹祭の式典で植樹をされている天皇・皇后両陛下の写真も載っていました。これらはすべて合わせても年に数回あるかないか、のお仕事ですね。
それ以外に、テレビでは大地震などの被災者のお見舞いをされている様子をよく見ます。それらを含めても、それほどお忙しくはされていないのではないでしょうか?
伊勢: それは大きな誤解だ。これらは実際に天皇がされている仕事のごく一部に過ぎない。
花子: えっ、そうなんですか?
■2.1年間で710件のお仕事
伊勢: 宮内庁記者をされていた山本雅人さんの著書『天皇陛下の全仕事』では、平成16(2004)年11月の2週間のご公務ぶりを記述しているが、その第一週の始めだけ見ても、こんな具合だ。
11月1日(月)
・朝から祭祀、「献穀ご覧」(新嘗祭のために献上された新米などをご覧に)
・来日したエストニア大統領夫妻とのご会見
・午後「財務相表彰の申告納税制度普及発展の尽力者との拝謁」
・「灯台守」(「永年にわたり航路標識関係に尽力のあった者ら」)との茶会
・来日したケニア大統領夫妻とのご会見。
11月2日(火)
・午前 外務省総合外交政策局長による国際情勢の進講
・来日したナイジェリア大統領を迎え「竹の間」でご会見。
・午後 宮殿の表御座所でご執務
・来日したインド下院議長夫妻を引見
・着任した駐日イラク大使・シンガポール大使の信任状捧呈式。
この週の土曜日にはお休みを返上されて、二週間前に起きた中越地震の被災者のお見舞いに新潟県を日帰りでご訪問されている。
花子: うわー、さっき言った国事行為以外のお仕事でいっぱいなんですね。それに土曜日まで新潟への日帰り出張なんて。
伊勢: そう、それも個々のお仕事で、場所を移ったり、服装を変えたり、外国元首とのご会見では相手国の最近の事情の説明を受けたり、お話しする内容を考えたり、とそれぞれに準備がある。ここに引用したお仕事は、2日間で10件だけど、山本さんはこれらの件数をこの年で合計すると約710件だったとしている。
花子: 教科書で説明している国事行為というのは、せいぜい年に数件でしょうから、件数で見る限り、全体の1%ほどに過ぎない、ということなんですね。
■3.年間1100~1200件の内閣上奏書類の閲覧と署名
伊勢: 上記で、天皇陛下の執務は、たった一件と数えられているが、その中身はいくつもの法律や政令の閲覧とご署名だ。平成16年には、内閣から上奏された書類が1091件あった。毎年1100~1200件前後で、ほぼ変わらないそうだ。
花子: そんなにたくさんの書類に目を通されているんですね! 署名するだけじゃなくて、内容も確認されるんですか?
伊勢: そうだね。500を超える法律や政令にはそれぞれの内容を説明した「説明書」も添付されている。それらにも目を通される。法律の公布をはじめ、国家運営上重要なものが多いから、火曜金曜の午前中に閣議で決まった案件は、その日の午後に陛下が決裁される。「風邪」などの体調を理由に休むこともできない。憲法で「天皇」が行うと規定されているからだ。
花子: 休めないなんて、大変ですね…。地方をご訪問されているときやご静養中はどうなんですか?
伊勢: 地方をご訪問されている最中でも、午前の閣議で決まった案件は、閣議終了後すぐに職員が飛行機で持参する。また、御用邸で静養している場合でも、閣議を経た上奏書類は御用邸まで運ばれて、現地で決裁される。これが春や秋の叙勲シーズンだと、一回に数千人の名簿や功績調書が内閣から届けられるんだけど、陛下はこれら膨大な書類すべてに目を通されているようだ。
花子: えっ、全部に目を通されるんですか? 数千人分も!
伊勢: その通りだ。政府関係者によると、多数の叙勲対象者について、ある時、天皇は一部の人たちの功績調書が添付されていないことを、指摘されたことがあるという。
花子: 細かいところまでしっかり確認されているんですね。執務にはどのくらい時間がかかるんですか?
伊勢: 普段は週2回、一時間くらいだが、春・秋の叙勲シーズンになると、分厚い名簿や功績調書に目を通す必要があるため、6時間前後かかることもあるそうだ。
花子: 大変なお仕事ですね…。天皇陛下って本当に忙しいんですね!
■4.国内外の人と会われるお仕事が半数以上
伊勢: 710件のお仕事のうち、計374件と半数以上を占めるのが、海外や国内の賓客とお会いすることだ。まず外国の賓客、つまり大統領、王族、大臣などとの「会見」「引見」が49件。それから外国の大使・公使の「信任状捧呈式」が36件だ。
花子: 信任状捧呈式というのは何ですか?
伊勢: 新しく日本に赴任してきた大使が、自国の元首からの信任状を天皇陛下にお渡しする儀式のことだ。それから勲章受章者との「拝謁」が88回もある。
花子: どのような勲章を受けられた方々ですか?
伊勢: 大綬章(旧・勲一等)は数人単位で勲章をお渡しするが、重光章(旧・勲二等)以下では、一回約千人、一日2回で1週間ぶっ通しで合計12回、約2万2千人もの勲章受章者の拝謁が行われるんだ。
花子: 2万2千人もの方が! それも大変なお仕事ですね。
伊勢: そうだね。他にも文化勲章受章者、人間国宝、五輪メダリストなどとの「お茶・茶会」が42回。そして「会釈」として、ボランティアの皇居の「勤労奉仕団」へのお礼が66回ある。
花子: なぜこのように多くの方々が天皇陛下とお会いになりたがるのでしょうか?
伊勢: それは天皇陛下の特別な権威にあるんだ。外国からの元首や大使などは、世界最古の皇室の天皇とお会いできることを、この上ない名誉と思っている。国内の功労者の方々も、勲章そのものだけでなく、天皇からいただくということ自体が大きな栄誉なんだ。
これがたとえば、選挙に負けて退陣を迫られている現在の首相なんかから勲章を貰うことを考えれば、その違いは明白だろう。まさに余人に代えがたい「権威」なんだね。
■5.32件の宮中祭祀、元日は午前5時半から
伊勢: もう一つ、知られていないのが、宮中祭祀だ。これは現在「私的行為」とされているが、戦前までは最重要の行事とされてきたものだ。
花子: 宮中祭祀ってどんなことをするんですか?
伊勢: 簡単に言えば、神々に豊作を祈願し感謝する、そして日本国の安泰と人々の幸福を祈願する。いわば日本人全体の神主の役割を天皇陛下が担われているんだ。年間32件もある。
花子: そんなにたくさんあるんですね! お祀りでは具体的にはどんなことをされるんですか?
伊勢: 例えば元日の午前5時半から行われる「四方拝(しほうはい)」では、神嘉殿という建物の前の庭に敷いた畳の上で、伊勢神宮、そして四方の神々に向かって国の安泰と農作物の豊作を祈るんだ。古式の神主のような装束で、真冬の明け方の寒さの中でだ。
花子: 午前5時半って、まだ真っ暗ですよね。すごく寒そう…
■6.新嘗祭、2時間のお祀りを夕方と深夜の2回
伊勢: 最も重要なのが新嘗祭(にいなめさい)だ。11月23日の午後6時、天皇がその年に採れた米などの新穀を祖先神をはじめとする神々に供え感謝した後、御自らも召し上がるんだ。
花子: 新嘗祭って勤労感謝の日ですよね。どんなことをされるんですか?
伊勢: 皇室の祖先神を祭る伊勢神宮の方角に設けられた神座に用意された、ふかした新米のご飯、粟のご飯、酒、刺身のように調理されたタイ、アワビ、サケなどの鮮魚、さらにカツオなど干した魚、野菜、クリやナツメなどの果実、塩、水などを自ら一品ずつ神にお供えされるんだ。
花子: 陛下がご自分でお供えするんですか?
伊勢: そうだよ。食物については天皇自ら、竹製の箸を使って器に盛りつけていく。冷暖房などもちろんなく、灯火だけの薄暗い中で、鮮魚の刺身などはひと切れずつ、果実などはひと粒ずつ盛りつけていくので、これだけで約1時間半もかかる。
花子: 1時間半も!それは大変ですね。
伊勢: 続いて天皇は拝礼し、「かしこみ、かしこみ~」といった、独特の宣命体という「お告文」、一般でいう祝詞(のりと)だけど、それを読み上げる。その内容は、収穫への感謝と、今後も豊作であることを願うことだ。その後、天皇もご飯と酒を召し上がる。
花子: それで終わりですか?
伊勢: いや、この計約2時間の祭儀が「夕の儀」と呼ばれるもので、新嘗祭では、この後、さらに同日午後11時からまったく同様の祭儀が「暁の儀」としてもう一度行われる。
花子: えっ、2回もするんですか? 真夜中に?
伊勢: そうだ。関係者によると、天皇陛下は、新嘗祭の前には、神前に供える食物の順番や所作を確認するため、数回にわたって「リハーサル」を行われるほか、長時間の正座に慣れるため、住まいの御所で夜、テレビを見ながら正座の練習をされていたという。
花子: 正座の練習まで…陛下がそこまでされているなんて知りませんでした。私たちのために、そんなに大変なことをしてくださっているんですね。
伊勢: そうだね。これが天皇陛下の「祈り」の実態なんだ。我々国民の幸せを願って、このような厳しい祭祀を続けておられるんだよ。
■7.平成30年間で地球約15周半の行幸啓
伊勢: こういうお忙しい行事の合間を縫って、両陛下は地方にも行幸啓される。天皇のご訪問は行幸、皇后は行啓といい、お二人で行かれるのを行幸啓というんだ。そのうちの三つは三大行幸啓と呼ばれ、「全国植樹祭」「国民体育大会」「全国豊かな海づくり大会」だ。もう一つ、毎年、その年に日本で行われる大きな国際学会の開会式に出席し「お言葉」を述べられる。
それ以外にも、被災地のお見舞いも含めて、平成30年間での行幸啓は509回、47都道府県すべてに及び、国内移動距離約62万キロ、地球約15周半だ。年平均でも約17回、2万キロ、東京-大阪間の18往復分になる。
花子: 地球15周半って、すごい距離ですね!
伊勢: これに外国訪問が加わる。平成30年間での外国訪問は22回、48カ国・地域、1回で2週間程度だった。これだけ多くの国を訪問し、国際親善に努められたんだ。
花子: 式典や晩餐会のたびに、お言葉を述べられるんですよね。そういうお言葉はどう準備されるんですか?
伊勢: 式典でのお言葉は、主催者が原文を作り、宮内庁が内容をチェックするというかたちになっていて、さらに天皇が目を通し、場合によってはご自身の意向も盛り込んでいるようだ。国賓を迎えての宮中晩餐会のお言葉で、陛下が相手国を過去に訪問された際の思い出を盛り込まれるケースなどもよくある。
花子: 陛下ご自身も内容を考えられているんですね。
伊勢: そうだね。時にはお言葉を推敲されるため、深夜までパソコンに向かわれる、ということだ。
花子: 深夜まで!お言葉の準備にそんなに時間をかけられているんですか? 本当にお忙しい毎日を送られているんですね。
伊勢: さて、ここで冒頭の「男女平等」の話に戻ろう。花子ちゃんが、もし皇室の第一子に生まれたとして、天皇として、これだけのお仕事を一生、こなし続けることができるかな?
国連女性差別撤廃委員会が指摘した「日本の皇位継承は男性に限られている現行の皇室典範を改正し、男女平等にすべき」という意見に対して、この「国際派日本人養成講座」の皆さんは、どう考えられるのか、ぜひご意見を聞かせていただければ、と思う。このメールへの返信で、ご意見をお寄せください。
(文責 伊勢雅臣)
■リンク■
・テーマ・マガジン「皇室の祈り ~ 皇室について知ろう、考えよう」
世界最古の日本皇室。長い風雪に耐えて、続いてきた皇室について史実を知り、考えよう。
https://note.com/jog_jp/m/mabf55a887598
・JOG(462) 皇位継承 ~ 聖なる義務の世襲
国家の中心には、ひたすら国民の安寧と国家の繁栄を祈り続ける方が必要である。
https://note.com/jog_jp/n/n9f7c66c2575d?magazine_key=mabf55a887598
・JOG(427) 皇室という「お仕事」~ 紀宮さまの語る両陛下の歩み
「物心ついた頃から、いわゆる両親が共働きの生活の中にあり、、、」
https://note.com/jog_jp/n/n6f4310d92d42?magazine_key=mabf55a887598
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
→アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
・山本雅人『天皇陛下の全仕事』★★★、講談社現代新書、H21
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4062879778/japanontheg01-22/
■前号「歴史教育最前線(0) 歴史教育のあるべき姿 ~ 実証性と共感性を持つ「来歴」の学びを」へのおたより
■自分の歩んできた道と重なる思い(真一さん)
今回のメルマガで取り上げておられた「第2世代のゾンビたち」による教科書の問題について、まさに自分の歩んできた道と重なる思いで拝読しました。先生がご指摘の「昭和53年を境に、日本を悪として描く教科書が主流になった」というくだりに、私自身の記憶が鮮明に呼び起こされました。
私が小学校低学年だった昭和53年前後、年配の先生が「昔、ある山の上で天皇が日本の始まりを宣言された」という話を聞かせてくれたことを、今でも温かい記憶として覚えています。あの頃は建国神話という意識もなく、ただ「不思議で面白い話だな」と感じていただけでしたが、今にして思えば、あの先生は日本の来歴を私たちに伝えようとされていたのだと気づかされます。
ところが、学年が上がるにつれ、先生方の口からは「昔から日本は駄目だった」「日本なんて所詮こんな国」といった言葉が多く聞かれるようになりました。これは学校に限らず、当時のテレビや新聞、社会全体がそうした空気に包まれていたように思います。
私自身もいつしかそうした価値観に染まり、中学・高校時代には近現代史を学ぶことが苦痛となり、自国の歴史から目を背けるようになっていきました。
しかし、時代の流れと共に世の中の空気が変わり始めたのを肌で感じたのが、ここ10年ほどのことです。少しずつ歴史に関心を取り戻し、ようやく『古事記』に目を通し、あの幼き日に聞いた話の意味を理解できるようになりました。恥ずかしながら、それもごく最近のことです。
今、私は学習塾を運営し、日々子供たちに勉強を教える立場にあります。時には、日本神話のエピソードや、JOGで学んだ先人たちの生き様を話して聞かせることもあります。
私の語る言葉が子供たちの心にどれだけ届いているかは分かりませんが、かつて老先生が私たちに語ってくださった思いを、今度は私が感謝とともに次の世代へと手渡していければ??そんな願いを胸に、日々の仕事に取り組んでいます。
■伊勢雅臣より
教科書の急旋回にしたがって、教師たちも同様に変わっていったのですね。
このように急旋回した結果が今なら、それをもとに戻すことも同様にできるはずだと思いました。
■JOG(1430) 「富岡製糸場と吉田松陰形見の短刀」へのおたより
■世界初のハイブリッド品種を実用化した外山亀太郎博士の功績(和光さん)
私の住む桑山、昔の桑山村、文字のとおり桑畑が多く養蚕がたいへん盛んでした。我が家も養蚕を行っていました、太平洋戦争に突入し食糧増産の大号令のかかるまでは。
「育種学」の教科書には世界で初めてF1品種(異なる2つの親品種を交配させて得られる雑種第一代)を実用化したのはアメリカ人がトウモロコシで、などと書かれていますがとんでもない。「生物学」の教科書には外山亀太郎はメンデルの遺伝の法則を追認した、と書かれている場合もあるようですが、彼の偉大さは何と言っても世界初のF1品種開発でしょう。
優れた品種が急速に全国に普及したことで日本の養蚕業の発展に貢献したのです。蚕だけでなく、蚕の餌となる桑の品種改良も盛んに行われていたようです。今では蚕の餌だけでなく、機能性成分を含む優れた食品としても注目されているそうです。桑茶に適した品種などもあるようです。
■伊勢雅臣より
こうした方の縁の下の力持ち的なお仕事が、生糸貿易による明治日本経済の発展に貢献したのですね。
読者からのご意見・ご感想・ご質問をお待ちします。本号の内容に関係なくとも結構です。本誌への返信、ise.masaomi@gmail.com へのメール、あるいはブログのコメント欄に記入ください。
■編集後記
カムチャッカの地震で、津波警報が出され、当地の電車もバスも止まってしまいました。「たかが50センチの津波で大げさな」と思いましたが、よく調べてみると、普通の波と津波とは根本的に違っているようです。
普通の波:海面付近だけが動く
津波:海底から海面まで全ての海水が一体となって動く
「膝程度の高さ」と軽視されがちな50cmでも、実際には200kg相当の力で車や人を押し流す威力があるといいます。
https://trendailys.net/entry/tsunami-keiho-sawagisugiru-naze-2025
防災でも、こういう科学的な知識は重要ですね。
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